騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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グール

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ネッドは、何ものをも見逃さないよう、慎重に歩を進める。早駆けのアーマーブーツを休ませるには、いい機会だ。

「ここら辺は、まだ来た事がないなぁ」

しんとした森で、ネッドはひとり呟く。そうでもしないと、何かうすら寒い感じすら覚えるからだ。先ほどの魔石の件を考えると、これは本当に不可解な出来事である。誰もが予想だにしていない事態が、この森の中で起きているに違いない。だがネッドには、その正体がまるで分らなかった。

「そうか、もうこの辺でならいいかな……。」

ネッドは”活躍しても注目されない仕掛け”を解除した。密かに店を訪ねて来た伯父の使いから知らされていた探索計画では、本日中にここまでくるパーティーはいない。まだ遥か森の入り口付近でしか活動してない予定であった。ネッドがこのあたりで何をしても、それを見る”まっとうな”人間は誰もいないだろう。

ネッドは、探索を再開した。

注意深く辺りを探索してはいるものの、なかなか目当ての”何か”は見つからない。そもそも何を探せば良いのかすらわからないので、当然と言えば当然であろう。諦めて炎の魔物と出会った場所まで引き返そうとした時、森の奥の方から、かすかな唸り声が聞こえて来た。

「グールだ!」

ネッドは直感した。あの耳障り極まりない声。彼は連中にチョットしたトラウマがあって、その察知には特に敏感だった。グールとは人を食らう亜人の魔物であり、彼らがいるという事は、そこには人間の死体か、もしくはまもなく死体になろうとする人間がいるに違いない。

何でこんな森の奥に人が……? とは思いつつも、まだ生きている可能性も十分に考えられたので、ネッドは早駆けのアーマーブーツを全開にして、声のした方へと向かった。

やがて遠目に人だかり、これはグールの人だかりであるが、七、八体であろうか。既に獲物を喰らっている様子である。ネッドは、ここで迷った。生きている人間がいるのであれば、当然助けに行くべきだ。しかし既に死んでいるのなら、探索任務中の今、余計な事に首を突っ込むべきではない。

ネッドが躊躇していると、わずかに呻き声が聞こえて来た。これはグールのものではない。明らかに人間の声である。生きている! まだ、生きている者がいるのだ。

ネッドは急ぎ、装備を炎の魔物用から通常の物に戻すと、一直線に忌まわしい魔物たちへ向かい突進していった。普通の状況であれば、何の策もない近づき方であり、騎士としてあるまじき悪手である。だが、事は一刻を争う。回り込んでいる間に、生存者が殺されては元も子もない。

ネッドは大声をあげた。こちらに少しでも注意を引き、被害者が殺されるのを遅らせるためだ。案の定、グールたちはネッドに気がつき防御態勢を取った。これで少しは、時間を稼げるはずである。

ネッドはわざと剣を大きく振りまわし、自分が彼らにとって脅威である存在だとアピールする。魔物たちはネッドの企みにまんまとはまり、自分たちの食事を邪魔する者へと襲い掛かっていった。

しかしネッドは、少しもひるまない。彼の素早い動きを阻害しない、ショートソードとスモールシールドを駆使して、連中の首を次々とはねていく。元来、死体か、瀕死の人間しか相手に出来ないグールの戦闘力など、たかが知れている。

だが、ここでもネッドは違和感を持った。騎士であった彼にかなうはずはないものの、それでもネッドの知っているグールよりは強い。そもそも死体専門のグールたちが、武器を持って迫りくる相手に向かって、これだけ果敢に挑んでくるという事自体、非常に稀であると言わざるを得ないのだ。

「去れ!」

ネッドが一声挙げると、未だに胴と首が繋がっている残りの二体が、一目散に茂みの中へと消えていった。あたりの安全を確認しつつ、ネッドはグールたちがたまっていた場所へと急ぐ。

そこには三人の男たちが横たわっていた。しかし、そのうち二人は既に”食べかけ”の状態だった。ネッドは、まだ息のあった残りの一人を抱きおこす。

「大丈夫か!」

しかし誰の目から見ても、その男は虫の息であった。それでも彼はネッドの腕を弱々しく掴み、この世で最後の会話を試みる。
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