騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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勝利の余韻

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巨人の撃沈と共に、再び静寂を取り戻したリルゴットの森。

「か、勝ったのか……、俺達」

まず、ライルが口を開いた。

「そ……そうみたいですね」

続いてカンナンが、信じられないという顔をする。

「勝った、勝ったんだよ私たち、ヤッホーイ!」

ヌーンが、ちょっと変わった勝どきをあげた。

「よくもまぁ」

一気に魔力を使い切ったマルチェナが、その場にへたり込む。

「なぁ、最後に奴の胸に突き立てた剣。すげぇな。金属をものともしねぇ。だけどよ、あれを最初から使って切り刻まなかったのはどうしてなんだ?」

興奮冷めやらぬライルが、戦士としての疑問をネッドにぶつける。

「あぁ、あの効果は魔力を一気に消費するんで、今は一回しか使えなかったんだ。

そのワンチャンスで制御魔石を確実に斬るのは至難の業だよ。剣が届くかどうかもわからないし、少しでもズレればアウトだしね」

あの場面で飛び込んできた事を考えれば、その言葉にウソはないと皆が納得した。

上手く行って良かった。

以前に同じ戦法でメタルゴーレムを倒した経験のあるネッドだったが、戦いは水物である。特に急ごしらえの連携で上手くいく保証など、どこにもありはしなかった。

あぁ、しかし何だろう、この充実感は。暫く味わった事がなかったな……。ネッドはの心は、不思議な潤いに満たされていた。彼は、その正体を探ろうとする。

そうか、仲間。仲間同士の助け合い。

騎士を辞めたネッドが、ここ数カ月の間、忘れていた気持ち。それがライルたちとの戦闘で、鮮やかに甦ったのだった。

ネッドは、ハッとした。

ギルドマスターである伯父が、何より大切にしていたのはこれなのだ。仲間同士の信頼、繋がり。冒険者がそれを育むのを守るのがギルドの役割ではないのか。それは一つの街のギルドにとどまらず、常に危険を伴う冒険者全てに与えらえるべき恩恵。ポーナイザルの街ひとつが、どうこうという話ではない。

ネッドは今はじめて、伯父の心を本当に知った気持ちになった。考えてみれば、自分の街さえ良ければそれで良いなどと、伯父が考えるわけがない。ネッドは上手くいかない探索に心を惑わされ、そんな事にも気づかなかった自分を恥じた。

ネッドは新たな気持で、その場を去ろうと歩き出す。

「おい、ありがとうよ。おかげで命が繋がった。パーティーのリーダーとして、礼を言うぜ」

勝利の高揚感が収まって来たライルが声をかけた。

「冒険者同士、助け合うのは当り前さ」

顔だけ振り向いて、ネッドが応える。

只の人形と化したメタルゴーレムから自分の剣を引き抜き、その場を去ろうとしたネッドは、ハタとある事に気が付いた。彼は腰を曲げ、草をかき分けはじめる。

「……えっと、なにしてんだ?」

ネッドの突然の行動に、ライルが不思議そうに尋ねた。

「あぁ、さっきゴーレムの頭の上で炸裂した電撃。あれ、雷玉ってアイテムなんだけど、結構高いんだ。ここら辺に、落ちたはずなんだけど……」

ネッドが、気恥ずかしそうに言う。

「あっ、ほら、みんな探すの手伝って!」

マルチェナが、大人の対応を促した。

パワーアップした雷玉は値段が張る。それをまた失くしたとなれば、ゴーレムを倒した電撃を上回る雷が、シャミーから落ちるのは間違いない。ネッドは、彼らの助力を有り難く受け入れた。

「ひとつ、みーっけ!」

ヌーンの発見を皮切りに、すぐに全ての雷玉が回収される。ネッドは深々と頭を垂れて礼を言ったあと、その場を去った。

命の恩人を見送るパーティー一行。

「ふふっ。凄い人だったけど、最後ちょっとカッコ悪かったよね。あのまま颯爽と去って行ったら、滅茶苦茶カッコ良かったのに」

ヌーンが、イタズラっぽく笑う。

「何言ってんの、あれが普通!あんた、そんなズボラだからお金がたまんないのよ」

マルチェナの指摘に、これは藪蛇だったと口を尖らすヌーン。

「あっ!」

ライルが突然、素っ頓狂な声を出す。

「な、何!?」

皆が驚いてリーダーに注目した。

「名前聞くの忘れた」

余りに突然の登場、そして鮮やかな剣さばきと作戦。最後には意外とマメな行動。彼らは次々と起こる出来事に、恩人の名前を聞く事を失念していたのだった。

「……っていうか、あいつが誰だか、知っている奴いるか?」

今度は、ライルが皆を見回す。

「いいえ、知らない顔ですねぇ」

まずカンナンが口を開く。続いてマルチェナとヌーンも首を振った。

「あ、でもさ。マルチェナは知ってるんじゃない?」

「何で?」

ヌーンの意見に、マルチェナが訝しむ。

「だってマルチェナだけ、最後に名前で呼ばれてたじゃない」

皆はマルチェナが必殺の電撃を放つとき、助っ人が彼女の名を叫んだのを確かに聞いていた。

「いえ、知らないわよ。何で、私の名前を知っていたのかしら……。もしかして私ってば、冒険者の中で割と有名人だったりして」

勝利の余韻が残っているせいか、まるでヌーンのようなセリフを吐くマルチェナ。

「ちぇっ、しょってらぁ」

ライルが嫉妬まじりに言った。皆の間に笑いが起こる。

「あぁ、でもどうします?」

「どうしますって、何が?」

カンナンの突然の言葉に、ライルが聞き返した。

「今、目の前に倒れているメタルゴーレム。これ、相当に価値がある代物ですよ。当然、助っ人さんにも分け前にあずかる権利が発生しますよね。

でも、どこの誰だかわからない」

至極、常識的な見解を示す僧侶カンナン。

「うーん、しゃぁねぇなぁ。んじゃ、奴の取り分はギルドに供託って事でどうだ。誰だかわかったところで、払い戻してもらえばいいさ」

「へぇ、ライル、まともな事言うようになったじゃない。私はてっきり、あんたがガメちゃうんじゃないかと心配したわ」

ライルの提案に、マルチェナが皮肉を言った。

「バカ言うな。俺だって、命の恩人からふんだくるような真似はしないって。

……ところで話は変わるけどさ、最初に俺がお前たちに逃げろって言った時、お前、涙ぐんでいなかったか? 愛する男の、命を懸けた行動に感動してよ」

マルチェナの皮肉に対抗し、背を向けせせら笑うライル。

彼女はライルの後ろで魔法の杖を両手で握り、まるでバッティングフォームのような格好をしたが、それを止めるものは誰もいなかった。
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