112 / 153
意外な幕切れ
しおりを挟む
「さぁ、泣いても笑っても、これが最後だ」
ネッドは自らを鼓舞するように、森の最深部へと進む。だがそこで、彼が全く予期していない事態が起った。
ドーン、ドーン、ドーン。
突然、大きな音が森中に鳴り響く。それは一度や二度ではなく、探索をしている冒険者全員が聞き漏らさぬよう、何回も何回も連続して鳴った。
「これは、探索終了の合図?」
ネッドは、自分の耳を疑う。
だが確かにこれは、探索の終了を知らせる花火の音だった。広い森のどこにいても聞こえるように、こういった手段が取られる事になっていたのだ。
森の探索は危険が伴う。既に探索の目的が達せられたのにもかかわらず、無駄に危ない行動をするのは愚の骨頂である。それを防ぐ目的の為、このやり方は参加者の皆に周知されていた。
ネッドは、混乱した。探索の目的が達せられたとはどういう意味だ。僕は、敵の真のアジトはおろか、謎を解明する発見をまだしていないのに……。魔人すら、現れていないではないか。
「おい、あっちの方で、何かあったらしいぞ」
ネッドから少し離れた所を、冒険者が通り過ぎる。彼はそのまま茂みに身を潜め様子を伺っていたが、何やら辺りが段々と騒がしくなってきた。更に多くの冒険者が駆け足で森の奥へと入り込み、逆に王都側の伝令と思われる者が森の外へと駆けて行く。
ネッドは冒険者に交じり、人々が向かう先へと歩を進めた。十五分ほど早足で歩いたろうか。割とひらけた場所に少し大きな建物があり、その周りには既に人だかりが出来ていた。混乱を避けるため、王都側の人間が集まった冒険者の整理をしている有様のようだ。
「何が、起こったんですか?」
ネッドは前に進み出て、野次馬の一人に事情を聞いた。
「あぁ、それがさ……」
その冒険者が語った話は、およそ次の通りである。
探索開始をして間もなくの事、王都から派遣された戦士や魔法使いの一団が魔物の群れと遭遇した。魔物は通常よりも強い力を持っており彼らを苦しめたがやがて逃走を始める。
これは怪しいと思った討伐者が魔物を追っていくと、見るからに胡散臭い建物があり、魔物どもはその周囲に固まっていたらしい。戦士と魔法使いは、ことごとく敵を葬り去ってから建物を調べたところ、中には大量の不良魔石があって、そばには複数の魔石の精製職人がいたという。
何故、このような森の奥にいるのか問い詰めた結果、職人どもは以前より不良魔石を大量に森へと不法投棄していたが、魔石から放出される魔力目当てにモンスターが集まって来てしまい、どうにも動きが取れなくなってしまったという事だった。
……そんなバカな。
ネッドはその話を、全く信じられなかった。かつてリュランへ話したように、不良魔石は幾らでも簡単に処理出来てしまう。わざわざ、森の奥へ運び込む理由など存在しない。
「おぉっ、あれがその不法投棄の一味らしいぞ」
ネッドに情報を教えてくれた冒険者が、建物の方から出て来る数名の男たちを指さした。彼らは既に手かせをはめられ、王都側の戦士たちに連行されている。
彼らは僕が森で出会った、グールに襲われていた男たちの仲間なのか? だが、それはおかしい。僕が今わの際に立ち会った職人は”騙された”と言っていた。そして恐らくは、口封じのために殺されたのだろう。では、目の前にいる彼らは、なぜ”生きている”のだろうか?
囚人たちが、ネッドの目の前を通る。その様子を間近で見ていたネッドは違和感を覚えた。魔石の精製職人は実入りの良い商売とは言えず、彼らの生活は楽ではない。実際、ネッドが森で出会った連中は、着古したものを身につけていたし、血色もいいとは言えなかった。
だが今、目の前を通る者達の服は小ぎれいで、丸々太っているとは言わないが、充分な食事をとっている事が容易に想像できるほど肌艶も良い。
あっ!
