騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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彷徨

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正確に言えば、ハッキリと聞き取れたわけではない。敵の兜についている、音声変換の機能は変わらず機能していたのは間違いない。だが縦に長い兜の上部を切り取られた事で、装着者の本当の声が変換音声と重なって漏れ聞こえてきたのだった。

「まさか、そんな……」

ネッドは、その声の記憶を辿り愕然とする。ある人物の顔が、ハッキリと浮かんだからだ。彼はショックの余り、暫くその場を動けなかった。

深紅の騎士の仲間が襲ってくる可能性は低い。何故なら、騎士はネッドを殺さないと言った。その言葉が本当ならば、今は騎士を逃すために全力を尽くすに違いない。ネッドにかまっている暇などないはずである。

森の中に風が走り、木の葉がサワサワと音を立てる。ネッドはようやくそれに気づき、我を取り戻した。どうする。戻るか。そして伯父に、敵の首謀者らしき男の報告をするか……。でも、確たる証拠は何もない。僕が、そう思ったというだけだ。これではかえって、伯父を混乱させるだけではないのか?

悩むネッドの目に、自らが切り取った敵の兜の一部が映った。戦闘における唯一の戦利品である。深紅の騎士の装備は、非常に珍しいものだった。この残骸を調べれば、何かわかるかも知れない。

辺りの気配を確かめ、もう周囲に脅威はないと判断したネッドは、兜の欠片を拾う。その裏側には見た事もない装置の痕跡があるが、今この場で判別できる類の物じゃないと彼は思った。

「あれ?」

ネッドは兜の中に、思わぬものを発見する。

どういう事だ?

いや、これはおかしい。絶対に矛盾する。

ネッドの頭は途端に混乱した。だが、その場で判断できるはずもない。ネッドは置いてきた盾と剣を回収する為に、元居た場所へと移動した。今日はもう、奴に出会う事はないだろう。恐らく新たな敵となる相手にも……。

あぁ、無事でよかった。まだちゃんとあった。

放置したアイテムが、そのまま置いてある事に安堵するネッド。もし動物にでも取られていたら、シャミーに言い訳のしようがない。それこそ一日二食が半年は続くだろうと思うと、ネッドの背中に冷たい汗が流れた。

「さてと、どうするべきか……」

今更、深紅の騎士を追っても、見つかるとは思えない。無理して追えば、新たな魔人が邪魔に入るかも知れない。僕は、それに対処できるのか? 

ネッドは迷った。彼は、深紅の騎士の言葉を思い出す。

僕が手を引けば、街はすぐに平穏を取り戻す……。奴は確かにそう言った。探索は今日と明日を残すだけだから、奴の目的は、その間に達成されるのだろう。そしてその後は、この森には用がなくなる。だから平穏が訪れるという事なのか?

魔石を使った実験らしき様子を考えれば、この森で何かを成し遂げる事によって、その結果を他の所へ振り向けるに違いない。つまりポーナイザルは平穏を取り戻すが、他の何処か、もしくは誰かは犠牲になる……。

僕はもう、王宮の騎士じゃない。もし未だにそうであれば、国全体の幸せを考えなければならない。でも今の僕は一介の機能付加職人だ。そんな義務はない。あの声の主が僕の思った人ならば、これは国家レベルの陰謀かも知れない。だけど、そんな陰謀を阻止するなんて出来るのか? 

伯父さんは、どう思うだろう。きっと”それは、お前の仕事ではない”と言ってくれるだろう。僕は、その言葉に甘えていいのか……。

混乱の中で弱気になったネッドが、いくつもの思いを反芻する。

どれくらいの時間が経ったろうか、ネッドはようやく立ち上がり、フラフラと森の中を彷徨った。積極的に魔力残渣を追う気力もわかず、さりとて探索を終えて戻る気にもなれない。

だが、先ほどの死闘の場所より二~三キロ離れていた場所を歩いてたネッドは、突然、冒険者の叫び声を耳にした。聞き覚えのある声である。

「何だ、あの声は?」

ネッドは、思わず声のした方向に振り向いむいた。
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