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波乱の予感
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用心深く、如何にも怪しげな小屋に近づくネッド。ただ、小屋と言っても避難目的の代物だけあって、それなりの大きさがある。屋内に人が集い、良からぬ企みを実行するには十分すぎる環境だ。
ネッドは迷った。こういった建物を調べる場合、表に見張りを立てるのが常識だ。いつ何時、敵が現れるかわからないからである。そうなれば一気に袋のネズミとなり、命の危険を考えなければならない。
だが今は、ネッド一人きりだ。
「仕方ないな」
ネッドはシャミーに怒られるのを覚悟で、辺りの木々に魔法で動く警報装置を幾つか取り付けた。何かを探知すると、手元の受信機に知らせが入る。ある程度大きな物体が横切らねば反応しないので、小動物が駆け抜けた程度では作動しない。ただ、実際に敵対者が現れれば、もちろん装置の回収は不可能となり、結構な出費となるのは避けられないだろう。
「さてと」
ネッドは、改めて問題の小屋を見上げた。大きさとしては、まぁ中流階級の住宅程度はあり、二階建てである。ただ避難小屋だけあって、一般住宅にはない大き目な物置やらその他の設備もあるようだ。
恐らく誰もいないだろうが、注意を怠るわけには行かない。まずは、一階の窓から中の様子を伺ってみる。
「中々、きれいだな……」
それがネッドの第一印象であった。つまりは、最近まで人がいたと考えるのが妥当だろう。とても数十年単位で、打ち捨てられていたようには見えないからだ。ネッドは騎士の感覚を研ぎ澄ませたが、人のいる気配は感じられなかった。もっとも地下室があって、そこに誰かが身を潜めていたら気づくのは難しいだろう。
よし。
いつまでも悩んでいる時間はない。ネッドは踏ん切りをつけて、玄関ドアのノブに手をかけた。そして思い切りよく扉を開き、不意の攻撃に備えて盾と剣を構える。だが、彼の警戒に応えるものは何もなかった。
ネッドはそれでも慎重に部屋の中へと入り、様々なものを注意深く観察する。外から見た通り、部屋の中は快適とまではいかないまでも、充分に人が住める状態となっていた。つい最近まで、複数の人間が滞在していた痕跡もある。
一階を調べ終え、二階へ昇ってみたが、同じような結果に終わり、これといった収穫はなかった。あとは地下室の存在である。この手の避難小屋は物資を保存しておくものなので、大抵は地下室があった。ネッドは一階に引き返し、地下への入り口を探す。
「おっと、ここか」
隠し扉というほどではないが、いささか見つけづらい所に果たしてそれはあった。状況を考えれば、ここからが探索の本番となる。
「ちくしょう。こんな事なら、暗視ゴーグルも持ってくるんだった」
真暗な地下へそのまま降りるわけにも行かないので、ネッドは止むを得ず照明魔法が込められている魔道具を使った。もし誰かが下に潜んでいたら、格好の的になってしまうだろう。
一歩、また一歩。ネッドは慎重に階段を下りて行った。幸いにも何も起きる事はなく、ネッドは地下の倉庫だったと思しき場所に辿り着く。罠などの恐れがないと判断した彼は、そこで照明の強さをアップする。部屋の隅々までもが、魔道具の灯りで照らし出された。
「!」
そこには如何にも”怪しげ”な、道具や装置の数々があり、つい最近まで、ここで何かの陰謀が着々と進んでいたのは間違いない。ネッドは持ちうる知識を総動員して、それらが何に使われていたのかを考えた。
「魔石に関する、何かには違いないが……」
ヒントは例の不良魔石だが、それをどうにかする実験などには思えない。ネッドの機能付加職人としての勘がそう言っている。では、何をしていたのだろうか? 論理的な根拠は全くなかったが、ネッドの心の奥の奥で、信じたくはない推測が成り立った。
「まさか、そんな事が……。いや、有り得ないだろう」
彼自身、どうしても自分の考えを否定したい衝動にかられ、ネッドは混乱する。
