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メルの涙
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「泣いてなんかいないわよ。何で泣かなきゃいけないの?」
だがその言葉とは裏腹に、メルの両眼からはボロボロと雫がこぼれ落ちている。
「だって……」
「だってじゃないわよ。何でパパは私には何も話してくれないのに、あなたには話すのよ!」
ネッドの言葉を遮るメル。
「私はこれでも第三主幹よ。れっきとしたギルド館の経営者じゃない。それがどうして、いくら元騎士とは言え、平の冒険者のネッドなのよ。
さぁ、話しなさい。パパと何を喋ったのか、話しなさい!」
メルの声は、もう泣きじゃくる寸前までいっている。
「……それは出来ないよ、メル姉。わかるだろ?」
ネッドは、従姉の目を見つめて言う。
「どうして、どうして、私じゃダメなのよ! こんなにパパの事を心配してるのに! 私じゃ、何の役にも立たないっていうの!?」
メルの視界は涙でぼやけ、ネッドの顔も、その瞳にはまともに映ってはいなかった。
「メル姉……」
ネッドは壁に押し当てたメルの両腕を優しくつかんで、そのまま下へと降ろさせた。
「違うよ、それは違う。役に立たないとか、そういう話じゃないんだ。メル姉の事を、僕も伯父さんもすごく大切に思っている。いや、伯父さんは僕の何百倍、何千倍もメル姉を大事に思ってるよ」
ネッドは、下へ降ろしたメルの手をそっと握りしめる。
「でも、物事には筋道ってものがある。伯父さんは、それを全うしようとしてるんだ。メル姉の出番は、まだ先って事だと思うよ」
メルはそのまま、うつむいた。涙がこぼれ落ち、足元の下草が揺れる。
「……わかった、わかったわよ。……もう行って、行ってちょうだい」
ネッドが握っている手を静かにほどき、メルはその場に立ち尽くす。
「……僕は、僕は出来るだけの事をするよ。本当に精一杯」
メルは何も答えない。だがネッドが掛けられる言葉は、今はもうそれ位しかなかった。
煌々と照らす月が見ている中、ネッドは自分のふがいなさを感じつつ家路を急ぐ。
今は探索に全力を尽くす事しか出来ない。結果が出ようと出まいと、そうするしかない。ネッドの胸の内に、魔人の炎にも負けない熱い思いがよぎった。
家へと帰る道すがら、ネッドは早くも明日の探索に思いを巡らす。あれだけの傷を負わせたのだ。仮に癒しの魔法を使ったとしても、明日またあのサラマンダーもどきが戦いを挑んでくるとは思えない。
「だけど……」
念のためラージ・ガンフィッシュの機能を付加した剣は持って行くが、もうさっきの戦法は使えないだろう。あの戦い方は、ネタが割れた後に通用するものじゃない。何故なら、敵が目いっぱいの炎を出した時に、大量の水を浴びせて初めて効果が出るからだ。
爆発に巻き込まれないためには、ある程度の距離を取って水流を撃たなくてはならない。だから向こうがこのさき何が起こるか知っていれば、避けられる可能性が高い。そもそも水が放たれた時に、奴が炎を引っ込めてしまえば、全く意味がなくなってしまう。これまでの事を考えると、奴が炎を瞬時に消せる能力を有しているのは明らかだ。
だがこのまま黙っていて、あいつがもう出て来ないとは考えられない。猶予は明日一日だけという事だろう。ネッドの頭には、早くも魔人との最終決戦に備えた方策が浮かびかけていた。
何かの考え事をしていると、時間というものはあっという間に過ぎていく。気がつくと、ネッドは自宅兼店舗「ハッピー・アディション」が見える場所まで戻っていた。
「あぁ、色々と失くしたアイテム……、シャミーに、何て言ったらいいんだろう。下手に言い訳をするよりも、怒られる前に平謝りしちゃおうかな……」
これから起こるかも知れない”惨劇”を如何に避けるかを、ネッドはあれやこれやと考える。自宅の窓に灯る明かりが、有り難くもあり、恐ろしくもあるネッドであった。
「ただいま、シャミー。いや、伯父さんのところに報告へ寄っていたら遅くなっちゃった! 別に、寄り道をしてたとかじゃないからね」
妹相手に、予防線を張りまくる情けない元・騎士の兄、ネッド。しかしこれが既に習慣化している事に、本人は未だ気がついていない。
「あら、お帰りなさい」
