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月夜の邂逅
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「どうして!?」
ギルマスの退陣宣言に驚くネッド。
「冒険者たちに、まともな情報を与えないで危険な仕事をさせたのだから、ギルマスとしての責任は大きいさ。実は最初にお前が屋敷へ駆け込んできたあと、王都側との交渉で、探索の遂行を押し切られた時から考えていたんだ」
「そ、そんな……」
ギルマスの立場とは、ここまで厳しいものなのか……。ネッドは、危うく落としそうになったティーカップを皿に戻した。
「サブ・ギルマスや、他の主幹は知っているんですか?」
「いや、まだ言っていない。動揺すると困るんでね。本当は、お前にも言う気はなかったんだか、事態が余りに深刻なので、つい話してしまった。済まない事をした」
ガントは、押しつぶされそうなプレッシャーに耐え切れず、甥に決意を話す事で少しでも楽になろうとした自分を恥じ、詫びた。
「もちろん、他言無用で頼む。特にメルにはな」
ギルドマスターが、念を押す。そうだろう。確かにメルに話などしたら、それこそ王都側の人間が逗留している宿屋に殴り込みをかけても不思議ではあるまい。ネッドは、ただ”わかりました”と了解するしかなかった。
秘密の小部屋を出て先ほど来た廊下を戻りながら、ネッドは拳を握りしめる。
僕は無力だ。
ネッドはあれだけ世話になった伯父の為に、何も出来ない自分を責めずにはいられなかった。
外へ通じる扉の所まで引き返し、ネッドはその隙間から辺りを伺う。夜陰に紛れてとはいえ、誰かに見られでもしたらエライ事である。
よし、誰もいないな。
人気のないのを確認し、ネッドは秘密のドアを開け外へ出た。既に月が辺りを照らしている。リルゴットの森で見る月と同じはずなのに、ネッドには、それがまるで違うもののように感じられた。
「秘密の内緒話は終わったの?」
突然の声に、ネッドがビクッとして振り向くと、そこには”困った坊やね”とでも言いたげな顔をしたメルが立っている。
「メル姉!」
思わず、その名を口に出してしまうネッド。
「え、えぇと。内緒の話って何? 」
余りの突然さに、ネッドはしどろもどろになる。まるで想定外の展開だ。ガントの話では、まだ彼女には、この入り口の秘密は話していないとの事だったので、これはシラを切り通すしかない
「しらばっくれないでよ。してたんでしょ、パパと」
何で、メル姉がそれを知ってるんだ? 考えろ、何とか考えて誤魔化すしかない。ネッドは、疲労した頭を必死に働かせた。
「安心して。別にあなたの後をつけて、ここを見つけたわけじゃないの。もう、何年も前から知ってたわ。ただ、パパもギルマスとしての立場があるだろうから、向こうが教えてくれるまで黙っていただけ」
本当だろうか? それともカマをかけているんだろうか?
「もう、疑い深いわね。これじゃぁ、将来結婚しても、ちょっと私が出歩いただけで、浮気でもしたんじゃないかって疑われちゃうわよね」
冗談めかして、年下の従弟をからかうメル・ライザー。
「じゃぁ、証拠を見せてあげる」
メルは既に固く閉ざされたドアを、特定の手順を踏んであっさりと開けてしまった。これは物陰から盗み見た程度で行えるわざではない。ネッドは、メルの言葉に嘘がないと判断した。
「うん……、確かに伯父さんと話した。でも内容を、メル姉に話すわけには行かないよ」
たとえメルがこの通路の存在を知っていたとしても、それが伯父との約束を破る理由にはならない。ネッドは何度も彼に自白を迫るメルの要求を、かたくなに拒絶した。
「どうして? どうしてよ!」
メルがズカズカと、ネッドに詰め寄って来る。ネッドは後ずさるものの、ついには壁に背をついてしまった。
「私だけ仲間外れ? 私はパパの娘で、第三主幹でもあるのよ。 話しなさい、ネッド・ライザー!」
ネッドの顔の両側に両腕を伸ばし、壁にドンと手をつくメル。従弟と従姉の顔は、そのままキスが出来るくらいに近づいている。
一瞬戸惑ったネッドだが、間近に迫ったメルの顔を見て、その表情に気がついた。
