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意外な幕切れ
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「さぁ、泣いても笑っても、これが最後だ」
ネッドは自らを鼓舞するように、森の最深部へと進む。だがそこで、彼が全く予期していない事態が起った。
ドーン、ドーン、ドーン。
突然、大きな音が森中に鳴り響く。それは一度や二度ではなく、探索をしている冒険者全員が聞き漏らさぬよう、何回も何回も連続して鳴った。
「これは、探索終了の合図?」
ネッドは、自分の耳を疑う。
だが確かにこれは、探索の終了を知らせる花火の音だった。広い森のどこにいても聞こえるように、こういった手段が取られる事になっていたのだ。
森の探索は危険が伴う。既に探索の目的が達せられたのにもかかわらず、無駄に危ない行動をするのは愚の骨頂である。それを防ぐ目的の為、このやり方は参加者の皆に周知されていた。
ネッドは、混乱した。探索の目的が達せられたとはどういう意味だ。僕は、敵の真のアジトはおろか、謎を解明する発見をまだしていないのに……。魔人すら、現れていないではないか。
「おい、あっちの方で、何かあったらしいぞ」
ネッドから少し離れた所を、冒険者が通り過ぎる。彼はそのまま茂みに身を潜め様子を伺っていたが、何やら辺りが段々と騒がしくなってきた。更に多くの冒険者が駆け足で森の奥へと入り込み、逆に王都側の伝令と思われる者が森の外へと駆けて行く。
ネッドは冒険者に交じり、人々が向かう先へと歩を進めた。十五分ほど早足で歩いたろうか。割とひらけた場所に少し大きな建物があり、その周りには既に人だかりが出来ていた。混乱を避けるため、王都側の人間が集まった冒険者の整理をしている有様のようだ。
「何が、起こったんですか?」
ネッドは前に進み出て、野次馬の一人に事情を聞いた。
「あぁ、それがさ……」
その冒険者が語った話は、およそ次の通りである。
探索開始をして間もなくの事、王都から派遣された戦士や魔法使いの一団が魔物の群れと遭遇した。魔物は通常よりも強い力を持っており彼らを苦しめたがやがて逃走を始める。
これは怪しいと思った討伐者が魔物を追っていくと、見るからに胡散臭い建物があり、魔物どもはその周囲に固まっていたらしい。戦士と魔法使いは、ことごとく敵を葬り去ってから建物を調べたところ、中には大量の不良魔石があって、そばには複数の魔石の精製職人がいたという。
何故、このような森の奥にいるのか問い詰めた結果、職人どもは以前より不良魔石を大量に森へと不法投棄していたが、魔石から放出される魔力目当てにモンスターが集まって来てしまい、どうにも動きが取れなくなってしまったという事だった。
……そんなバカな。
ネッドはその話を、全く信じられなかった。かつてリュランへ話したように、不良魔石は幾らでも簡単に処理出来てしまう。わざわざ、森の奥へ運び込む理由など存在しない。
「おぉっ、あれがその不法投棄の一味らしいぞ」
ネッドに情報を教えてくれた冒険者が、建物の方から出て来る数名の男たちを指さした。彼らは既に手かせをはめられ、王都側の戦士たちに連行されている。
彼らは僕が森で出会った、グールに襲われていた男たちの仲間なのか? だが、それはおかしい。僕が今わの際に立ち会った職人は”騙された”と言っていた。そして恐らくは、口封じのために殺されたのだろう。では、目の前にいる彼らは、なぜ”生きている”のだろうか?
囚人たちが、ネッドの目の前を通る。その様子を間近で見ていたネッドは違和感を覚えた。魔石の精製職人は実入りの良い商売とは言えず、彼らの生活は楽ではない。実際、ネッドが森で出会った連中は、着古したものを身につけていたし、血色もいいとは言えなかった。
だが今、目の前を通る者達の服は小ぎれいで、丸々太っているとは言わないが、充分な食事をとっている事が容易に想像できるほど肌艶も良い。
あっ!
