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震える森
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本来だったら、ここで雷玉やブレイドソーサーを使って、更に奴の気を焦らせたいところだが既にそれは叶わない。
ネッドは、勝負をかけた。
彼は敵の後ろへ回り込むが、濃霧に遮られ、炎の魔人はそれに気づかない。怪物から十メートルくらいの位置に到達したネッドは、おもむろに叫んだ。
「おい、僕はこっちだ。サラマンダーもどき!」
奴に、人の言葉が通じるかはわからない。だが、後を取られた事にはすぐ気づくだろう。ネッドの行動は、案の定、魔人の焦りを頂点に達っしさせる。振り向いた魔人は、全身から噴き出す炎を最大限に増幅させた。
今だ!
ネッドはアイテムの魔力を操って、水の剣の力を一気に解放する。次の瞬間、剣全体から大量の水の塊が勢いよく発射された。それと同時に彼は、予め見つけておいた複数の岩が重なって出来た窪みに一目散へと逃げ込んでいく。早駆けのアーマーブーツと、彼本来の素早さあっての芸当であった。
ネッドが避難場所へ身を潜めたのとほぼ同時に、炎の魔人が立っていた場所で、凄まじい轟音と共に大爆発が起こった。
水蒸気爆発である。
ネッドの狙っていたのは、これであった。炎の化け物に対し、炎の爆発を仕掛けても効果はないだろう。また氷の剣が通用するかわからない状況で、それを使った剣技で打倒するのにも大きなリスクがある。
そう考えたネッドは、敵の炎を利用して大きなダメージを与える、賭けとも言える作戦を考え出したのであった。
だがこれで終わったわけではない。未知の力を持った敵に油断は禁物だ。ネッドは爆発のあと、すぐさま岩の隙間からはい出して、熱感知ゴーグルを使い魔人のいたあたりをサーチする。
思った通り、奴の炎の反応は著しく減少していた。そして少しずつ晴れて来た霧の向こう側に、明らかに苦しがっている魔人が現れる。今なら手持ちの剣で急所を狙えば、必ず仕留める事が出来る。ネッドの騎士としての経験が、彼に確信を与えた。
早駆けの靴をフル回転させ、一気に敵との間合いを詰めるネッド。
狙うは奴の首筋だ。大抵の生物はそこを切り裂く事で命を絶つ事が出来る。それに今、奴の体には殆ど炎がまとわれていない。つまり剣を溶かされる事なく、充分に深く斬り込める。
ネッドの剣が既に炎の消えかかっている魔人の首筋に到達すると思われた時、魔人は最後の力を振り絞ってその剣を逞しい腕で撥ね退けた。実を言えば、ネッドの剣が一瞬ためらいを帯び、その為に魔人に反撃の機会を与えたからである。
「まだ、こんな力が残っているのか?」
ネッドは多少の焦りを感じたが、もう後戻りはできない。ここで何一つ追加ダメージを与えられなければ、形勢が逆転する可能性だってある。そこで、ネッドの騎士の感性が光った。
ならば!
再び上段に剣を構え切りかかったネッドに対し、炎の魔人は本能的に両手で頭部を守る仕草を取る。それなりに知性のある生物ならば当然の成り行きだ。しかし、それがネッドの計略でもあった。ネッドはすかさず剣を逆手に持ち替えて、敵の無防備に晒された右の太ももに剣を深く突き刺した。
凄まじい叫び声をあげる火トカゲに似た炎の魔人。
ネッドはそのまま剣を二、三回グリグリとこねくり回すと、一気にそれを引き抜いた。大量の鮮血がほと走るのと同時に、更に大きな咆哮が森の木々を大きく揺らす。
ネッドは炎の帯が届かない距離まで後ずさり、様子を伺った。このまま、とどめを刺せるのか? それとも傷をものともせずに、奴は襲って来るのか? ネッドは必死に、それを見極めようとしていた。
もしこのまま奴が動けないようならば、更なる一撃を加えるが、先ほどまでとさして変わらぬ力を再び発揮するのなら、潔く退散しよう。今の奴の足では、早駆けの靴に追いつく事はないだろう。ネッドはそう考えた。
ネッドは、勝負をかけた。
彼は敵の後ろへ回り込むが、濃霧に遮られ、炎の魔人はそれに気づかない。怪物から十メートルくらいの位置に到達したネッドは、おもむろに叫んだ。
「おい、僕はこっちだ。サラマンダーもどき!」
奴に、人の言葉が通じるかはわからない。だが、後を取られた事にはすぐ気づくだろう。ネッドの行動は、案の定、魔人の焦りを頂点に達っしさせる。振り向いた魔人は、全身から噴き出す炎を最大限に増幅させた。
今だ!
