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リュラン立つ
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「へぇ、それが深紅の騎士か。あれっ、でもおかしいなぁ。俺がネッドに聞いた話じゃ、兜はもっと長くて、黄金の角は両肩についてるって事だっだけどな」
リュランの前に現れた深紅の騎士は、ネッドとの戦いで半分に切られた兜に蓋をして、応急処置を施したものを被っており、また肩の角も失った半分はそのままであった。
「へらず口を!」
ゴワドンが、二刀の太刀を振るい鋭くリュランに迫る。その剣が彼の首元を捉えると思われた時、そこにリュランの姿はなかった。
「なに?」
一瞬、リュランの居場所を見失う深紅の騎士。だが、すぐに右から剣を抜いた敵が駆けて来る。ゴワドンは咄嗟に電撃を発し、牽制したが、片側の肩からしか放てぬ電撃は容易にリュランに避けられた。
「見くびって貰っちゃ困るな。そんなヘナチョコ電撃に当たってたまるかよ。諜報活動には、早い足が必要だって知らないのか」
狙い撃ちされないように、ジグザグに移動するリュランが軽口をたたく。
「なるほど、逃げ足だけは早いわけか。しかしな、逃げるだけじゃ勝てないぞ。それにそんな細身の剣では、この鎧に傷一つ付けられまい」
ゴワドンは、電撃を撃ちながらリュランと並行して疾走する。
「そいつぁあ、どうかな」
リュランはスピードを一速あげた。途端に彼の体はゴワドンの間近に迫る。
「くっ!」
彼の速さについてこれないゴワドンが、思わず二振りの剣を交差させ、彼の剣を受け止めたが、リュランは速やかに細身の武器を今度は敵の脇腹へと打ち込んだ。
「だから、そんなものでは切れな……」
そう言いかけたゴワドンの体は、剣が当たったところを中心に大きくクの字に曲がる。そのままフッ飛んで、樹木に打ちすえられる深紅の騎士。
「ぐっ……、き、貴様、何をした?」
ゴワドンは脇腹を手で押さえ、剣を地面に突き立てようやく片膝立ちになる。その声は、激しい痛みに震えていた。
「あぁ、これね。ネッドが機能付加してくれたアイテムでね。敵に打ちつけた瞬間、任意で打撃の方向へ強力な重力が働くんだ。剣の重さを遥かに超える重力がさ。グラビティなんとかって魔物の魂石を使うらしいぜ。
つまりあんたは今、ガタイのいい戦士が渾身の力で大剣を振るった時と同じダメージを喰らったんだよ」
鎧は、普通の剣では切る事が出来ない。よって重い剣を大きな力で鎧に叩きつけ、その中にある肉や骨を砕くのが常套手段となっている。だが、大剣は重く、振り回すのにも隙が出来やすい。しかしリュランの剣は普段は軽く、打ち込む時だけ大剣と同じ効果を得るのである。元々、素早い動きを得意とするリュランが持てば、正に鬼に金棒であった。
「タネを明かしてしまっていいのかい? それとも、私をなめているのかな」
ゴワドンの言い分はもっともだが、リュランはそれを百も承知で打ち明けたのだ。敵に勝ち目のない事を悟らせて、負けを認めるように……。リュランの第一目的は捕縛であった。彼からすれば、秘密を明かすのも一つの作戦である。
「もう、降参しろ、ゴワドン」
剣をバックハンドに構え、反逆者を見下ろすリュラン。
「出来んな」
樹木を背に立ち上がったゴワドンは、再び電撃を発した。
「無駄な事はやめろ」
だが華麗に雷を避け続けるリュランの目が、森の彼方から急速に近づく炎を捉える。
「ちっ! やっぱり来たか」
その炎の塊は、すぐにリュランとさほど離れていない場所へと到達した。その姿を確認したゴワドンは、高らかに宣言する。
「紹介しよう。彼が私の最高傑作”炎の魔人”だ」
誇らしげなゴワドンの声が森に響いた。
「任務は、果たしたか」
ゴワドンの問いに魔人が頷く。だが魔人は心なしか、苦しんでいるようにも見えた。ネッドに負わされた足の傷が癒えていないのだろうか。
「任務? 任務って何だ?」
「わからんのかね? 君は、ここへ一人で来たわけじゃないだろう? まぁ、君への伝文には単身で来るように書いたが、こちらも君がバカ正直にそれを守るとは思っていない。
