騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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しばしの休息

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「助けが入ったという事は、やはり逃がしてしまったという事か……」

さっさと、とどめを刺すべきだったのか?

 自らの心に問うネッドであったが、もし時間を巻き戻してあの場に戻ったとしても、決着をつけられたかどうかの自信がなかった。

それにあの謎の電撃。何者が放ったのかが、全くわからない。雷を使う魔物なのか、魔法使いの仕業かはたまた……。しかし、炎の魔人に援軍がいるのは確実だ。それも正確で強力な電撃を放てるかなりの手練れである。これは、尋常ならざる事態だとネッドは思った。

「あぁ、また”尋常ならざる事態”か……」

ゴワドン卿に出会って以来、この言葉を何度使っただろうか。ふと、リュランの顔が浮かぶ。

「今の話をしたら、あいつどんな顔をするだろうか。またぞろ審問官のような顔つきで、僕を問い詰めるんだろうなぁ……」

せめて今日は悪友の訪問がない事を祈りつつ、ネッドは手近な岩に腰掛けようとした。実質的な勝利を収めたとはいえ、激戦のあとである。無理をして先を急いでも、いい事はないだろう。

だがいざ座ろうとすると、膝がガクついて思うように腰を下ろせない。無理をすれば、そのまま尻もちをついてしまいそうだった。

「……騎士を辞めて、大分”なまった”かな」

王都を出て三カ月、機能付加職人の仕事に奮闘するあまり、戦士としての訓練を怠って来た自分を顧みる。

職人として研鑽を積むのは当然だとしても、やはり戦士としての訓練をサボるのは考えものだ。なぜなら、いつかは命を懸けて、闘わなくてはならない日が来るかも知れないのだから……。ネッドの身体に潜む力が災いを引き寄せるだろう事を、彼は十分に自覚していた。

膝に手を当て安定させた上で、ネッドは椅子代わりの岩にどうにか腰掛ける。

さて、これからどうしようか。手持ちの武器や防具は少なくなってしまったし、何よりあの電撃を放った何者かの再襲来があれば、戦いは大きく不利に傾くだろう。ネッドは少し迷ったが、これで今日の探索を終える事を決断した。

携帯食料を食べて三十分程休んだネッドは、リルゴットの森の入り口を目指して走り出す。早駆けの靴の魔力は、半分程度の回復を見せていたが、その機能は使わない。万が一ピンチに陥った時の為、魔力を温存する必要があるからだ。

「おっと、忘れるところだった」

森の浅い地帯へ足を踏み入れようとした時、ネッドは大切な事を思い出す。彼は辺りを見回したあと、再び”活躍しても悟られない仕掛け”を施した。もう帰途に着くのだから、冒険者たちの前で奮戦せざるを得ない事態には陥らないだろうが、一応は念のためである。

「あぁ、シャミーになんて言い訳しようか……」

雷玉、警報装置、ブレイドソーサー、全てが回収不能であり、かなりの損害と言わざるを得ない。それに引きかえ、賞金が出るような手柄は何も立ててはいない。炎の魔人には逃げられるし、電撃を放った何者かの正体も不明。小屋は見つけたけれど、決定的な証拠が出たわけでもない。

「こりゃ、晩ご飯は相当貧相になる覚悟をしなくちゃなぁ」

シャミーの憤怒の表情を思い浮かべ、足取りの重いネッドであったが、森の入り口近くまで来たのに気づき、また人目のつかない茂みに身を隠す。例の”仕掛け”を解除して、防具も出発の時の物に付け替えた。熱感知ゴーグルは既に外している。

森の入り口に出る頃には既に空はオレンジ色に染まっており、探索から戻った冒険者たちが散見された。向こうの方にライル一行のパーティーも見えたが、面倒な事になると困るので、早々にギルド館へと急ぐネッド。

「あら、ネッド。何か成果はあった?」

ギルド館のロビーに入ると、メルが声をかけて来る。何かを期待するような、何かあっては困るような、そんな微妙な口調であった。彼女もこの探索について、ある種の異常さを感じ取っているらしく、その現場責任者であるギルドマスターの父の立場を心配しているのである。

「ん~、特にないかな」

ネッドは、心苦しくも嘘をついた。まだ何もわからない状況で、メルに事実を話すのには無理がある。彼女の性格や父親への心配を鑑みた場合、話した途端に大騒ぎをし、下手をすれば王都側の人間に詰め寄るかも知れない。それは彼女の父親であり、ネッドの伯父であるギルドマスターも望まないだろう。

ネッドは受付に回り、一日目の基本報酬を受け取ってギルド館を後にする。ただ、このまま家に帰るわけではない。彼には、重要な仕事がまだ残っていた。
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