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いざ救出へ
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ネッドは生真面目な性格ゆえに、全てを自分一人で抱え込んでしまう嫌いがある。ただそれが度を越してしまえば、他人に迷惑を掛けまいと周りを拒絶してしまうのだった。メルの一発は、ある意味ネッドのそんな思い上がりを打ち砕く。
今はそんな事にこだわっている場合じゃない。しごく当然ではあるが、ネッドはようやく目が覚めた。
「ごめん、メル姉。シャミーを頼む。アリシアも、本当に大丈夫かい?」
自らの使い魔を信じないわけではないが、子供の頃からシャミーを知っているメルに比べれば、アリシアの決意を受け入れるのに、ネッドはまだ多少の葛藤があった。
「もちろんですわ!」
そんなネッドの心を見透かしたように、魔王の娘は努めて明るく返事をする。
数分後、メルが玄関ドアを開け、家の外へと歩き出す。暫くしてアリシアが続いた。
「何やってんのよ。さっさと行くわよ」
振り向いたメルが、アリシアを叱咤した。
「うるさいですわね。私には私の考えってものがありますのよ」
ギルマスの娘と魔王の娘が口論を始める。
「あんた、そんな事でネッドの役に立てると思ってるの?」
「当然よ。あなたに言われる筋合いはないですわ。……ところでさっきあなたの言ってた”この前の晩の事”って何ですの? まさか、抜け駆けしようとしたんじゃありませんわよね?」
「ふん、月がロマンチックに照らす晩だったわ。ネッドは私の手を優しく握ってくれて、二人の顔は息がかかるほど近づいたわ。どう、羨ましい?」
アリシアの嫉妬に、メルは少し得意になった。出来事の順番は違っているが、まぁウソをついているわけではない。
「なんですって? いけ好かない女だと思ったら、そうやってネッドを誘惑していますのね」
アリシアが、メルを指さした。
「だったら、どうだってのよ。使い魔風情が偉そうに言うんじゃないわ」
「はぁ~!? もう許せない。いつかの決着、ここで付けさせてもらいますわ!」
アリシアが魔法のナイフを取り出すと、その切っ先には黒紫色に光る野球ボールぐらいの塊が現れた。
「やるっての?」
メルの問いかけなど耳に入らぬとばかりに、アリシアはナイフを振り抜いた。暗黒球がメルの顔面目指して飛んでいく。間一髪、メルは顔を反らして、それを避けた。
黒紫色の火球は、メルの背後にある木の幹に勢い良くぶつかった。しかし聞こえてきたのは、木の皮が砕け散る音ではない。何とも不気味な唸り声だったのである。
「やった!?」
二人は一本の木の幹を凝視する。すると何もないと思われた樹木の前に、徐々に現れて来る奇妙な存在。
それはいっけん人間に見えるものの、顔の側面に大きな丸い目を付けた、まるでカメレオンのような魔物が、両ひざをついて苦しんでいる。アリシアの暗黒球を胸に喰らった魔物は、慌てて立ち上がり逃げようとするが、神速のメルの足にかなうはずもない。すぐに咽元に剣を当てられ、身動きが取れなくなった。
「もしかして、コイツが魔人ってヤツ?」
「話は、あとですわ」
メルの疑問を遮るように、アリシアは呪縛の魔法を魔人にかける。いばらのツルが何本も現れ、カメレオンを木の幹にしっかりと拘束した。
何とか束縛を逃れようとする魔人は体をくねらせるが、途端にいばらのロープは彼を無慈悲に締め付ける。カメレオンの化け物は、ギャッと鳴いたかと思うと失神してグッタリと頭を垂れた。
「あんた、えげつない魔法を使うわねぇ」
「ほっといて!」
メルの皮肉に閉口するアリシア。
「ネッド、もういいわよ」
メルがネッドを呼ぶと、彼は装備の入ったバッグを持って、玄関ドアから姿を現す。
これは彼らの計略であった。ネッドは、自分が見張られていると確信していた。よってこのままリュランのところへ行けば、その事を敵に知られる恐れがある。スパイの足の速さが分からない以上、そんなリスクを追うのはシャミーにとっても危険だと判断した三人は作戦を立てた。
ネッド程の実力者に、全く気配を悟られずに彼をずっと監視していた輩である。そいつは魔法を使って、自分の存在を消しているのに違いない。そこで二人は一芝居うち、その間にアリシアがその探知を行ったであった。悪魔は魔力に非常に親和性がある事から、その探知にも長けている。