ネッドはアイテムの魔力を操って、水の剣の力を一気に解放する。次の瞬間、剣全体から大量の水の塊が勢いよく発射された。それと同時に彼は、予め見つけておいた複数の岩が重なって出来た窪みに一目散へと逃げ込んでいく。早駆けのアーマーブーツと、彼本来の素早さあっての芸当であった。
ネッドが避難場所へ身を潜めたのとほぼ同時に、炎の魔人が立っていた場所で、凄まじい轟音と共に大爆発が起こった。
水蒸気爆発である。
ネッドの狙っていたのは、これであった。炎の化け物に対し、炎の爆発を仕掛けても効果はないだろう。また氷の剣が通用するかわからない状況で、それを使った剣技で打倒するのにも大きなリスクがある。
そう考えたネッドは、敵の炎を利用して大きなダメージを与える、賭けとも言える作戦を考え出したのであった。
だがこれで終わったわけではない。未知の力を持った敵に油断は禁物だ。ネッドは爆発のあと、すぐさま岩の隙間からはい出して、熱感知ゴーグルを使い魔人のいたあたりをサーチする。
思った通り、奴の炎の反応は著しく減少していた。そして少しずつ晴れて来た霧の向こう側に、明らかに苦しがっている魔人が現れる。今なら手持ちの剣で急所を狙えば、必ず仕留める事が出来る。ネッドの騎士としての経験が、彼に確信を与えた。
早駆けの靴をフル回転させ、一気に敵との間合いを詰めるネッド。
狙うは奴の首筋だ。大抵の生物はそこを切り裂く事で命を絶つ事が出来る。それに今、奴の体には殆ど炎がまとわれていない。つまり剣を溶かされる事なく、充分に深く斬り込める。
ネッドの剣が既に炎の消えかかっている魔人の首筋に到達すると思われた時、魔人は最後の力を振り絞ってその剣を逞しい腕で撥ね退けた。実を言えば、ネッドの剣が一瞬ためらいを帯び、その為に魔人に反撃の機会を与えたからである。
「まだ、こんな力が残っているのか?」
ネッドは多少の焦りを感じたが、もう後戻りはできない。ここで何一つ追加ダメージを与えられなければ、形勢が逆転する可能性だってある。そこで、ネッドの騎士の感性が光った。
ならば!
再び上段に剣を構え切りかかったネッドに対し、炎の魔人は本能的に両手で頭部を守る仕草を取る。それなりに知性のある生物ならば当然の成り行きだ。しかし、それがネッドの計略でもあった。ネッドはすかさず剣を逆手に持ち替えて、敵の無防備に晒された右の太ももに剣を深く突き刺した。
凄まじい叫び声をあげる火トカゲに似た炎の魔人。
ネッドはそのまま剣を二、三回グリグリとこねくり回すと、一気にそれを引き抜いた。大量の鮮血がほと走るのと同時に、更に大きな咆哮が森の木々を大きく揺らす。
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もしこのまま奴が動けないようならば、更なる一撃を加えるが、先ほどまでとさして変わらぬ力を再び発揮するのなら、潔く退散しよう。今の奴の足では、早駆けの靴に追いつく事はないだろう。ネッドはそう考えた。
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