その時である。彼の携えていた魔道具から、けたたましい音が鳴った。小屋のまわりに張り巡らせておいた警報装置に、何か引っかかるものがあった知らせである。
ネッドは後ろ髪を引かれる思いで、地下室を後にした。
ネッドは迷った。こういった建物を調べる場合、表に見張りを立てるのが常識だ。いつ何時、敵が現れるかわからないからである。そうなれば一気に袋のネズミとなり、命の危険を考えなければならない。
だが今は、ネッド一人きりだ。
「仕方ないな」
ネッドはシャミーに怒られるのを覚悟で、辺りの木々に魔法で動く警報装置を幾つか取り付けた。何かを探知すると、手元の受信機に知らせが入る。ある程度大きな物体が横切らねば反応しないので、小動物が駆け抜けた程度では作動しない。ただ、実際に敵対者が現れれば、もちろん装置の回収は不可能となり、結構な出費となるのは避けられないだろう。
「さてと」
ネッドは、改めて問題の小屋を見上げた。大きさとしては、まぁ中流階級の住宅程度はあり、二階建てである。ただ避難小屋だけあって、一般住宅にはない大き目な物置やらその他の設備もあるようだ。
恐らく誰もいないだろうが、注意を怠るわけには行かない。まずは、一階の窓から中の様子を伺ってみる。
「中々、きれいだな……」
それがネッドの第一印象であった。つまりは、最近まで人がいたと考えるのが妥当だろう。とても数十年単位で、打ち捨てられていたようには見えないからだ。ネッドは騎士の感覚を研ぎ澄ませたが、人のいる気配は感じられなかった。もっとも地下室があって、そこに誰かが身を潜めていたら気づくのは難しいだろう。
よし。
いつまでも悩んでいる時間はない。ネッドは踏ん切りをつけて、玄関ドアのノブに手をかけた。そして思い切りよく扉を開き、不意の攻撃に備えて盾と剣を構える。だが、彼の警戒に応えるものは何もなかった。
ネッドはそれでも慎重に部屋の中へと入り、様々なものを注意深く観察する。外から見た通り、部屋の中は快適とまではいかないまでも、充分に人が住める状態となっていた。つい最近まで、複数の人間が滞在していた痕跡もある。
一階を調べ終え、二階へ昇ってみたが、同じような結果に終わり、これといった収穫はなかった。あとは地下室の存在である。この手の避難小屋は物資を保存しておくものなので、大抵は地下室があった。ネッドは一階に引き返し、地下への入り口を探す。
「おっと、ここか」
隠し扉というほどではないが、いささか見つけづらい所に果たしてそれはあった。状況を考えれば、ここからが探索の本番となる。
「ちくしょう。こんな事なら、暗視ゴーグルも持ってくるんだった」
真暗な地下へそのまま降りるわけにも行かないので、ネッドは止むを得ず照明魔法が込められている魔道具を使った。もし誰かが下に潜んでいたら、格好の的になってしまうだろう。
一歩、また一歩。ネッドは慎重に階段を下りて行った。幸いにも何も起きる事はなく、ネッドは地下の倉庫だったと思しき場所に辿り着く。罠などの恐れがないと判断した彼は、そこで照明の強さをアップする。部屋の隅々までもが、魔道具の灯りで照らし出された。
「!」
そこには如何にも”怪しげ”な、道具や装置の数々があり、つい最近まで、ここで何かの陰謀が着々と進んでいたのは間違いない。ネッドは持ちうる知識を総動員して、それらが何に使われていたのかを考えた。
「魔石に関する、何かには違いないが……」
ヒントは例の不良魔石だが、それをどうにかする実験などには思えない。ネッドの機能付加職人としての勘がそう言っている。では、何をしていたのだろうか? 論理的な根拠は全くなかったが、ネッドの心の奥の奥で、信じたくはない推測が成り立った。
「まさか、そんな事が……。いや、有り得ないだろう」
彼自身、どうしても自分の考えを否定したい衝動にかられ、ネッドは混乱する。
その時である。彼の携えていた魔道具から、けたたましい音が鳴った。小屋のまわりに張り巡らせておいた警報装置に、何か引っかかるものがあった知らせである。
ネッドは後ろ髪を引かれる思いで、地下室を後にした。
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