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シャミーの小言
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「晩ご飯、もう準備できてるわよ。早く着替えてらっしゃい」
まともな、本当にまともな受け答えである。こういう普通の会話を何の気兼ねもなしに受け入れられたら、どんなに良いだろうとネッドは思った。
「あ、待っててくれたの? じゃぁ、早く着替えて来るね」
とりあえず、その場を離れようとするネッド。
「そうそう、ちょっと待って」
ネッドは悪魔のかぎ爪で、襟首をひっかけられたような感覚に襲われた。
「……え? な、なに?」
母親にイタズラが見つかったのかも知れないと、オドオドする子供のようにネッドは尋ねる。
「はい」
シャミーが、両手を上に向けて揃えている。ネッドは、何の事だか全く見当がつかない。
「はい……って?」
恐る恐る、聞き返すネッド。
「報酬よ、報酬。今日の探索の分! 貰って来たんでしょう?」
途端に、口調が厳しくなるシャミー。
「あ、はい、はい。貰ってきましたよ、ちゃんと。しっかりと、ここに……」
ネッドは慌てて、ギルド館で受け取った一日分の報酬の入った布袋を取り出した。それを受け取ったシャミーが、袋の口を開けコインの数を数え始める。
「なんだよう、誤魔化してなんかいないぞ」
ネッドが、実に控えめな抗議をした。
「ん~、おかしいわねぇ……。お兄ちゃん、帰って来てから、何か様子が変なのよね。何かオドオドしてるっていうか、マズい事を隠そうとしてるっていうか……。
まぁ、報酬を誤魔化してるんじゃないっていうのは、わかったけど」
シャミーが、疑惑の流し目をネッドへ向ける。
「へ、変な事を言うなよ、シャミー。僕がお前を誤魔化そうなんてした事が、今まであったか? 少しは、お兄ちゃんを信用しなさい。
もっとも今日の探索では色々とあったから、少しはアイテムを放逐して回収できなかったけど、それを誤魔化そうなんて気持ちはサラサラないぞ」
ネッドは勢いに任せ、都合の悪い事実をソロリと潜ませまくしたてた。このままシャミーが、受け流してくれるのを密かに期待して。
「……ふーん、放逐して回収していない……。それで、何をどれだけ?」
ネッドの浅はかな作戦など、お見通しとばかりに、シャミーが的確に切り込んでくる。
「えぇっと……、どれだけだったかなぁ? いや、後で確認してみるよ」
ネッドの額に汗がジワリと滲み出してきた。
「後で?」
シャミーが、ネッドの言葉をオウム返しに繰り返す。
「い、いや、その……」
「後で?」
シドロモドロになったネッドに、一段とトーンが低くなったシャミーの声が響いた。
「ごめんなさーいっ!」
妹の詰問に、あえなく全てを白状させられるネッド。必要があってそうなったのだから、堂々としていれば良いのだけれど、そんな正論、シャミーには通じない。
瞬く間に、失くしたアイテムの減価償却計算をするシャミー。
「うーん。これだと今日一日分の報酬とトントンねぇ……。
まだ明日と明後日があるからいいものの、もし探索が今日だけだったら、お兄ちゃん、これから一ヶ月の間、一日二食で我慢してもらわなくっちゃ、いけないところだったわ」
シャミーの容赦ない判決が下る。まぁ、今回は執行猶予がついたので、命拾いをしたネッドであった。
「あぁ、とりあえず、あれだけで終わって良かった」
思いのほか小言が少なかった事に胸をなでおろしたネッドは、二階の自室で家着に着替える。再び食堂へ降りて来てテーブルに着くも、そこには意外なほど栄養満点の料理が並んでいた。
「いいの? 結構、豪華な感じがするけど」
「いいのよ。私が、疲れて帰って来た兄に対して、アワとヒエしか食べさせないような鬼に見える?」
見える!
と、ノドまで出かかった言葉を飲み込んで、ネッドは有り難く妹の手料理を頬張った。魔人との死闘、メルの涙。色々な意味で厳しい一日だっだが、ネッドは妹と水入らずでとる食事を心地よく楽しんだ。
……いや、待て。こういう時には、かならずリュランが邪魔に入るものだけど、今日は大丈夫だろうな? 疑心暗鬼になるネッドであったが、その心配は杞憂に終わった。
珍しい事もあるもんだ。明日の探索、雪が降らなければいいけどな。
そんな心配をしながら、ネッドは明日の準備の為に店の工房へと赴く。
「明日は又、アスティの店へ寄ってみよう」
ガドッツ兄弟との一件以来、会えないでいる友人の事を考えながら、ネッドは仕事に勤しんだ。
彼が精を出す仕事場の外。空には月が赤く光り、あたりを不気味に照らし出している。まるでこの先に起こる凶事を予感させるように。
まともな、本当にまともな受け答えである。こういう普通の会話を何の気兼ねもなしに受け入れられたら、どんなに良いだろうとネッドは思った。
「あ、待っててくれたの? じゃぁ、早く着替えて来るね」
とりあえず、その場を離れようとするネッド。
「そうそう、ちょっと待って」
ネッドは悪魔のかぎ爪で、襟首をひっかけられたような感覚に襲われた。
「……え? な、なに?」
母親にイタズラが見つかったのかも知れないと、オドオドする子供のようにネッドは尋ねる。
「はい」
シャミーが、両手を上に向けて揃えている。ネッドは、何の事だか全く見当がつかない。
「はい……って?」
恐る恐る、聞き返すネッド。
「報酬よ、報酬。今日の探索の分! 貰って来たんでしょう?」
途端に、口調が厳しくなるシャミー。
「あ、はい、はい。貰ってきましたよ、ちゃんと。しっかりと、ここに……」
ネッドは慌てて、ギルド館で受け取った一日分の報酬の入った布袋を取り出した。それを受け取ったシャミーが、袋の口を開けコインの数を数え始める。
「なんだよう、誤魔化してなんかいないぞ」
ネッドが、実に控えめな抗議をした。
「ん~、おかしいわねぇ……。お兄ちゃん、帰って来てから、何か様子が変なのよね。何かオドオドしてるっていうか、マズい事を隠そうとしてるっていうか……。
まぁ、報酬を誤魔化してるんじゃないっていうのは、わかったけど」
シャミーが、疑惑の流し目をネッドへ向ける。
「へ、変な事を言うなよ、シャミー。僕がお前を誤魔化そうなんてした事が、今まであったか? 少しは、お兄ちゃんを信用しなさい。
もっとも今日の探索では色々とあったから、少しはアイテムを放逐して回収できなかったけど、それを誤魔化そうなんて気持ちはサラサラないぞ」
ネッドは勢いに任せ、都合の悪い事実をソロリと潜ませまくしたてた。このままシャミーが、受け流してくれるのを密かに期待して。
「……ふーん、放逐して回収していない……。それで、何をどれだけ?」
ネッドの浅はかな作戦など、お見通しとばかりに、シャミーが的確に切り込んでくる。
「えぇっと……、どれだけだったかなぁ? いや、後で確認してみるよ」
ネッドの額に汗がジワリと滲み出してきた。
「後で?」
シャミーが、ネッドの言葉をオウム返しに繰り返す。
「い、いや、その……」
「後で?」
シドロモドロになったネッドに、一段とトーンが低くなったシャミーの声が響いた。
「ごめんなさーいっ!」
妹の詰問に、あえなく全てを白状させられるネッド。必要があってそうなったのだから、堂々としていれば良いのだけれど、そんな正論、シャミーには通じない。
瞬く間に、失くしたアイテムの減価償却計算をするシャミー。
「うーん。これだと今日一日分の報酬とトントンねぇ……。
まだ明日と明後日があるからいいものの、もし探索が今日だけだったら、お兄ちゃん、これから一ヶ月の間、一日二食で我慢してもらわなくっちゃ、いけないところだったわ」
シャミーの容赦ない判決が下る。まぁ、今回は執行猶予がついたので、命拾いをしたネッドであった。
「あぁ、とりあえず、あれだけで終わって良かった」
思いのほか小言が少なかった事に胸をなでおろしたネッドは、二階の自室で家着に着替える。再び食堂へ降りて来てテーブルに着くも、そこには意外なほど栄養満点の料理が並んでいた。
「いいの? 結構、豪華な感じがするけど」
「いいのよ。私が、疲れて帰って来た兄に対して、アワとヒエしか食べさせないような鬼に見える?」
見える!
と、ノドまで出かかった言葉を飲み込んで、ネッドは有り難く妹の手料理を頬張った。魔人との死闘、メルの涙。色々な意味で厳しい一日だっだが、ネッドは妹と水入らずでとる食事を心地よく楽しんだ。
……いや、待て。こういう時には、かならずリュランが邪魔に入るものだけど、今日は大丈夫だろうな? 疑心暗鬼になるネッドであったが、その心配は杞憂に終わった。
珍しい事もあるもんだ。明日の探索、雪が降らなければいいけどな。
そんな心配をしながら、ネッドは明日の準備の為に店の工房へと赴く。
「明日は又、アスティの店へ寄ってみよう」
ガドッツ兄弟との一件以来、会えないでいる友人の事を考えながら、ネッドは仕事に勤しんだ。
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