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探索前日
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ヌーンが帰ったあと、ネッドは早々に店を閉める。彼女が注文品を取りに来る、最後の客だと分かっていたからだ。これから明日の朝にかけて、今度はネッド自身が、探索の準備をしなければならない。
「昨晩の怪物。あれは何だったのだろうか……」
考えれば考えるほどわからない。騎士時代を通じて、見た経験のないモンスターだったし、話にすら聞いた事がない代物だ。しかし見た目の通り、火属性のモンスターに間違いはない。当然、探索中に出会う可能性を考えれば、それに特化した対応が必要となる。
充分な時間はない。手持ちのアイテムと魂石をどう活用するか……。ネッドは一心不乱に考えた。シャミーが、昼ご飯の用意が出来たと知らせる声も届かない程に。
ネッドは考えに考えを巡らせ、シミュレーションもミッチリとやった。満を持して、機能付加職人は魂石に手を伸ばす。この賭けが当たるか外れるか……。外れれば、命の危険すらある重大な選択であった。
あいつは、僕を覚えているだろうか。
ネッドは、昨晩出会ったモンスターの事を考える。夜目が聞く魔物であったとしても、その時彼は、暗視ゴーグルを装着していた。顔の半分くらいは隠れるから、人相でネッドを認識した可能性は低い。だが臭いや他の感覚で、他者を識別する能力があったとしたら……。
ネッドは再びあのモンスターと会いたいような会いたくないような、矛盾する感覚を覚え始めていた。それは何故なのか、彼自身にもわからなかった。
「あれ? もうこんな時間か」
ふと時計を見たネッドが、思わずつぶやいた。短針は既に、3の数字を少し過ぎている。ネッドは仕事を一段落させ、母屋の食堂へと足を運んだ。
「シャミー、昼ご飯どこ?」
二十一歳のいい大人が、まるで子供のように昼食をねだる。
「ないわよ、そんなもの」
「はいっ!? ないって、どういう事だよ」
空腹で頭の回らなくなって来たネッドが、驚いて聞き返す。
「だって、さっき呼んだ時、ウンともスンとも返事しなかったじゃない? だから、いらないんだと思って下げちゃったわよ!」
人に食事の用意をさせといて……と、怒りのオーラを沸々と発するシャミー。
「い、いや。そうだっけ? 聞こえなかったなぁ~。仕事に夢中になってたせいかな……ははっ……」
愛想笑いで誤魔化そうとするネッドだったが、明らかに自分の方が悪いのは理解していた。あとはどうやって、妹の機嫌を取り成すかである。
「当然、夕飯までご飯ナシです!……と言いたいところだけど、まぁ、明日の探索に響いて働きが悪くなると困るから、今回は特別に許してあげるわ」
シャミーが、そそくさと食事の準備を始めた。
おぉ! いつにない優しさ! 季節外れのスノーバードが、大量に空から落ちて来なければ良いが!
嬉しい半面、探索では是が非でも何らかの成果を上げて、賞金を貰わなくてはと心に誓うネッドであった。
いつになく穏やかに過ごす午後のひととき。そして目標を決めた仕事のはかどり。ネッドは、つかの間の充実感を堪能していた。いつまでも、こんな時間が続けばいいのにと、叶わぬ夢を抱きながら。
夕食も滞りなく終わり、明日に備えて早めに就寝する。既に準備は万端だ。ネッドはベッドに潜り込み、ウツラウツラとし始める。あぁ、そうだ。アスティの様子を見にいって、是が非にでも顔を見なくては……。暫く会えないでいる友人の顔を思い描きながら、ネッドは心地よい闇に飲み込まれて行った。
「昨晩の怪物。あれは何だったのだろうか……」
考えれば考えるほどわからない。騎士時代を通じて、見た経験のないモンスターだったし、話にすら聞いた事がない代物だ。しかし見た目の通り、火属性のモンスターに間違いはない。当然、探索中に出会う可能性を考えれば、それに特化した対応が必要となる。
充分な時間はない。手持ちのアイテムと魂石をどう活用するか……。ネッドは一心不乱に考えた。シャミーが、昼ご飯の用意が出来たと知らせる声も届かない程に。
ネッドは考えに考えを巡らせ、シミュレーションもミッチリとやった。満を持して、機能付加職人は魂石に手を伸ばす。この賭けが当たるか外れるか……。外れれば、命の危険すらある重大な選択であった。
あいつは、僕を覚えているだろうか。
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ネッドは再びあのモンスターと会いたいような会いたくないような、矛盾する感覚を覚え始めていた。それは何故なのか、彼自身にもわからなかった。
「あれ? もうこんな時間か」
ふと時計を見たネッドが、思わずつぶやいた。短針は既に、3の数字を少し過ぎている。ネッドは仕事を一段落させ、母屋の食堂へと足を運んだ。
「シャミー、昼ご飯どこ?」
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「ないわよ、そんなもの」
「はいっ!? ないって、どういう事だよ」
空腹で頭の回らなくなって来たネッドが、驚いて聞き返す。
「だって、さっき呼んだ時、ウンともスンとも返事しなかったじゃない? だから、いらないんだと思って下げちゃったわよ!」
人に食事の用意をさせといて……と、怒りのオーラを沸々と発するシャミー。
「い、いや。そうだっけ? 聞こえなかったなぁ~。仕事に夢中になってたせいかな……ははっ……」
愛想笑いで誤魔化そうとするネッドだったが、明らかに自分の方が悪いのは理解していた。あとはどうやって、妹の機嫌を取り成すかである。
「当然、夕飯までご飯ナシです!……と言いたいところだけど、まぁ、明日の探索に響いて働きが悪くなると困るから、今回は特別に許してあげるわ」
シャミーが、そそくさと食事の準備を始めた。
おぉ! いつにない優しさ! 季節外れのスノーバードが、大量に空から落ちて来なければ良いが!
嬉しい半面、探索では是が非でも何らかの成果を上げて、賞金を貰わなくてはと心に誓うネッドであった。
いつになく穏やかに過ごす午後のひととき。そして目標を決めた仕事のはかどり。ネッドは、つかの間の充実感を堪能していた。いつまでも、こんな時間が続けばいいのにと、叶わぬ夢を抱きながら。
夕食も滞りなく終わり、明日に備えて早めに就寝する。既に準備は万端だ。ネッドはベッドに潜り込み、ウツラウツラとし始める。あぁ、そうだ。アスティの様子を見にいって、是が非にでも顔を見なくては……。暫く会えないでいる友人の顔を思い描きながら、ネッドは心地よい闇に飲み込まれて行った。
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