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リュランの推理(2/2)

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「”人間”では、ない?」

リュランの予期しない言葉に、ネッドは混乱した。

「ゴワドンはリルゴットの森で、何かを実験してたんだろ? そしてお前や冒険者たちの報告からすると、森の魔物の活動が活発化していて、おまけにパワーアップまでしている」

ネッドはリュランの言わんとする事が、やっと理解できて来る。

「魔物を兵隊代わりにするって事か? そりゃ、無理だ。確かに魔物に魔石から漏れ出る魔力を注ぎ込めば、狂暴化したりパワーアップをするかも知れない。だけど、それだけだ。

力は持続しないだろうし、何より魔物を制御できないよ。奴らを軍隊に仕立てるなら、ゴワドン卿の命令を聞くようにしなければいけないわけだろ? そんな効果は全く期待できないぞ」

リュランの余りにも突拍子もない考えに、ネッドは反論した。

「ま、確かに、魔物ならばな。だがお前の言う”魔人”だったらどうだ? お前の報告だと、魔人は明らかな”知性”を持っているんだろ? だったら兵隊に仕立てる事は十分に可能だよ。実際、虫の魔人とやらは、深紅の騎士の命令で、お前の行く手を遮ったわけだからさ」

「魔人……か」

確かにそうだ。もし炎の魔人や虫の魔人のような連中が大量にいれば、それは軍隊として編成できる。しかも並の軍隊を遥かに超える、強力な力になるだろう。

「俺はこう考えたんだ。ゴワドンが森でやっていた事は、単に魔物を狂暴化やパワーアップさせるわけじゃなくて、最終目的は魔物を知性のある魔人に”進化”させる実験だったんじゃないかって」

リュランは、言い切った。

ネッドは、心の奥ではそれを否定した。もちろん、根拠があったからだ。しかしそれを確実に証明する手段は、今のところ何もない。理屈としては、リュランの方が的を射ていた。

「話はこれで終わりだ、いいな? 奴が影武者を立てられると分かった以上、俺はそれを前提に行動する。こっちがミミックの面の可能性を考えていると、向こうが気づいていないのが付け目だな」

「いや、気づいているよ。多分」

ネッドが、すまなそうに言う。

「何だって?」

「僕がミミックの面をつけているのに、深紅の騎士は僕の正体をズバリ言い当てた。当然、今ここで、こういう話が出る可能性は向こうだって予見できるだろう」

「どうして、それを早く言わないんだ! つまり、お前が監視されているって事だよな」

話を聞いたリュランが、怒りだした。

「こりゃ、急がなくちゃならないぞ。今、俺がここに居る事も、向こうには筒抜けかも知れない。

俺はこれで帰るが、いいな、俺が言った事を忘れるな」

リュランは窓から抜け出して、屋根づたい地上へ降りた。

入るところを見られたのなら、出るところを見られても問題ないだろうさ。リュランは一応辺りを見回した後、夜の闇に消えて行った。

ネッドはリュランを見送った後、最終日の準備の為、工房へと向かう。

「ねぇ、ちょっとお兄ちゃん」

居間を通り抜けようとするネッドを、シャミーが呼び止めた。

「なに?」

「二階で何か話しているような声がしたけど、誰か来てるの?」

シャミーってば、こういうところ鋭いよなぁ……。ネッドの心は、ドキドキし始めた。

「い、いや、誰もいないよ。いるわけないじゃないか。そもそも上に行くには、この居間を通らなきゃダメだろ? シャミーが、気づかないわけないよ」

ここは、理屈で攻め通す作戦にネッドは打って出た。

「ふーん。……ホント?」

「ほんと、ほんと」

ネッドの手に、汗がジワリと滲み出る。

「じゃ、いいわ」

シャミーが、素っ気なく言った。

あぁ、シャミーがアッサリと引き下がってくれて良かった。今日は運がいいぞ。ネッドはホッとして、改めて工房へ向かおうとする。

「あ、そうそう。リュランには、今度からちゃんと玄関を通って来るように言っておいてね」

「うん、そうする」

あ……。

そこには顔面蒼白のネッドと、不気味な笑みを浮かべるシャミーがいた。妹の計略にひっかったネッドは、自分の心が怒られモードに入って行くのをヒシヒシと感じる。正に”拷問いらずの男”であった。
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