シャミーが、穏やかにネッドを迎えた。だが、この何げない表情に油断したらトンデモナイ羽目になると、ネッドの兄としての勘が警報を鳴らす。
だがその言葉とは裏腹に、メルの両眼からはボロボロと雫がこぼれ落ちている。
「だって……」
「だってじゃないわよ。何でパパは私には何も話してくれないのに、あなたには話すのよ!」
ネッドの言葉を遮るメル。
「私はこれでも第三主幹よ。れっきとしたギルド館の経営者じゃない。それがどうして、いくら元騎士とは言え、平の冒険者のネッドなのよ。
さぁ、話しなさい。パパと何を喋ったのか、話しなさい!」
メルの声は、もう泣きじゃくる寸前までいっている。
「……それは出来ないよ、メル姉。わかるだろ?」
ネッドは、従姉の目を見つめて言う。
「どうして、どうして、私じゃダメなのよ! こんなにパパの事を心配してるのに! 私じゃ、何の役にも立たないっていうの!?」
メルの視界は涙でぼやけ、ネッドの顔も、その瞳にはまともに映ってはいなかった。
「メル姉……」
ネッドは壁に押し当てたメルの両腕を優しくつかんで、そのまま下へと降ろさせた。
「違うよ、それは違う。役に立たないとか、そういう話じゃないんだ。メル姉の事を、僕も伯父さんもすごく大切に思っている。いや、伯父さんは僕の何百倍、何千倍もメル姉を大事に思ってるよ」
ネッドは、下へ降ろしたメルの手をそっと握りしめる。
「でも、物事には筋道ってものがある。伯父さんは、それを全うしようとしてるんだ。メル姉の出番は、まだ先って事だと思うよ」
メルはそのまま、うつむいた。涙がこぼれ落ち、足元の下草が揺れる。
「……わかった、わかったわよ。……もう行って、行ってちょうだい」
ネッドが握っている手を静かにほどき、メルはその場に立ち尽くす。
「……僕は、僕は出来るだけの事をするよ。本当に精一杯」
メルは何も答えない。だがネッドが掛けられる言葉は、今はもうそれ位しかなかった。
煌々と照らす月が見ている中、ネッドは自分のふがいなさを感じつつ家路を急ぐ。
今は探索に全力を尽くす事しか出来ない。結果が出ようと出まいと、そうするしかない。ネッドの胸の内に、魔人の炎にも負けない熱い思いがよぎった。
家へと帰る道すがら、ネッドは早くも明日の探索に思いを巡らす。あれだけの傷を負わせたのだ。仮に癒しの魔法を使ったとしても、明日またあのサラマンダーもどきが戦いを挑んでくるとは思えない。
「だけど……」
念のためラージ・ガンフィッシュの機能を付加した剣は持って行くが、もうさっきの戦法は使えないだろう。あの戦い方は、ネタが割れた後に通用するものじゃない。何故なら、敵が目いっぱいの炎を出した時に、大量の水を浴びせて初めて効果が出るからだ。
爆発に巻き込まれないためには、ある程度の距離を取って水流を撃たなくてはならない。だから向こうがこのさき何が起こるか知っていれば、避けられる可能性が高い。そもそも水が放たれた時に、奴が炎を引っ込めてしまえば、全く意味がなくなってしまう。これまでの事を考えると、奴が炎を瞬時に消せる能力を有しているのは明らかだ。
だがこのまま黙っていて、あいつがもう出て来ないとは考えられない。猶予は明日一日だけという事だろう。ネッドの頭には、早くも魔人との最終決戦に備えた方策が浮かびかけていた。
何かの考え事をしていると、時間というものはあっという間に過ぎていく。気がつくと、ネッドは自宅兼店舗「ハッピー・アディション」が見える場所まで戻っていた。
「あぁ、色々と失くしたアイテム……、シャミーに、何て言ったらいいんだろう。下手に言い訳をするよりも、怒られる前に平謝りしちゃおうかな……」
これから起こるかも知れない”惨劇”を如何に避けるかを、ネッドはあれやこれやと考える。自宅の窓に灯る明かりが、有り難くもあり、恐ろしくもあるネッドであった。
「ただいま、シャミー。いや、伯父さんのところに報告へ寄っていたら遅くなっちゃった! 別に、寄り道をしてたとかじゃないからね」
妹相手に、予防線を張りまくる情けない元・騎士の兄、ネッド。しかしこれが既に習慣化している事に、本人は未だ気がついていない。
「あら、お帰りなさい」
シャミーが、穏やかにネッドを迎えた。だが、この何げない表情に油断したらトンデモナイ羽目になると、ネッドの兄としての勘が警報を鳴らす。
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