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シャミーの想い
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探索一日目の朝。
ネッドは、珍しく爽快な朝を迎えていた。寝不足でもなく、寝すぎでもない。只々、これからの三日間を充実させるための、良きコンディションを得ていた。騎士生活を続けていたネッドの体には、こういった必要不可欠のスキルが染みついている。
「おはよう、シャミー」
食堂のドアを開きながら、ネッドが朝の挨拶をする。
「しっかりと眠ったようね。いつもの、ボンヤリとした顔とは大違いだわ」
普段は、そんなにボンヤリとしてるのかなぁ。ネッドは、妹の本気とも皮肉ともつかない言葉を聞き流しながら、テーブルへとついた。
「あれ? 何か朝食の中身が、いつもより豪勢な気が……」
食卓に並ぶメニューを見て、ネッドは思わず口にする。
「リュランが持って来てくれた物の余りよ。腐らせても、もったいないから、出しちゃうわ」
シャミーが、気のない素振りで応えた。保存庫があるので、如何にも足が早い物でない限りは、そうそう痛むものではない。だが騎士一辺倒でやって来たネッドには、そこら辺の知識が乏しかった。
「へぇ、そいつは、巡り合わせが良かったなぁ。これで今日の探索も、グッと頑張れるぞ」
”その為”に、妹が腕によりをかけた事にも気がづかず、ネッドは、機嫌よく朝食をにありつく。もちろん、リュランが連日豪華な食材を持ち込んできた意図になど、考えが及ぶはずもなかった。
いつもとは打って変わって静かに食事をとるシャミーを尻目に、ひとり朝食を食べ終えたネッドは仕事場へ向かう。そこには、昨日までに準備をしたアイテムの数々が並べられていた。
まぁ、こんなものかな。これが実際に、あの火の魔物に通じるかどうかはわからないけど……。
ネッドは、ブレスレット型の魔道具に幾つかのアイテムを触れさせ、呪文を唱える。するとそれらは、見る見る内に小さくなっていった。これは物を圧縮する魔法であり、この世界では広く使われている手段である。ネッドはミニチュアのようになった各種アイテムを、バッグの中に詰め込んだ。
「じゃぁ、そろそろ行くかな」
ネッドは自分を鼓舞するように、わざと声に出す。そして、まだ食堂に居るシャミーに軽く声をかけた。
「あっ、そう。行ってらっしゃい」
てっきり”必ず手柄を立てて、賞金をゲットしてくるのよ!”といった檄が飛ばされると思っていたネッドは、何だか拍子抜けしたような気分だ。
バタン。
玄関ドアの閉まる音を聞いたシャミーが、自分の部屋の引き出しから小さな鉱石を二つ取り出した。次に彼女は、ネッドが十分家を離れた事を窓から確認し、一人外へ出る。
「気を付けて……。必ず無事で帰ってきて……」
そう言うとシャミーは、二つの鉱石をおもむろに激しく打ち鳴らす。途端にそこからは、拳骨くらいの青白い炎が立ち昇った。
「熱っ!」
シャミーが思わず口走る。だが、石を落とすわけには行かない。そうなれば、この”まじない”は無効となる。
これはまだ世界が混とんに包まれていた昔、外出した家人が無事に戻って来るよう願う為の、呪術の一つであった。
自らの苦痛を”供物”として神に捧げ、愛する人を護ってもらおうという願掛けだ。今はもう、かなりの年寄りでなければ存在自体を知らない代物である。
リュランがシャミーに全てを話したわけではない。だがその口調や様々な情報から、彼女は今度の探索が兄にとって、決して安全とは言えない仕事であると察していた。
ネッドの騎士時代からずっと、シャミーは同様の予感を得た時は、いつも母親から教わったこの方法で人知れずネッドの無事を祈っていたのである。
「お兄ちゃんが一流の機能付加職人になるっていう、私の夢が叶う前に死んだら絶対許さないんだからね」