「じゃぁ、みんな。お互いに全力を尽くそう」
立ち直ったネッドが檄を飛ばす。
カメレオン魔人をその場に残し、メル・アリシアのコンビとネッドは、二つの危うい命を救うため反対方向へと駆け出した。
今はそんな事にこだわっている場合じゃない。しごく当然ではあるが、ネッドはようやく目が覚めた。
「ごめん、メル姉。シャミーを頼む。アリシアも、本当に大丈夫かい?」
自らの使い魔を信じないわけではないが、子供の頃からシャミーを知っているメルに比べれば、アリシアの決意を受け入れるのに、ネッドはまだ多少の葛藤があった。
「もちろんですわ!」
そんなネッドの心を見透かしたように、魔王の娘は努めて明るく返事をする。
数分後、メルが玄関ドアを開け、家の外へと歩き出す。暫くしてアリシアが続いた。
「何やってんのよ。さっさと行くわよ」
振り向いたメルが、アリシアを叱咤した。
「うるさいですわね。私には私の考えってものがありますのよ」
ギルマスの娘と魔王の娘が口論を始める。
「あんた、そんな事でネッドの役に立てると思ってるの?」
「当然よ。あなたに言われる筋合いはないですわ。……ところでさっきあなたの言ってた”この前の晩の事”って何ですの? まさか、抜け駆けしようとしたんじゃありませんわよね?」
「ふん、月がロマンチックに照らす晩だったわ。ネッドは私の手を優しく握ってくれて、二人の顔は息がかかるほど近づいたわ。どう、羨ましい?」
アリシアの嫉妬に、メルは少し得意になった。出来事の順番は違っているが、まぁウソをついているわけではない。
「なんですって? いけ好かない女だと思ったら、そうやってネッドを誘惑していますのね」
アリシアが、メルを指さした。
「だったら、どうだってのよ。使い魔風情が偉そうに言うんじゃないわ」
「はぁ~!? もう許せない。いつかの決着、ここで付けさせてもらいますわ!」
アリシアが魔法のナイフを取り出すと、その切っ先には黒紫色に光る野球ボールぐらいの塊が現れた。
「やるっての?」
メルの問いかけなど耳に入らぬとばかりに、アリシアはナイフを振り抜いた。暗黒球がメルの顔面目指して飛んでいく。間一髪、メルは顔を反らして、それを避けた。
黒紫色の火球は、メルの背後にある木の幹に勢い良くぶつかった。しかし聞こえてきたのは、木の皮が砕け散る音ではない。何とも不気味な唸り声だったのである。
「やった!?」
二人は一本の木の幹を凝視する。すると何もないと思われた樹木の前に、徐々に現れて来る奇妙な存在。
それはいっけん人間に見えるものの、顔の側面に大きな丸い目を付けた、まるでカメレオンのような魔物が、両ひざをついて苦しんでいる。アリシアの暗黒球を胸に喰らった魔物は、慌てて立ち上がり逃げようとするが、神速のメルの足にかなうはずもない。すぐに咽元に剣を当てられ、身動きが取れなくなった。
「もしかして、コイツが魔人ってヤツ?」
「話は、あとですわ」
メルの疑問を遮るように、アリシアは呪縛の魔法を魔人にかける。いばらのツルが何本も現れ、カメレオンを木の幹にしっかりと拘束した。
何とか束縛を逃れようとする魔人は体をくねらせるが、途端にいばらのロープは彼を無慈悲に締め付ける。カメレオンの化け物は、ギャッと鳴いたかと思うと失神してグッタリと頭を垂れた。
「あんた、えげつない魔法を使うわねぇ」
「ほっといて!」
メルの皮肉に閉口するアリシア。
「ネッド、もういいわよ」
メルがネッドを呼ぶと、彼は装備の入ったバッグを持って、玄関ドアから姿を現す。
これは彼らの計略であった。ネッドは、自分が見張られていると確信していた。よってこのままリュランのところへ行けば、その事を敵に知られる恐れがある。スパイの足の速さが分からない以上、そんなリスクを追うのはシャミーにとっても危険だと判断した三人は作戦を立てた。
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「じゃぁ、みんな。お互いに全力を尽くそう」
立ち直ったネッドが檄を飛ばす。
カメレオン魔人をその場に残し、メル・アリシアのコンビとネッドは、二つの危うい命を救うため反対方向へと駆け出した。
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