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敗北感
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それは、魂石職人が必ずと言っていいほど身につけている、魔よけのペンダントであった。だが、眼前を通り過ぎて行く捕らわれ人たちは、誰一人としてそれをしていなかったのである。
こいつらは、偽物だ。ネッドは確信した。でも、何故こんな事を……。
”道を開けろ。そこ、邪魔だ!”
人ごみの後ろの方が騒がしい。ネッドが振り返ると、戦士や役人たちの集団に守られて、一人の男が冒険者の群れの中心に進み出た。
ゴワドン侯爵である。
彼は急ごしらえの台の上に立ち、拡声魔法のかかったアイテムを前に話し出す。
「冒険者、諸君! 今回、皆に協力してもらったリルゴットの森の探索は、ここに成功した。よって、今現在をもって探索は終了とする。各々ギルド館へ戻って、本日の報酬を受け取ってくれ。まだ昼前だが、報酬は一日分全額が支払われる事を約束しよう」
冒険者たちの不安を見透かしたように、ゴワドン侯爵は高らかに宣言した。彼らは、安堵や喜びの声をあげ、パラパラと森の入口へと散らばっていく。
解せない。いや、解せないどころの話じゃない。
ネッドは、この結末に全く納得していなかった。偽の精製職人の件もあったが、魔人はどうなったのだ。深紅の騎士は? 魔石を使った実験は?
これは、仕組まれた解決に違いない。
ネッドはそう確信したが、この場でそれを声高に言うわけにもいかない。証拠は、何一つないのである。また冒険者たちの心は既に探索を終えており、聞く耳など微塵も持ち合わせてはいないだろう。
これで終わり、本当に終わりなのか?
疑惑の渦にさいなまれながらも、ネッドは森を出るしかなかった。途中の茂みでミミックの面を外し、集団に揉まれながら彼はギルド館へと吸いこまれる。そこでは探索の終了をあらかじめ知っていたかのように、冒険者たちへの報酬がもれなく用意され、皆、満面の笑みでそれを受け取った。
そして任務を終えた彼らに、更なる果報がもたらされる。探索の無事完了を祝って、領主主催の祝賀会が、ギルド館のロビーを始め、街の幾つかの酒場で行われる事が伝達されたのだ。歓喜に沸き立つ冒険者たち。これで”探索は終わった。事件は無事解決した”事が決定的に印象づけられるだろう。
人目があるこの時間から秘密の部屋へ行く事など出来るはずもなく、ネッドは報酬を受取り家路へとついた。
「あら、早かったじゃない。どうしたのよ? まさかサボって帰って来たんじゃないでしょうね」
帰宅早々、シャミーに疑惑の目を向けられたネッドだが、一日分の報酬を渡すと彼女の機嫌はたちまち直り、ご苦労様とねぎらいの言葉さえかけて貰う。だがネッドはそれを上の空で聞き流し、自室のベッドへと倒れ込んだ。
僕の負けなのか。
ゴワドン侯爵が、あれほど鮮やかな演出をしたという事は、既に森には何もないのだろう。これから一人で森へ行っても意味がないと、ネッドは寝床の上で丸まった。
どれくらい時間が経ったろうか。そのまま寝入ってしまったネッドが目を覚ます。窓の外は既に薄暗く、時計を見ると祝賀会の時間が迫っていた。ネッドはとても祝う気持ちにはなれなかったが、ギルド館で伯父に”是非、参加してくれ”と声を掛けられたのを思い出し、重い腰をあげ身支度をする。
「あれ? また出かけるの?」
シャミーの問いに、祝賀会の話を伝えるネッド。
「ちぇっ、お兄ちゃんだけズルいなぁ。まぁ、でも私が行っても酔っ払い連中に揉みくちゃにされるだけだろうから、お兄ちゃん、楽しんできて」
シャミーの聞き分けがいいのは、多分、僕の食事代が一食分うくからなんだろうなと思いつつ、ネッドは一人ギルド館へと急いだ。
そうだ、リュラン。リュランは、どうするのだろうか。あいつも結局は、ゴワドン侯爵の尻尾をつかめずに終わるのか?
そんな事を考えている内に、ネッドはギルド館の前に立っていた。もう既に、中には多くの冒険者が集まっており、正にその場は祝賀ムード一色となっている。
祝宴開始のセレモニーとして、まずギルドマスターの挨拶が始まった。
冒険者たちに、心からの謝意を述べる伯父、ガント・ライザー。彼の胸中は如何ばかりであろうか。事件はまだ何も解決していない事を知った上での虚しい演説。せめてもの救いは、冒険者たちに重傷のケガ人や死者が出なかった事であろう。ネッドは、複雑な心境で伯父の言葉に耳を傾けた。
そして次に登壇したのは、ゴワドン侯爵であった。
こいつらは、偽物だ。ネッドは確信した。でも、何故こんな事を……。
”道を開けろ。そこ、邪魔だ!”
