騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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電撃の主

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来たか。まぁ、当然そうなるだろうな。

アキッド・クローラーの魔人を逃す為なのだろう。電撃は、次々と木々の間から放たれネッドを襲う。だがこういった攻撃をする魔物は結構いるし、ライトニングプラズマのような魔法だってある。手練れの戦士はもちろんの事、騎士であったネッドもそうそうこの手の攻撃に当たるものではない。

ネッドは、大きな岩陰に身を隠した。今のところ、電撃を放つ本体が出張ってくる様子はない。ここで僅かな時間は稼げるだろう。ネッドは昨夜遅くまでかかって作った機能付加アイテムの盾を取り出し、ブレスレットを使って元の大きさに戻す。

その盾は異様な形をしていた。ベースは通常のミドルシールドで、楕円形をしている。だが、その周囲には斜め外側に向けて、六本の円錐形のトンガリが均等な感覚で飛び出ていた。また同じものが中央部分にも三本ついており、まるで盾に九本のトゲが生えているような格好である。

同様に剣も交換する。こちらは通常のロングソードに見えるが、実は秘密の仕掛けが施してあった。そして、現在装備している盾と剣はその場に放置する。縮小してバッグに戻している余裕はない。

ネッドは早駆けの靴の威力を最大限に発揮して、電撃が発せられている木々の向こうへと突っ走る。恐らく今回もこちらが黙っていれば、向こうは去って行く可能性が高い。だがそれでは何の解決にもならない事を、ネッドは知っていた。

ただ単に襲撃を凌げば良いのではない。この異様な事態の真相を解明するのが大事なのだ。魔人や謎の敵との戦いは、その為の手段に過ぎない。

本領を発揮したネッドのスピードについて来るには、この電撃は今一つ正確さを欠いている。今のところ、正体不明の敵を想定した盾を使わなくてもよさそうだ。

逃がしてなるものか!

ネッドの執念が早駆けの靴に宿ったかのように、元騎士はそれこそイナズマのような速さで地を駆けた。うっそうとした木々の間をすり抜けると、そこはひらけた土地になっており、電撃の主はネッドを待ちうけていたかのように一人たたずんでいた。茂みを出たところで、ネッドは急ストップかけ、未知の敵と相対する。

「えっ?」

ネッドは驚きの余り、思わず声をあげた。そこには、異形の戦士、いや全身を不可解な鎧で固めた騎士と言って良い風情の人物が、仁王立ちをしている。

その深紅に染められた全身鎧の両肩には黄金の角のような物が装備され、胸にはネッドが見た事もない装置がついている。兜がこれまた面妖で、縦に人間の頭部二つ分を少し超える長さがあり、頭頂部の両脇に、肩と同じ色の小さな角に見立てたパーツが光っていた。そして何より、盾を持たぬ二刀流である。

「お前は、誰だ」

ネッドの問いがあたりに響いた。魔物や魔人、はたまた魔法使いを想像していた彼からすれば、これは想定外の事態である。

「名前? あぁ、そうか名前か。考えていなかったな」

深紅の騎士の長細い兜は頭部全面を覆うもので、その中身はわからない。しかし、思ってもいない質問をされた戸惑いが伝わってくるようだった。

 「そうだな。ナイト・オブ・クリムゾンとでも名乗っておこうか。もちろん、深紅の騎士でも構わないがね。ネッド・ライザー君」

明らかに魔法を使って変質させた声が、ネッドの耳に不快に響く。

「な、なんで僕の名前を!」

ネッドは、余りの事に聞き返す。彼の驚きは二重のものであった。一つは単に自分の名前を知っていた事。もう一つは”ネッド・ライザーとはわからぬ仕掛け”をしているのに、どうして今ここに居る人間が、ネッドその人だと分かるのかという事である。

僕をずっと見張っていたのか?

「まぁ、そんな事はどうでもいいじゃないか。それより、君にお願いがある。もう、大人しくして、いてくれないだろうか?」

深紅の騎士が、落ち着き払って言った。

「手を引けって事か? 出来るわけがないだろう。僕の故郷の森で、こんなにも異様な現象が起きてるんだ。黙っていられると思うのか」

この騎士こそが問題の核心だと直感したネッドは要求を拒絶する。

「君の言い分は、もっともだ。だが、こちらにも事情というものがある。君にあれこれ探られるのは困るんだよ。

ただ約束しよう。君がこのまま手を引いてくれれば、本案件はすぐに収束するだろう。ポーナイザルの街は、今まで通りの平穏を取り戻す」

深紅の騎士の言葉は友好的ではあるが、有無を言わせぬ力を持っていた。
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