騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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傷心の決着

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深紅の騎士は、自らの電撃を受けた衝撃で動きがかなり鈍っている。ネッドは、この機を逃がさない。敵が更に電撃を打つ前に、盾を思い切りその胸にぶつけた。ぶつけたというよりも、盾で殴りつけたという方が正しいかも知れない。この盾はトゲが九本も生えており、重量もある事から、武器としても申し分ない。

グシャリという音ともに、騎士の胸にある装置はひしゃげ、電撃を放つ前準備の唸りが異様な響きを奏ですぐに止まった。

「なんの! まだ壊れたわけではない」

深紅の騎士の言葉通り、不安定ながら胸の装置は再び動き出し、肩に装備された黄金の角が光りはじめる。盾の正面に電撃を受ければ同じ結果をもたらすのはわかっているが、少しでもそれれば効果は期待できない。

深紅の騎士は両刀を振るい、ネッドの体勢を崩そうとした。盾の重さと先ほどの衝撃で、ネッドの動きも本来のものではない。盾の向きが、騎士の正面から一瞬ずれた。この機を逃さずと、電撃が発射される。

あと一回、ここで踏ん張れば!

ネッドは間一髪、盾を振り向け電撃を防ぐ。

「それが、いつまで続くかな?」

再び余裕を取り戻した深紅の騎士が、次の発射を見据えて充電を始めた時、ネッドは最後の攻撃を仕掛ける。なんと彼は盾を捨てたのだ。

「縦を捨てるだと? バカな!」

驚く騎士を尻目に、ネッドは剣を両手で持ち、一撃を敵の胸に撃ち込んだ。その剣は胸の装置を斬り裂き、内部の仕掛けが露出する。

「そんな! これは鋼で覆った装置だぞ。剣で切れるわけがない!」

騎士が叫ぶ。

確かに、ナイト・オブ・クリムゾンの言う通りである。何のためにプレートメールを着るかと言えば、それは剣で切られないためだ。関節の隙間を狙うのならともかく、正面から剣を打ち込んでも鎧が切られる事はない。

だが、これは現実だ。

重い盾から解放されたネッドは素早く二の剣を振るい、今度は敵の右肩に装備されている黄金の角を横に切り裂いた。これとて、金属で出来たパーツである。深紅の騎士は、何が起こっているのか理解できない。

実はこの剣、只の剣ではない。切り裂けないものはないと言われる爪を持つ、ソードクーガーの魂石を練り込んだ剣なのだ。普段は通常の剣と変わらないが、使用者が機能をオンにすれば、連続の使用回数に厳しい制限があるとはいえ、ミスリルなどの特殊金属でもない限り、この剣で切れないものはない。

生き物は、急所を切れば死ぬ。

次から次へと未知の力を持つ敵を相手にするネッドにとって、この原則は一番確実に思われた。機能付加職人と騎士の両方の力を持つネッドだからこそ、初めて出来る事である。

勝負は今、拮抗していた。電撃を失った二刀流の深紅の騎士。盾を失い、鎧を切れる回数が迫っているネッド。勝負がどちらに転ぶかはわからない。だがここで”騎士”と”騎士なみ”の差があらわになった。

ネッドの猛攻に深紅の騎士が一瞬怯み、そのバランスを失う。ネッドが、恐らくは最後の一撃を放った。それでも体勢を立て直そうとする深紅の騎士は両刀を交差させてネッドの剣を止めようとする。しかしソードクーガーの刃は、二振りの剣そのものを斬り裂いた。そのまま、騎士の首すじに届こうとするネッドの剣。もはやこれまでと思われたが、深紅の騎士はその執念で咄嗟に身体を沈み込ませる。

深紅の騎士の執念の回避により、本来ならばネッドの剣は、騎士の頭上の空を切るはずだった。しかしナイト・オブ・クリムゾンの兜は、普通のものよりかなり縦に長い。ネッドの剣は、騎士の兜の上半分を斬り裂いた。

やったか!? いや……!

ネッドの剣に、骨を砕いた感触は伝わってこなかった。深紅の騎士の悪運は、自身の頭頂部ギリギリのところで剣を交わしたのだった。

自らの幸運を知った深紅の騎士は、半分に切られた二振りの剣をネッドの首元へと滑らせる。この至近距離なら十分に、彼の頸動脈を切断できるだろう。ネッドは、思わずのけぞった。深紅の騎士はこのチャンスを逃すまいと、ネッドの腹部に渾身の蹴りを打ち込む。鎧の硬さと相まって、その効果はネッドを数メートル押し返すのに成功した。

もんどりうって、地面に突っ伏すネッドライザー。

「勝負はおあずけだ、ネッド君」

深紅の騎士は、脱兎のごとく、手次かな茂みに逃げ込んだ。腹を押さえて何とか片膝で立つネッドであったが、すぐに両ひざをついてしまう。昨日の疲れも残っていたのか、既に体力の限界を迎えてしまったのだった。深紅の騎士を追いたいのは山々だが、これではとてもじゃないが叶わない。

逃がした。また逃がしたのか。

地面を殴り悔しがるネッド。だが、彼は聞き逃さなかった。深紅の騎士が最後に発した言葉。その声は、それまで聞いていた奴の声とは明らかに違っていた。

ナイト・オブ・クリムゾンの本当の声。
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