「泣いてるの? メル姉」
驚いたネッドが尋ねる。
ギルマスの退陣宣言に驚くネッド。
「冒険者たちに、まともな情報を与えないで危険な仕事をさせたのだから、ギルマスとしての責任は大きいさ。実は最初にお前が屋敷へ駆け込んできたあと、王都側との交渉で、探索の遂行を押し切られた時から考えていたんだ」
「そ、そんな……」
ギルマスの立場とは、ここまで厳しいものなのか……。ネッドは、危うく落としそうになったティーカップを皿に戻した。
「サブ・ギルマスや、他の主幹は知っているんですか?」
「いや、まだ言っていない。動揺すると困るんでね。本当は、お前にも言う気はなかったんだか、事態が余りに深刻なので、つい話してしまった。済まない事をした」
ガントは、押しつぶされそうなプレッシャーに耐え切れず、甥に決意を話す事で少しでも楽になろうとした自分を恥じ、詫びた。
「もちろん、他言無用で頼む。特にメルにはな」
ギルドマスターが、念を押す。そうだろう。確かにメルに話などしたら、それこそ王都側の人間が逗留している宿屋に殴り込みをかけても不思議ではあるまい。ネッドは、ただ”わかりました”と了解するしかなかった。
秘密の小部屋を出て先ほど来た廊下を戻りながら、ネッドは拳を握りしめる。
僕は無力だ。
ネッドはあれだけ世話になった伯父の為に、何も出来ない自分を責めずにはいられなかった。
外へ通じる扉の所まで引き返し、ネッドはその隙間から辺りを伺う。夜陰に紛れてとはいえ、誰かに見られでもしたらエライ事である。
よし、誰もいないな。
人気のないのを確認し、ネッドは秘密のドアを開け外へ出た。既に月が辺りを照らしている。リルゴットの森で見る月と同じはずなのに、ネッドには、それがまるで違うもののように感じられた。
「秘密の内緒話は終わったの?」
突然の声に、ネッドがビクッとして振り向くと、そこには”困った坊やね”とでも言いたげな顔をしたメルが立っている。
「メル姉!」
思わず、その名を口に出してしまうネッド。
「え、えぇと。内緒の話って何? 」
余りの突然さに、ネッドはしどろもどろになる。まるで想定外の展開だ。ガントの話では、まだ彼女には、この入り口の秘密は話していないとの事だったので、これはシラを切り通すしかない
「しらばっくれないでよ。してたんでしょ、パパと」
何で、メル姉がそれを知ってるんだ? 考えろ、何とか考えて誤魔化すしかない。ネッドは、疲労した頭を必死に働かせた。
「安心して。別にあなたの後をつけて、ここを見つけたわけじゃないの。もう、何年も前から知ってたわ。ただ、パパもギルマスとしての立場があるだろうから、向こうが教えてくれるまで黙っていただけ」
本当だろうか? それともカマをかけているんだろうか?
「もう、疑い深いわね。これじゃぁ、将来結婚しても、ちょっと私が出歩いただけで、浮気でもしたんじゃないかって疑われちゃうわよね」
冗談めかして、年下の従弟をからかうメル・ライザー。
「じゃぁ、証拠を見せてあげる」
メルは既に固く閉ざされたドアを、特定の手順を踏んであっさりと開けてしまった。これは物陰から盗み見た程度で行えるわざではない。ネッドは、メルの言葉に嘘がないと判断した。
「うん……、確かに伯父さんと話した。でも内容を、メル姉に話すわけには行かないよ」
たとえメルがこの通路の存在を知っていたとしても、それが伯父との約束を破る理由にはならない。ネッドは何度も彼に自白を迫るメルの要求を、かたくなに拒絶した。
「どうして? どうしてよ!」
メルがズカズカと、ネッドに詰め寄って来る。ネッドは後ずさるものの、ついには壁に背をついてしまった。
「私だけ仲間外れ? 私はパパの娘で、第三主幹でもあるのよ。 話しなさい、ネッド・ライザー!」
ネッドの顔の両側に両腕を伸ばし、壁にドンと手をつくメル。従弟と従姉の顔は、そのままキスが出来るくらいに近づいている。
一瞬戸惑ったネッドだが、間近に迫ったメルの顔を見て、その表情に気がついた。
「泣いてるの? メル姉」
驚いたネッドが尋ねる。
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