そうつぶやいたシャミーは玄関ノブに手をかけ、もう一度ネッドの去った方を見て我が家へと入っていった。
ネッドは、珍しく爽快な朝を迎えていた。寝不足でもなく、寝すぎでもない。只々、これからの三日間を充実させるための、良きコンディションを得ていた。騎士生活を続けていたネッドの体には、こういった必要不可欠のスキルが染みついている。
「おはよう、シャミー」
食堂のドアを開きながら、ネッドが朝の挨拶をする。
「しっかりと眠ったようね。いつもの、ボンヤリとした顔とは大違いだわ」
普段は、そんなにボンヤリとしてるのかなぁ。ネッドは、妹の本気とも皮肉ともつかない言葉を聞き流しながら、テーブルへとついた。
「あれ? 何か朝食の中身が、いつもより豪勢な気が……」
食卓に並ぶメニューを見て、ネッドは思わず口にする。
「リュランが持って来てくれた物の余りよ。腐らせても、もったいないから、出しちゃうわ」
シャミーが、気のない素振りで応えた。保存庫があるので、如何にも足が早い物でない限りは、そうそう痛むものではない。だが騎士一辺倒でやって来たネッドには、そこら辺の知識が乏しかった。
「へぇ、そいつは、巡り合わせが良かったなぁ。これで今日の探索も、グッと頑張れるぞ」
”その為”に、妹が腕によりをかけた事にも気がづかず、ネッドは、機嫌よく朝食をにありつく。もちろん、リュランが連日豪華な食材を持ち込んできた意図になど、考えが及ぶはずもなかった。
いつもとは打って変わって静かに食事をとるシャミーを尻目に、ひとり朝食を食べ終えたネッドは仕事場へ向かう。そこには、昨日までに準備をしたアイテムの数々が並べられていた。
まぁ、こんなものかな。これが実際に、あの火の魔物に通じるかどうかはわからないけど……。
ネッドは、ブレスレット型の魔道具に幾つかのアイテムを触れさせ、呪文を唱える。するとそれらは、見る見る内に小さくなっていった。これは物を圧縮する魔法であり、この世界では広く使われている手段である。ネッドはミニチュアのようになった各種アイテムを、バッグの中に詰め込んだ。
「じゃぁ、そろそろ行くかな」
ネッドは自分を鼓舞するように、わざと声に出す。そして、まだ食堂に居るシャミーに軽く声をかけた。
「あっ、そう。行ってらっしゃい」
てっきり”必ず手柄を立てて、賞金をゲットしてくるのよ!”といった檄が飛ばされると思っていたネッドは、何だか拍子抜けしたような気分だ。
バタン。
玄関ドアの閉まる音を聞いたシャミーが、自分の部屋の引き出しから小さな鉱石を二つ取り出した。次に彼女は、ネッドが十分家を離れた事を窓から確認し、一人外へ出る。
「気を付けて……。必ず無事で帰ってきて……」
そう言うとシャミーは、二つの鉱石をおもむろに激しく打ち鳴らす。途端にそこからは、拳骨くらいの青白い炎が立ち昇った。
「熱っ!」
シャミーが思わず口走る。だが、石を落とすわけには行かない。そうなれば、この”まじない”は無効となる。
これはまだ世界が混とんに包まれていた昔、外出した家人が無事に戻って来るよう願う為の、呪術の一つであった。
自らの苦痛を”供物”として神に捧げ、愛する人を護ってもらおうという願掛けだ。今はもう、かなりの年寄りでなければ存在自体を知らない代物である。
リュランがシャミーに全てを話したわけではない。だがその口調や様々な情報から、彼女は今度の探索が兄にとって、決して安全とは言えない仕事であると察していた。
ネッドの騎士時代からずっと、シャミーは同様の予感を得た時は、いつも母親から教わったこの方法で人知れずネッドの無事を祈っていたのである。
「お兄ちゃんが一流の機能付加職人になるっていう、私の夢が叶う前に死んだら絶対許さないんだからね」
そうつぶやいたシャミーは玄関ノブに手をかけ、もう一度ネッドの去った方を見て我が家へと入っていった。
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