76 / 153
怪しい小屋
しおりを挟む
「お、俺たちは騙された……。キャシー……、メアリ―……、すまない……」
男はそう言い残すと、まぶたを静かに閉じた。今わの際に漏らした女性の名は、妻と娘のものだろうか。彼の命を救えなかった自責の念を抱きつつ。ネッドは、男と彼の仲間であろう他の男たちを観察した。
彼らの体には例外なく剣による切り傷があり、それもかなり深いものであった。決して、グールにやられたものではない。恐らくは別の場所で深手を負い、命からがらここまで逃げてきたところをグールに見つかってしまったのだろう。
「こ、これは……!」
男たちの体を調べていたネッドが思わず口走った。彼らの首には、同じペンダントが下げられていたからである。それは多くの魔石の精製職人が携えているものであり、一種の魔よけであった。魔物とはいえ、命のあった生き物を魔石に精製するのである。その行為には絶えず”けがれ”の文字が付きまとう。
「この人たちは、精製職人だったのか……」
ネッドの頭に、とある事実が閃いた。
もしかしてあの時、不良品の魔石を運んでいたのは、この男たちではなかったのか? もちろん証拠は全くないが、こんな森の奥へ立ち入る者など殆どいない上に、全員そろってペンダントをしているとなれば、これはかなり確実な予測であった。
「すまないけど……」
ネッドは彼らを茂みの中に運び、アンデット対策で携帯していた聖水を振りかける。これで死臭はしばらく抑えられるし、獣の餌になる事もあるまい。今日の探索を終えたのち、ギルドへ報告して遺体を回収してもらう他はない。
ネッドは気を取り直し、再び先ほどの道へと戻った。よく見ると、彼らが襲われていた場所から少し離れた所には血のしたたりおちた跡があり、それはとぎれとぎれではあるものの、森の奥へと続いていた。
これを、辿って行けば……。
ネッドは、この異常な事態を解明する手掛かりになると確信し、更に森の奥へと進んでいく。
道すがらネッドは考える。彼らは恐らく魔石の精製職人だろう。となると、やはりこれは、魔石の不法投棄なのだろうか? しかしそう考えるには不自然な事が多すぎる。一体どうなっているんだろうか。
やがて魔石を拾った場所から一キロばかり離れた所であろうか、彼はそこに小さい建物を発見した。恐らくは森の避難小屋として使われていたものの、年月を経るにつれて劣化し放棄されたものであろう。
聞くところによれば、リルゴットの森も、昔は今ほど魔物の徘徊する場所ではなかったらしく、貴重な野草や鉱石捜しに森の奥に立ち入る者も少なくなかったとの話だ。これはそんな彼らの為に、用意されたものに違いない。
普通に想像すれば、謎の集団はここを目指したのではなかろうか?それならば今、連中はこの中にいるという事なのか……。いや、彼らは”騙されて、殺されかけた”のではなかったのか。では”騙した奴”が、ここにいる……?
いや、精製職人たちの役目が終ったので、彼らの口を封じたと考えるのが妥当だろう。それが、未だにこの隠れ家に居るとは思えない。ネッドは迷った挙句、ソロリ、ソロリと小屋の方へと近づいていった。
男はそう言い残すと、まぶたを静かに閉じた。今わの際に漏らした女性の名は、妻と娘のものだろうか。彼の命を救えなかった自責の念を抱きつつ。ネッドは、男と彼の仲間であろう他の男たちを観察した。
彼らの体には例外なく剣による切り傷があり、それもかなり深いものであった。決して、グールにやられたものではない。恐らくは別の場所で深手を負い、命からがらここまで逃げてきたところをグールに見つかってしまったのだろう。
「こ、これは……!」
男たちの体を調べていたネッドが思わず口走った。彼らの首には、同じペンダントが下げられていたからである。それは多くの魔石の精製職人が携えているものであり、一種の魔よけであった。魔物とはいえ、命のあった生き物を魔石に精製するのである。その行為には絶えず”けがれ”の文字が付きまとう。
「この人たちは、精製職人だったのか……」
ネッドの頭に、とある事実が閃いた。
もしかしてあの時、不良品の魔石を運んでいたのは、この男たちではなかったのか? もちろん証拠は全くないが、こんな森の奥へ立ち入る者など殆どいない上に、全員そろってペンダントをしているとなれば、これはかなり確実な予測であった。
「すまないけど……」
ネッドは彼らを茂みの中に運び、アンデット対策で携帯していた聖水を振りかける。これで死臭はしばらく抑えられるし、獣の餌になる事もあるまい。今日の探索を終えたのち、ギルドへ報告して遺体を回収してもらう他はない。
ネッドは気を取り直し、再び先ほどの道へと戻った。よく見ると、彼らが襲われていた場所から少し離れた所には血のしたたりおちた跡があり、それはとぎれとぎれではあるものの、森の奥へと続いていた。
これを、辿って行けば……。
ネッドは、この異常な事態を解明する手掛かりになると確信し、更に森の奥へと進んでいく。
道すがらネッドは考える。彼らは恐らく魔石の精製職人だろう。となると、やはりこれは、魔石の不法投棄なのだろうか? しかしそう考えるには不自然な事が多すぎる。一体どうなっているんだろうか。
やがて魔石を拾った場所から一キロばかり離れた所であろうか、彼はそこに小さい建物を発見した。恐らくは森の避難小屋として使われていたものの、年月を経るにつれて劣化し放棄されたものであろう。
聞くところによれば、リルゴットの森も、昔は今ほど魔物の徘徊する場所ではなかったらしく、貴重な野草や鉱石捜しに森の奥に立ち入る者も少なくなかったとの話だ。これはそんな彼らの為に、用意されたものに違いない。
普通に想像すれば、謎の集団はここを目指したのではなかろうか?それならば今、連中はこの中にいるという事なのか……。いや、彼らは”騙されて、殺されかけた”のではなかったのか。では”騙した奴”が、ここにいる……?
いや、精製職人たちの役目が終ったので、彼らの口を封じたと考えるのが妥当だろう。それが、未だにこの隠れ家に居るとは思えない。ネッドは迷った挙句、ソロリ、ソロリと小屋の方へと近づいていった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。
『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる