騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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ネッドの逆襲

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魔石を使った単なる機能向上の場合、それは掛け値なしの性能を常に発揮する。強さをプラスすれば常に所定の数値がプラスされた威力を発揮する。もっとも使い過ぎれば一時的に魔石の威力が落ちてしまうので注意が必要なのではあるが……。

だが魂石を使ったアイテムの場合、魔石と同様の仕様にも出来るが、使用者が望んだ時だけ威力を発揮するようにも出来る。これは魔力の無駄遣いを防ぐのと、機能付加の内容を相手に悟られないようにする利点があった。そしてネッドは今、剣に封じた力を使おうとしている。

けたたましい雄たけびをあげながら、全身炎と化した魔人サラマンダーがネッドに襲いかかる。ネッドは氷の盾でそれを防ぎながら、奴に一撃を与える隙を狙い定めている。一方、炎の魔人は、氷の盾の威力とネッドの超一流の体技の前に、なかなか思うように攻撃の成果を得られず、大いに冷静さを失っていった。

今だ!

ネッドは敵の斜め後ろへ回り込み、その剣を魔人の二の腕に振り降ろした。途端にその部分から激しい音を立てながら、勢いよく水蒸気が発生する。予想もしなかった展開に、炎の魔人は本能的に後ろへ退いた。

よし、とりあえずは成功だ。

ネッドは心の中で少し安堵する。この剣に込められた魂石は、湖に住む魔物ラージ・ガンフィッシュのものだ。普通の鉄砲魚を巨大化させたようなモンスターで、口から発する高圧の水は、優に人一人を死に至らしめる力がある。そのため、能力を解放されたこの剣は、触れた相手に強力な水流を打ち込むのであった。

実のところネッドは、この剣の使用を迷っていた。相手が炎の魔物である以上、もっとも有効だと思われるのは氷属性の機能付加である。よって炎の魔物対策には、氷の剣と氷の盾を使うのが理にかなったやり方だ。

しかしネッドには、一つの不安があった。

”もしも相手の炎の力が、氷の力を上回っていたら”

その場合、氷の剣も盾も、炎対策としての攻撃効果は意味をなさなくなる。単に溶けない、燃えない剣と盾として”普通の攻防”が出来るに過ぎない。それだと、いつかは奴の炎にやられてしまう。ネッドはそう考え、氷の剣ではなく水の剣を作り上げたのだった。

彼の判断は、的中した。氷の盾が防戦にしか使えないのなら、氷の剣も只の剣としての威力しか発揮できないのは明らかだ。

そして騎士としての勘を急速に取り戻していったネッドは、素早く的確な攻撃を繰り返し、敵を斬りつけていく。その度に激しい蒸気が噴き出して、辺りは段々と霧が掛かったような状態になっていった。

これはネッドにとって、大変有利な状況である。伸ばした自分の手のひらさえまともに見えなくなるほどの濃霧の中では、いかに炎の魔人と言えども動きは鈍る。それどころか、敵であるネッドの位置すらまともに把握できないだろう。

一方ネッドは、熱探知ゴーグルを装備している。どれだけ霧が深かろうとも、強い熱を発している魔人の位置は、一目瞭然にわかるのだ。

ネッドはこの機を逃さず、次々と魔人に傷を負わせていく。その度に、苦痛に満ちた獣の如き悲鳴を上げる炎の魔人。やみくもに体当たりを試みたり、炎の帯を出すものの、それがネッドに当たるはずもない。どうやら凄まじい力を持ってはいるが、戦いには今一つ慣れていない印象をネッドは持った。

今や魔人は完全にネッドの術中にはまり、その心は焦りに満ちている。それどころか、どうやら炎を全身から噴出させる能力にも限界が近いようだ。

だがネッドにしても、このままでは大打撃を与える事は出来ない。水を発する剣は普通のそれに比べれば熱に対して耐久性はある。だが氷の剣ほどの耐久性はないので、長い時間、奴の炎に晒すわけには行かない。よって深く斬り込み、致命的な傷を負わせるのは難しい。こんな事を繰り返していては、むしろ彼の体力の方が、やがては限界を迎えてしまうだろう。

ネッドは迷った。それはネッドが想定した以上に水蒸気が充満し、一種の煙幕のようになっていたからだ。奴は今、僕の居所を正確には捉えられていない。このまま逃げる事も出来るのではないか? だが、ここで逃げてしまったら、同じ手は二度と通用しないだろう。奴は、知性のある化け物なのだから。

どうする? 退くか、戦うか?

一瞬の内に判断を下したネッドは、練りに練った作戦を最終段階へと移行する。
 
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