君が期待する部下たちは、今頃、黄泉の国へと進軍しているだろうよ」
ゴワドンの勝ち誇った演説を聞きながら、リュランは唇を噛んだ。
リュランの前に現れた深紅の騎士は、ネッドとの戦いで半分に切られた兜に蓋をして、応急処置を施したものを被っており、また肩の角も失った半分はそのままであった。
「へらず口を!」
ゴワドンが、二刀の太刀を振るい鋭くリュランに迫る。その剣が彼の首元を捉えると思われた時、そこにリュランの姿はなかった。
「なに?」
一瞬、リュランの居場所を見失う深紅の騎士。だが、すぐに右から剣を抜いた敵が駆けて来る。ゴワドンは咄嗟に電撃を発し、牽制したが、片側の肩からしか放てぬ電撃は容易にリュランに避けられた。
「見くびって貰っちゃ困るな。そんなヘナチョコ電撃に当たってたまるかよ。諜報活動には、早い足が必要だって知らないのか」
狙い撃ちされないように、ジグザグに移動するリュランが軽口をたたく。
「なるほど、逃げ足だけは早いわけか。しかしな、逃げるだけじゃ勝てないぞ。それにそんな細身の剣では、この鎧に傷一つ付けられまい」
ゴワドンは、電撃を撃ちながらリュランと並行して疾走する。
「そいつぁあ、どうかな」
リュランはスピードを一速あげた。途端に彼の体はゴワドンの間近に迫る。
「くっ!」
彼の速さについてこれないゴワドンが、思わず二振りの剣を交差させ、彼の剣を受け止めたが、リュランは速やかに細身の武器を今度は敵の脇腹へと打ち込んだ。
「だから、そんなものでは切れな……」
そう言いかけたゴワドンの体は、剣が当たったところを中心に大きくクの字に曲がる。そのままフッ飛んで、樹木に打ちすえられる深紅の騎士。
「ぐっ……、き、貴様、何をした?」
ゴワドンは脇腹を手で押さえ、剣を地面に突き立てようやく片膝立ちになる。その声は、激しい痛みに震えていた。
「あぁ、これね。ネッドが機能付加してくれたアイテムでね。敵に打ちつけた瞬間、任意で打撃の方向へ強力な重力が働くんだ。剣の重さを遥かに超える重力がさ。グラビティなんとかって魔物の魂石を使うらしいぜ。
つまりあんたは今、ガタイのいい戦士が渾身の力で大剣を振るった時と同じダメージを喰らったんだよ」
鎧は、普通の剣では切る事が出来ない。よって重い剣を大きな力で鎧に叩きつけ、その中にある肉や骨を砕くのが常套手段となっている。だが、大剣は重く、振り回すのにも隙が出来やすい。しかしリュランの剣は普段は軽く、打ち込む時だけ大剣と同じ効果を得るのである。元々、素早い動きを得意とするリュランが持てば、正に鬼に金棒であった。
「タネを明かしてしまっていいのかい? それとも、私をなめているのかな」
ゴワドンの言い分はもっともだが、リュランはそれを百も承知で打ち明けたのだ。敵に勝ち目のない事を悟らせて、負けを認めるように……。リュランの第一目的は捕縛であった。彼からすれば、秘密を明かすのも一つの作戦である。
「もう、降参しろ、ゴワドン」
剣をバックハンドに構え、反逆者を見下ろすリュラン。
「出来んな」
樹木を背に立ち上がったゴワドンは、再び電撃を発した。
「無駄な事はやめろ」
だが華麗に雷を避け続けるリュランの目が、森の彼方から急速に近づく炎を捉える。
「ちっ! やっぱり来たか」
その炎の塊は、すぐにリュランとさほど離れていない場所へと到達した。その姿を確認したゴワドンは、高らかに宣言する。
「紹介しよう。彼が私の最高傑作”炎の魔人”だ」
誇らしげなゴワドンの声が森に響いた。
「任務は、果たしたか」
ゴワドンの問いに魔人が頷く。だが魔人は心なしか、苦しんでいるようにも見えた。ネッドに負わされた足の傷が癒えていないのだろうか。
「任務? 任務って何だ?」
「わからんのかね? 君は、ここへ一人で来たわけじゃないだろう? まぁ、君への伝文には単身で来るように書いたが、こちらも君がバカ正直にそれを守るとは思っていない。
君が期待する部下たちは、今頃、黄泉の国へと進軍しているだろうよ」
ゴワドンの勝ち誇った演説を聞きながら、リュランは唇を噛んだ。
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