そしてネッドは、決定的な事に気が付いた。あるはずの物がないのである。
ネッドは自らを鼓舞するように、森の最深部へと進む。だがそこで、彼が全く予期していない事態が起った。
ドーン、ドーン、ドーン。
突然、大きな音が森中に鳴り響く。それは一度や二度ではなく、探索をしている冒険者全員が聞き漏らさぬよう、何回も何回も連続して鳴った。
「これは、探索終了の合図?」
ネッドは、自分の耳を疑う。
だが確かにこれは、探索の終了を知らせる花火の音だった。広い森のどこにいても聞こえるように、こういった手段が取られる事になっていたのだ。
森の探索は危険が伴う。既に探索の目的が達せられたのにもかかわらず、無駄に危ない行動をするのは愚の骨頂である。それを防ぐ目的の為、このやり方は参加者の皆に周知されていた。
ネッドは、混乱した。探索の目的が達せられたとはどういう意味だ。僕は、敵の真のアジトはおろか、謎を解明する発見をまだしていないのに……。魔人すら、現れていないではないか。
「おい、あっちの方で、何かあったらしいぞ」
ネッドから少し離れた所を、冒険者が通り過ぎる。彼はそのまま茂みに身を潜め様子を伺っていたが、何やら辺りが段々と騒がしくなってきた。更に多くの冒険者が駆け足で森の奥へと入り込み、逆に王都側の伝令と思われる者が森の外へと駆けて行く。
ネッドは冒険者に交じり、人々が向かう先へと歩を進めた。十五分ほど早足で歩いたろうか。割とひらけた場所に少し大きな建物があり、その周りには既に人だかりが出来ていた。混乱を避けるため、王都側の人間が集まった冒険者の整理をしている有様のようだ。
「何が、起こったんですか?」
ネッドは前に進み出て、野次馬の一人に事情を聞いた。
「あぁ、それがさ……」
その冒険者が語った話は、およそ次の通りである。
探索開始をして間もなくの事、王都から派遣された戦士や魔法使いの一団が魔物の群れと遭遇した。魔物は通常よりも強い力を持っており彼らを苦しめたがやがて逃走を始める。
これは怪しいと思った討伐者が魔物を追っていくと、見るからに胡散臭い建物があり、魔物どもはその周囲に固まっていたらしい。戦士と魔法使いは、ことごとく敵を葬り去ってから建物を調べたところ、中には大量の不良魔石があって、そばには複数の魔石の精製職人がいたという。
何故、このような森の奥にいるのか問い詰めた結果、職人どもは以前より不良魔石を大量に森へと不法投棄していたが、魔石から放出される魔力目当てにモンスターが集まって来てしまい、どうにも動きが取れなくなってしまったという事だった。
……そんなバカな。
ネッドはその話を、全く信じられなかった。かつてリュランへ話したように、不良魔石は幾らでも簡単に処理出来てしまう。わざわざ、森の奥へ運び込む理由など存在しない。
「おぉっ、あれがその不法投棄の一味らしいぞ」
ネッドに情報を教えてくれた冒険者が、建物の方から出て来る数名の男たちを指さした。彼らは既に手かせをはめられ、王都側の戦士たちに連行されている。
彼らは僕が森で出会った、グールに襲われていた男たちの仲間なのか? だが、それはおかしい。僕が今わの際に立ち会った職人は”騙された”と言っていた。そして恐らくは、口封じのために殺されたのだろう。では、目の前にいる彼らは、なぜ”生きている”のだろうか?
囚人たちが、ネッドの目の前を通る。その様子を間近で見ていたネッドは違和感を覚えた。魔石の精製職人は実入りの良い商売とは言えず、彼らの生活は楽ではない。実際、ネッドが森で出会った連中は、着古したものを身につけていたし、血色もいいとは言えなかった。
だが今、目の前を通る者達の服は小ぎれいで、丸々太っているとは言わないが、充分な食事をとっている事が容易に想像できるほど肌艶も良い。
あっ!
そしてネッドは、決定的な事に気が付いた。あるはずの物がないのである。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら
キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。
しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。
妹は、私から婚約相手を奪い取った。
いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。
流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。
そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。
それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。
彼は、後悔することになるだろう。
そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。
2人は、大丈夫なのかしら。
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる