騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
89 / 153

メルの涙

しおりを挟む
「泣いてなんかいないわよ。何で泣かなきゃいけないの?」

だがその言葉とは裏腹に、メルの両眼からはボロボロと雫がこぼれ落ちている。

「だって……」

「だってじゃないわよ。何でパパは私には何も話してくれないのに、あなたには話すのよ!」

ネッドの言葉を遮るメル。

「私はこれでも第三主幹よ。れっきとしたギルド館の経営者じゃない。それがどうして、いくら元騎士とは言え、平の冒険者のネッドなのよ。

さぁ、話しなさい。パパと何を喋ったのか、話しなさい!」

メルの声は、もう泣きじゃくる寸前までいっている。

「……それは出来ないよ、メル姉。わかるだろ?」

ネッドは、従姉の目を見つめて言う。

「どうして、どうして、私じゃダメなのよ! こんなにパパの事を心配してるのに! 私じゃ、何の役にも立たないっていうの!?」

メルの視界は涙でぼやけ、ネッドの顔も、その瞳にはまともに映ってはいなかった。

「メル姉……」

ネッドは壁に押し当てたメルの両腕を優しくつかんで、そのまま下へと降ろさせた。

「違うよ、それは違う。役に立たないとか、そういう話じゃないんだ。メル姉の事を、僕も伯父さんもすごく大切に思っている。いや、伯父さんは僕の何百倍、何千倍もメル姉を大事に思ってるよ」

ネッドは、下へ降ろしたメルの手をそっと握りしめる。

「でも、物事には筋道ってものがある。伯父さんは、それを全うしようとしてるんだ。メル姉の出番は、まだ先って事だと思うよ」

メルはそのまま、うつむいた。涙がこぼれ落ち、足元の下草が揺れる。

「……わかった、わかったわよ。……もう行って、行ってちょうだい」

ネッドが握っている手を静かにほどき、メルはその場に立ち尽くす。

「……僕は、僕は出来るだけの事をするよ。本当に精一杯」

メルは何も答えない。だがネッドが掛けられる言葉は、今はもうそれ位しかなかった。

煌々と照らす月が見ている中、ネッドは自分のふがいなさを感じつつ家路を急ぐ。

今は探索に全力を尽くす事しか出来ない。結果が出ようと出まいと、そうするしかない。ネッドの胸の内に、魔人の炎にも負けない熱い思いがよぎった。

家へと帰る道すがら、ネッドは早くも明日の探索に思いを巡らす。あれだけの傷を負わせたのだ。仮に癒しの魔法を使ったとしても、明日またあのサラマンダーもどきが戦いを挑んでくるとは思えない。

「だけど……」

念のためラージ・ガンフィッシュの機能を付加した剣は持って行くが、もうさっきの戦法は使えないだろう。あの戦い方は、ネタが割れた後に通用するものじゃない。何故なら、敵が目いっぱいの炎を出した時に、大量の水を浴びせて初めて効果が出るからだ。

爆発に巻き込まれないためには、ある程度の距離を取って水流を撃たなくてはならない。だから向こうがこのさき何が起こるか知っていれば、避けられる可能性が高い。そもそも水が放たれた時に、奴が炎を引っ込めてしまえば、全く意味がなくなってしまう。これまでの事を考えると、奴が炎を瞬時に消せる能力を有しているのは明らかだ。

だがこのまま黙っていて、あいつがもう出て来ないとは考えられない。猶予は明日一日だけという事だろう。ネッドの頭には、早くも魔人との最終決戦に備えた方策が浮かびかけていた。

何かの考え事をしていると、時間というものはあっという間に過ぎていく。気がつくと、ネッドは自宅兼店舗「ハッピー・アディション」が見える場所まで戻っていた。

「あぁ、色々と失くしたアイテム……、シャミーに、何て言ったらいいんだろう。下手に言い訳をするよりも、怒られる前に平謝りしちゃおうかな……」

これから起こるかも知れない”惨劇”を如何に避けるかを、ネッドはあれやこれやと考える。自宅の窓に灯る明かりが、有り難くもあり、恐ろしくもあるネッドであった。

「ただいま、シャミー。いや、伯父さんのところに報告へ寄っていたら遅くなっちゃった! 別に、寄り道をしてたとかじゃないからね」

妹相手に、予防線を張りまくる情けない元・騎士の兄、ネッド。しかしこれが既に習慣化している事に、本人は未だ気がついていない。

「あら、お帰りなさい」

シャミーが、穏やかにネッドを迎えた。だが、この何げない表情に油断したらトンデモナイ羽目になると、ネッドの兄としての勘が警報を鳴らす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

ゴブリンに棍棒で頭を殴られた蛇モンスターは前世の記憶を取り戻す。すぐ死ぬのも癪なので頑張ってたら何か大変な事になったっぽい

竹井ゴールド
ファンタジー
ゴブリンに攻撃された哀れな蛇モンスターのこのオレは、ダメージのショックで蛇生辰巳だった時の前世の記憶を取り戻す。 あれ、オレ、いつ死んだんだ? 別にトラックにひかれてないんだけど? 普通に眠っただけだよな? ってか、モンスターに転生って? それも蛇って。 オレ、前世で何にも悪い事してないでしょ。 そもそも高校生だったんだから。 断固やり直しを要求するっ! モンスターに転生するにしても、せめて悪魔とか魔神といった人型にしてくれよな〜。 蛇って。 あ〜あ、テンションがダダ下がりなんだけど〜。 ってか、さっきからこのゴブリン、攻撃しやがって。 オレは何もしてないだろうが。 とりあえずおまえは倒すぞ。 ってな感じで、すぐに死ぬのも癪だから頑張ったら、どんどん大変な事になっていき・・・

処理中です...