騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
100 / 153

難敵襲来

しおりを挟む
「ライル! トドメを多く刺した方が勝ちね! 負けたら、晩ご飯おごりだから」

それまでメタルスライムを避けていただけのヌーンが、喜々として声を上げる。

「おっしゃぁ! 負けるかよ」

地面をゆっくりと這いずり回るメタルスライムを、両者が競って串刺しにしていく。この魔物の表面金属はそれほど硬くないので、一流の刀工による剣ならば難なく斬り裂けるのだ。

「ちょっと、あんたたち。バカな事しないの!」

マルチェナの小言も聞かず、スライムカットに夢中になる子供のような二人。運よく光の針を逃れたり、カンナンの魔法障壁に体当たりしていたスライムたちは、とっくの昔に退散していた。

「イェーイ。私の勝ち―っ!」

ヌーンが、勝どきをあげる。

「ず、ずるいぞヌーン。お前、賭けの宣言をする前に二~三匹もう切ってただろう?」

ライルが、異議を唱えた。

「男らしくなーい。勝負は勝負よ」

「なんだよ、男らしくないって? 普段はジェンダーレスとか言ってるくせに!」

リーダーの抗議を受け付ける気など全く無く、早くも夕飯に何をおごってもらうかを考え始めるヌーン。

「困ったもんですねぇ」

カンナンが障壁を解いて、冒険者たちの安全を確認する。

「……でもさ、ライルじゃないけど、あいつらが良く出るエリアは、もう少し先だったよね、今までは」

ヌーンが、不思議そうに首をひねった。

「そうですね。少し違和感を覚えます」

カンナンも、納得のいかない様子である。

「全くだわ。私のライトニング・ニードルも、いつもよりは当たらなかったみたい。奴らのスピードが、速かったせいよ」

「腕が落ちただけじゃね?」

マルチェナの言い分を、ライルがからかった。

「あんたねぇ……!」

「一つ提案があるのですが……」

魔法使いの抗議を遮るように、カンナンが喋り出す。

「私たち以外の皆さん、ここで引き返した方が良いのではないですか?」

取りあえずの危機は去ったものの、残りの冒険者たちは、突然の来襲にすっかり怯えてしまっていた。短い相談の結果、ライルのパーティーメンバー以外は、メタルスライムの一撃を受けた冒険者を連れて、早々に引き返す事となる。

更に森の奥へと進むパーティー一行。

「結局、俺達だけか」

面倒な探索任務を担うメンバーが減ってしまい、ライルが文句をたれた。

「まぁ、この先はもっと厳しくなるから、こんなもんじゃない?」

ヌーンが、応える。

「っていうか、そもそもあんたが、くじ引きで、こんなハズレのエリアを引くのが悪いんでしょ?」

マルチェナが、文句を言う。

彼女の不満はもっともだ。このあたりは、先ほどのメタルスライムを皮切りに、扱いが割とやっかいなメタル系のモンスターが頻繁に現れる地域なのだ。

「まぁ、クジ運が悪いのは、マルチェナも同じだよね」

ヌーンが、ニヤニヤと笑う。

「私のクジ運が? 何で?」

マルチェナが、キョトンとする。

「だって、ライルみたいなダメ男を引いちゃったわけだからさ」

「ベ、別に私とライルはそういう……」

ヌーンの冗談に、少しばかり頬を赤く染めたマルチェナが断固として抗議した。

「ちょっと黙れ」

ライルの声が響く。

「はぁ? 黙れって、私とあなたの関係はそういうもんじゃないで……」

「違いますよ。やっかいな相手のお出ましのようです」

魔法使いの照れ隠しを僧侶が遮った。一同の間に緊張感が走る。確かに周りの茂みの向こうから、ガサガサという音が聞こえ始めていた。全員が、臨戦態勢に入る。

「ライトニング・ナイフ!」

マルチェナが杖を頭上に掲げ叫ぶと、先ほどの光の針よりもずっと大きい塊が四方へ飛んでいく。光の小刀が茂みに消えると同時に、グオッ、グオッという唸りのような音が、其処ここから聞こえ出した。

「やっぱり早いよ。出てくんのがさ」

ヌーンが、叫ぶ。

その声を合図にしたかのように、草むらからノソリノソリと魔物の一団が現れる。それは金属トカゲ、すなわちメタルリザードであった。

この魔物、先ほどのメタルスライムとは比較にならない強力なモンスターである。後頭部から背中、尻尾にかけて銀色光る金属質の甲羅で覆われており、それは手足の一部にも施されている。硬度はメタルスライムより数段硬く、名剣でもあっても、下の生身まで到達するのは難しい。

また電撃に対する耐性もかなりあり、相当強力な雷を落とさない限り、先ほどのメタルスライムのように、戦闘不能となる事はない。

それが十数匹の群れで現れたのである。ライルたちにとって、間違いなく手ごわい相手であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!

咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。 家族はチート級に強いのに… 私は魔力ゼロ!?  今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?  優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます! もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

処理中です...