騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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ライル一行

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上の空で森を彷徨っていたネッドが叫び声を聞く少し前、戦士ライルをリーダーとするパーティーは、他の冒険者たち数人と共に森の探索を行っていた。

「あぁ、そろそろ何か見つからないかなぁ」

ライルが、ぼやく。

「何言ってんのよ。あんた、道中、魔物の三~四匹を倒しただけで、面倒くさい調査は、何もやってないじゃない」

いつもの如く魔法使いのマルチェナが、ライルの頭を魔法の杖でコンと叩いた。

「痛ぇなぁ! そうポンポン殴るなって。今度から、一回叩くごとに銅貨三枚分、借金帳消しな」

マルチェナに多額の借り入れのあるライルが頭をさする。

「冗談でしょ? あんたの頭殴るのに、銅貨三枚の価値があるわけないじゃない。まぁ、頭かち割るんなら話は別だけど」

ライルの放言に、マルチェナが杖を頭上の挙げた。

「だ、だからやめろって。頭が悪くなったらどうすんだよ」

気ままな戦士が、両手で頭を隠す。

「いいんじゃない? これ以上、悪くはならないし」

手持無沙汰そうな女戦士ヌーンが割って入る。

「おい。お前に、言われたくないぞ」

「ふーん、それはどういう意味かな?」

これもいつもの如く、ライルとヌーンの追いかけっこが始まると、マルチェナの機嫌は益々悪くなった。

「あんたたち、いい加減にしなさい。遊びに来たんじゃないんだからね! もう、カンナンも何か言ってよ」

魔法使いが、僧侶に助けを求める。

「これは、わがノズラス教の神でもどうしようもありませんね」

無駄な事はおよしなさいとばかりに、僧侶カンナンが軽く答えた。

その時、ライルのパーティー全員の足がピタリと止まる。今までのオチャラけた空気は、いっぺんに消え失せた。

「おい、先行するな、止まれ!」

いつもとは打って変わったライルの声が、彼らパーティーの少し先を行く冒険者を引き留める。

「は? 何だっていうんだよ。

俺は、あんたらパーティーのメンバーじゃない。たまたま、ギルドから組み分けされたんで、一緒に行動しているに過ぎないんだよ。命令を聞かなきゃらならん覚えはないね」

単独で探索に参加していた冒険者が毒づいた。

「バカ! 頭を下げろ! 」

そう言うと同時に、ライルはその場にかがみ込む。他のパーティーメンバーもそれにしたがった。誰一人、文句を言う者はいない。

「だから、お前が命令をす……」

そう言いかけた冒険者は、グッとくぐもった声をあげたかと思うと、その場に突然倒れ込んだ。何か丸い物体が、彼の後頭部を直撃したのだ。

「メタルスライムだ!」

ライルが叫ぶ。この一声で、パーティー以外の冒険者たちもすぐに体勢を低くする。

「ちっ、もう出やがったか! まだ少し先の筈なんじゃねぇのか?」

ライルが、誰にともなく問うた。

「そうだけど、文句を言っても始まらないわよ」

マルチェナが、素早く答える。

「今の奴は、先兵だ。すぐに他の連中も出て来るぞ!」

ライルの言葉が終るか終わらないかの内に、茂みの中からは濃灰色の丸い物体が次々と現れ、冒険者たちの頭上を飛び交った。メタルスライムの群れである。彼らはその名の通り、金属的な特徴を持つスライムだが、同時に柔軟性も持っており、地面や木々にバウンドしながら敵を襲う。低ランク冒険者には手ごわいモンスターだ。

「こいつら、いつもより積極的……っていうか、スピード速くない?」

圧縮筋肉の持ち主である女戦士ヌーンが、スライムを華麗に避けながら言った。

「文句を言っても始まらねぇ。さっさと片付けるぞ!」

「お二人とも、気が合いますねぇ」

マルチェナと同じような言葉を口にするライルを見て、カンナンが軽口を叩く。

「冗談じゃない!」

言われた二人が、同時に叫んだ。

「カンナンは障壁魔法で、俺達以外の奴を守れ。他はブッ倒しに行くぞ!」

実のところ、ライルたちと他の冒険者たちの間には、かなりの実力差があった。これも、弱いメンバーだけで森を探索させたくなかったギルドマスターの配慮である。

「ライトニング・ニードル!」

マルチェナが一声叫ぶと、頭上に振り上げた魔法の杖から無数の電撃の針が放たれる。それがメタルスライムの集団にあたると、濃灰の金属球たちは次々と地面に落ちて行った。彼らの体は、表面こそ金属質であるが、中身は普通のスライムと変わらない。金属は電気を通すので、電撃が当たったスライムは内臓器官が感電し、一時的に動けなくなってしまうのだ。

「今だ!」

ライルが、号令をかける。
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