騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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敵の正体

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「ゴワドン侯爵だろ?」

ネッドの機先を制して、リュランが言った。

「えっ!? 何で、どうしてわかった」

心を言い当てられたような気がして、ネッドは目を丸くした。

「そりゃ、これまで俺が教えた情報、お前が経験した事、その流れで考えれば当然予想できるよな。もしこれが小説だったら、読者の殆どがそう思ってるだろうよ」

リュランが、ため息をつく。

ネッドは、今まで悩んできたのが少しバカらしくなった。

「だけどな、それは間違いだ」

リュランが、きっぱりと否定する。

「どうして?」

「有り得ないからだよ、物理的に」

悪友の意外な言葉に、ネッドは戸惑った。

「物理的にって、どういう意味だ」

「俺は昨日も今日も、ゴワドン卿を見張っていた。もちろん、僅かな時間なら奴が俺の前から姿を消した事はあったが、少なくとも森へ行ってお前と戦い、それから帰って来るような時間はなかった」

リュランは、自信たっぷりに言い切った。だがネッドはそれでも、あの声はゴワドン卿のものであるとの核心があった。そして、リュランの言う”物理的”な壁を突破する方法も即座に思いつく。

「なぁ、お前、”ミミックの面”というのを知ってるか?」

「ミミック? あの宝箱に化ける奴か? だけど、面っていうのは何だ」

ネッドの突発的な話に、怪訝な顔をするリュラン。

「ちょっと、待ってろ」

ネッドはミミックの面を取りに、階下へ降りようとする。

「おい、ネッド」

リュランが、ネッドを引き留める。

「ついでに、お茶を持って来てくれ。菓子だけでは甘ったるくてかなわん」

ネッドは一瞬眉間にシワを寄せたが、返事もせずにドアを乱暴に閉めた。

数分後、ミミックの面を携えてネッドが戻って来る。その手には面の他に、ジャスミンの香りのする紅茶もあった。

「だから、お前のこと好きさ」

軽口をたたき、いれたての紅茶をすするリュラン。

「で、それがミミックの面というやつか」

ネッドが持ってきた、変わった形のマスクをリュランが見やる。

「その面が”ゴワドンは深紅の騎士ではない”っていう、俺の推理を打ち壊す価値のある物なのか?」

「まぁ、見てろ」

未だ友人の真意を計りかねているリュランを前に、ネッドはその面を顔へと運んだ。そして面を顔へ吸いつけるように装着すると、ネッドの顔は見る見る内に、あの泉に映し出された別人のものへと変わって行く。

「お、おい。何だ、そりゃ? どういうことだ」

余りの事にリュランが暫し取り乱す。ネッドは、いつも横柄に構えている悪友が驚くのを見て、少し愉快になった。

「見ての通りだよ。この面は被った者の顔を、全く別の人相に変えてしまうんだ。もっとも幻を見せているだけで、本当に変わってしまうわけじゃないけどね」

別人のネッドが、別人の声でリュランに語りかける。

「声まで変わるのか……。でもそんなもん、今まで聞いた事がないぞ?」

面をゆっくり取り外したネッドを見ながら、リュランは、まだ信じられないという顔をした。

「これな、何十年も前に製作禁止の”おふれ”が、国から出たんだよ。最初は演劇とかで平和的に使われてたんだけど、すぐに犯罪に使われ出してね、詐欺とか色々と。

だから流通してたのもごく僅かな期間だけだし、そもそもミミックから魂石を精製する事自体も禁止された。現存するものは殆どないだろうね」

「それを何でお前が持ってるんだ? まさか、興味本位で作っちまったなんて事はないだろうな?」

リュランの目が一瞬、諜報省の役人に戻る。

「これは魂石職人だった僕の大伯父が、まだ合法的な時代に作ったものだよ。悪用する気もないし、持っていてもいいかなと思って」

ネッドは、不思議な面の歴史に思いをはせながら、その表面を静かに撫でた。

「つまりゴワドンがミミックの面を持っていて、それを誰かに被せて自分の身代わりにした可能性があるって事だな?」

「あぁ。さっきも言ったように、現存する物はかなり少ない。でもゴワドン伯爵ほどの権力と財力があれば、それを見つけ出すのは、決して難しくはないと思う」

ネッドの助言を得て、リュランの頭脳が手続きを幾つか飛ばして結論に至る。
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