騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
113 / 153

敗北感

しおりを挟む
それは、魂石職人が必ずと言っていいほど身につけている、魔よけのペンダントであった。だが、眼前を通り過ぎて行く捕らわれ人たちは、誰一人としてそれをしていなかったのである。

こいつらは、偽物だ。ネッドは確信した。でも、何故こんな事を……。

”道を開けろ。そこ、邪魔だ!”

人ごみの後ろの方が騒がしい。ネッドが振り返ると、戦士や役人たちの集団に守られて、一人の男が冒険者の群れの中心に進み出た。

ゴワドン侯爵である。

彼は急ごしらえの台の上に立ち、拡声魔法のかかったアイテムを前に話し出す。

「冒険者、諸君! 今回、皆に協力してもらったリルゴットの森の探索は、ここに成功した。よって、今現在をもって探索は終了とする。各々ギルド館へ戻って、本日の報酬を受け取ってくれ。まだ昼前だが、報酬は一日分全額が支払われる事を約束しよう」

冒険者たちの不安を見透かしたように、ゴワドン侯爵は高らかに宣言した。彼らは、安堵や喜びの声をあげ、パラパラと森の入口へと散らばっていく。

解せない。いや、解せないどころの話じゃない。

ネッドは、この結末に全く納得していなかった。偽の精製職人の件もあったが、魔人はどうなったのだ。深紅の騎士は? 魔石を使った実験は?

これは、仕組まれた解決に違いない。

ネッドはそう確信したが、この場でそれを声高に言うわけにもいかない。証拠は、何一つないのである。また冒険者たちの心は既に探索を終えており、聞く耳など微塵も持ち合わせてはいないだろう。

これで終わり、本当に終わりなのか?

疑惑の渦にさいなまれながらも、ネッドは森を出るしかなかった。途中の茂みでミミックの面を外し、集団に揉まれながら彼はギルド館へと吸いこまれる。そこでは探索の終了をあらかじめ知っていたかのように、冒険者たちへの報酬がもれなく用意され、皆、満面の笑みでそれを受け取った。

そして任務を終えた彼らに、更なる果報がもたらされる。探索の無事完了を祝って、領主主催の祝賀会が、ギルド館のロビーを始め、街の幾つかの酒場で行われる事が伝達されたのだ。歓喜に沸き立つ冒険者たち。これで”探索は終わった。事件は無事解決した”事が決定的に印象づけられるだろう。

人目があるこの時間から秘密の部屋へ行く事など出来るはずもなく、ネッドは報酬を受取り家路へとついた。

「あら、早かったじゃない。どうしたのよ? まさかサボって帰って来たんじゃないでしょうね」

帰宅早々、シャミーに疑惑の目を向けられたネッドだが、一日分の報酬を渡すと彼女の機嫌はたちまち直り、ご苦労様とねぎらいの言葉さえかけて貰う。だがネッドはそれを上の空で聞き流し、自室のベッドへと倒れ込んだ。

僕の負けなのか。

ゴワドン侯爵が、あれほど鮮やかな演出をしたという事は、既に森には何もないのだろう。これから一人で森へ行っても意味がないと、ネッドは寝床の上で丸まった。

どれくらい時間が経ったろうか。そのまま寝入ってしまったネッドが目を覚ます。窓の外は既に薄暗く、時計を見ると祝賀会の時間が迫っていた。ネッドはとても祝う気持ちにはなれなかったが、ギルド館で伯父に”是非、参加してくれ”と声を掛けられたのを思い出し、重い腰をあげ身支度をする。

「あれ? また出かけるの?」

シャミーの問いに、祝賀会の話を伝えるネッド。

「ちぇっ、お兄ちゃんだけズルいなぁ。まぁ、でも私が行っても酔っ払い連中に揉みくちゃにされるだけだろうから、お兄ちゃん、楽しんできて」

シャミーの聞き分けがいいのは、多分、僕の食事代が一食分うくからなんだろうなと思いつつ、ネッドは一人ギルド館へと急いだ。

そうだ、リュラン。リュランは、どうするのだろうか。あいつも結局は、ゴワドン侯爵の尻尾をつかめずに終わるのか?

そんな事を考えている内に、ネッドはギルド館の前に立っていた。もう既に、中には多くの冒険者が集まっており、正にその場は祝賀ムード一色となっている。

祝宴開始のセレモニーとして、まずギルドマスターの挨拶が始まった。

冒険者たちに、心からの謝意を述べる伯父、ガント・ライザー。彼の胸中は如何ばかりであろうか。事件はまだ何も解決していない事を知った上での虚しい演説。せめてもの救いは、冒険者たちに重傷のケガ人や死者が出なかった事であろう。ネッドは、複雑な心境で伯父の言葉に耳を傾けた。

そして次に登壇したのは、ゴワドン侯爵であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

ゴブリンに棍棒で頭を殴られた蛇モンスターは前世の記憶を取り戻す。すぐ死ぬのも癪なので頑張ってたら何か大変な事になったっぽい

竹井ゴールド
ファンタジー
ゴブリンに攻撃された哀れな蛇モンスターのこのオレは、ダメージのショックで蛇生辰巳だった時の前世の記憶を取り戻す。 あれ、オレ、いつ死んだんだ? 別にトラックにひかれてないんだけど? 普通に眠っただけだよな? ってか、モンスターに転生って? それも蛇って。 オレ、前世で何にも悪い事してないでしょ。 そもそも高校生だったんだから。 断固やり直しを要求するっ! モンスターに転生するにしても、せめて悪魔とか魔神といった人型にしてくれよな〜。 蛇って。 あ〜あ、テンションがダダ下がりなんだけど〜。 ってか、さっきからこのゴブリン、攻撃しやがって。 オレは何もしてないだろうが。 とりあえずおまえは倒すぞ。 ってな感じで、すぐに死ぬのも癪だから頑張ったら、どんどん大変な事になっていき・・・

処理中です...