人ごみの後ろの方が騒がしい。ネッドが振り返ると、戦士や役人たちの集団に守られて、一人の男が冒険者の群れの中心に進み出た。
ゴワドン侯爵である。
彼は急ごしらえの台の上に立ち、拡声魔法のかかったアイテムを前に話し出す。
「冒険者、諸君! 今回、皆に協力してもらったリルゴットの森の探索は、ここに成功した。よって、今現在をもって探索は終了とする。各々ギルド館へ戻って、本日の報酬を受け取ってくれ。まだ昼前だが、報酬は一日分全額が支払われる事を約束しよう」
冒険者たちの不安を見透かしたように、ゴワドン侯爵は高らかに宣言した。彼らは、安堵や喜びの声をあげ、パラパラと森の入口へと散らばっていく。
解せない。いや、解せないどころの話じゃない。
ネッドは、この結末に全く納得していなかった。偽の精製職人の件もあったが、魔人はどうなったのだ。深紅の騎士は? 魔石を使った実験は?
これは、仕組まれた解決に違いない。
ネッドはそう確信したが、この場でそれを声高に言うわけにもいかない。証拠は、何一つないのである。また冒険者たちの心は既に探索を終えており、聞く耳など微塵も持ち合わせてはいないだろう。
これで終わり、本当に終わりなのか?
疑惑の渦にさいなまれながらも、ネッドは森を出るしかなかった。途中の茂みでミミックの面を外し、集団に揉まれながら彼はギルド館へと吸いこまれる。そこでは探索の終了をあらかじめ知っていたかのように、冒険者たちへの報酬がもれなく用意され、皆、満面の笑みでそれを受け取った。
そして任務を終えた彼らに、更なる果報がもたらされる。探索の無事完了を祝って、領主主催の祝賀会が、ギルド館のロビーを始め、街の幾つかの酒場で行われる事が伝達されたのだ。歓喜に沸き立つ冒険者たち。これで”探索は終わった。事件は無事解決した”事が決定的に印象づけられるだろう。
人目があるこの時間から秘密の部屋へ行く事など出来るはずもなく、ネッドは報酬を受取り家路へとついた。
「あら、早かったじゃない。どうしたのよ? まさかサボって帰って来たんじゃないでしょうね」
帰宅早々、シャミーに疑惑の目を向けられたネッドだが、一日分の報酬を渡すと彼女の機嫌はたちまち直り、ご苦労様とねぎらいの言葉さえかけて貰う。だがネッドはそれを上の空で聞き流し、自室のベッドへと倒れ込んだ。
僕の負けなのか。
ゴワドン侯爵が、あれほど鮮やかな演出をしたという事は、既に森には何もないのだろう。これから一人で森へ行っても意味がないと、ネッドは寝床の上で丸まった。
どれくらい時間が経ったろうか。そのまま寝入ってしまったネッドが目を覚ます。窓の外は既に薄暗く、時計を見ると祝賀会の時間が迫っていた。ネッドはとても祝う気持ちにはなれなかったが、ギルド館で伯父に”是非、参加してくれ”と声を掛けられたのを思い出し、重い腰をあげ身支度をする。
「あれ? また出かけるの?」
シャミーの問いに、祝賀会の話を伝えるネッド。
「ちぇっ、お兄ちゃんだけズルいなぁ。まぁ、でも私が行っても酔っ払い連中に揉みくちゃにされるだけだろうから、お兄ちゃん、楽しんできて」
シャミーの聞き分けがいいのは、多分、僕の食事代が一食分うくからなんだろうなと思いつつ、ネッドは一人ギルド館へと急いだ。
そうだ、リュラン。リュランは、どうするのだろうか。あいつも結局は、ゴワドン侯爵の尻尾をつかめずに終わるのか?
そんな事を考えている内に、ネッドはギルド館の前に立っていた。もう既に、中には多くの冒険者が集まっており、正にその場は祝賀ムード一色となっている。
祝宴開始のセレモニーとして、まずギルドマスターの挨拶が始まった。
冒険者たちに、心からの謝意を述べる伯父、ガント・ライザー。彼の胸中は如何ばかりであろうか。事件はまだ何も解決していない事を知った上での虚しい演説。せめてもの救いは、冒険者たちに重傷のケガ人や死者が出なかった事であろう。ネッドは、複雑な心境で伯父の言葉に耳を傾けた。
そして次に登壇したのは、ゴワドン侯爵であった。
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