そしてネッドは、決定的な事に気が付いた。あるはずの物がないのである。
ネッドは自らを鼓舞するように、森の最深部へと進む。だがそこで、彼が全く予期していない事態が起った。
ドーン、ドーン、ドーン。
突然、大きな音が森中に鳴り響く。それは一度や二度ではなく、探索をしている冒険者全員が聞き漏らさぬよう、何回も何回も連続して鳴った。
「これは、探索終了の合図?」
ネッドは、自分の耳を疑う。
だが確かにこれは、探索の終了を知らせる花火の音だった。広い森のどこにいても聞こえるように、こういった手段が取られる事になっていたのだ。
森の探索は危険が伴う。既に探索の目的が達せられたのにもかかわらず、無駄に危ない行動をするのは愚の骨頂である。それを防ぐ目的の為、このやり方は参加者の皆に周知されていた。
ネッドは、混乱した。探索の目的が達せられたとはどういう意味だ。僕は、敵の真のアジトはおろか、謎を解明する発見をまだしていないのに……。魔人すら、現れていないではないか。
「おい、あっちの方で、何かあったらしいぞ」
ネッドから少し離れた所を、冒険者が通り過ぎる。彼はそのまま茂みに身を潜め様子を伺っていたが、何やら辺りが段々と騒がしくなってきた。更に多くの冒険者が駆け足で森の奥へと入り込み、逆に王都側の伝令と思われる者が森の外へと駆けて行く。
ネッドは冒険者に交じり、人々が向かう先へと歩を進めた。十五分ほど早足で歩いたろうか。割とひらけた場所に少し大きな建物があり、その周りには既に人だかりが出来ていた。混乱を避けるため、王都側の人間が集まった冒険者の整理をしている有様のようだ。
「何が、起こったんですか?」
ネッドは前に進み出て、野次馬の一人に事情を聞いた。
「あぁ、それがさ……」
その冒険者が語った話は、およそ次の通りである。
探索開始をして間もなくの事、王都から派遣された戦士や魔法使いの一団が魔物の群れと遭遇した。魔物は通常よりも強い力を持っており彼らを苦しめたがやがて逃走を始める。
これは怪しいと思った討伐者が魔物を追っていくと、見るからに胡散臭い建物があり、魔物どもはその周囲に固まっていたらしい。戦士と魔法使いは、ことごとく敵を葬り去ってから建物を調べたところ、中には大量の不良魔石があって、そばには複数の魔石の精製職人がいたという。
何故、このような森の奥にいるのか問い詰めた結果、職人どもは以前より不良魔石を大量に森へと不法投棄していたが、魔石から放出される魔力目当てにモンスターが集まって来てしまい、どうにも動きが取れなくなってしまったという事だった。
……そんなバカな。
ネッドはその話を、全く信じられなかった。かつてリュランへ話したように、不良魔石は幾らでも簡単に処理出来てしまう。わざわざ、森の奥へ運び込む理由など存在しない。
「おぉっ、あれがその不法投棄の一味らしいぞ」
ネッドに情報を教えてくれた冒険者が、建物の方から出て来る数名の男たちを指さした。彼らは既に手かせをはめられ、王都側の戦士たちに連行されている。
彼らは僕が森で出会った、グールに襲われていた男たちの仲間なのか? だが、それはおかしい。僕が今わの際に立ち会った職人は”騙された”と言っていた。そして恐らくは、口封じのために殺されたのだろう。では、目の前にいる彼らは、なぜ”生きている”のだろうか?
囚人たちが、ネッドの目の前を通る。その様子を間近で見ていたネッドは違和感を覚えた。魔石の精製職人は実入りの良い商売とは言えず、彼らの生活は楽ではない。実際、ネッドが森で出会った連中は、着古したものを身につけていたし、血色もいいとは言えなかった。
だが今、目の前を通る者達の服は小ぎれいで、丸々太っているとは言わないが、充分な食事をとっている事が容易に想像できるほど肌艶も良い。
あっ!
そしてネッドは、決定的な事に気が付いた。あるはずの物がないのである。
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