騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
66 / 153

嫌悪

しおりを挟む
二人は何も語らずに、暫し見つめあう。ネッドの優柔不断さが、メルとアリシアの凄まじい決闘を引き起したのは事実であり、彼は居たたまれない気持になった。

「な~に、夜ばい?」

メルの意外な一言に、ネッドはキョトンとする。

「え……?」

「冗談よ、冗談。あなたの持ってきた情報で、私も今てんてこ舞いなのよね」

「……アリシアとの事……」

ネッドが、恐る恐る尋ねた。

「あぁ、あの女はいつか必ずブッ飛ばすわ。勝った方が、あなたの許嫁候補になれると思ってる。今は、それだけしか言えないわね」

幼い頃の約束とはいえ、自分だけが許嫁だと思っていたメルにとって、アリシアの存在は青天の霹靂であったろう。そして魔王の娘が尋常ならざる好敵手であると認めた今、これが彼女が言える精一杯の抗議であり気遣いであった。

「メル姉、でも……」

「さぁ、今は帰って頂戴。私も一応は主幹なんだから、プライベートにかまけている暇はないわ」

気丈に振る舞っては見たものの、メルは後ろ髪を引かれる思いでその場を去る。ネッドはネッドで、それ以上は何も言えるはずもなく、ガント親子の邸宅を後にした。

ネッドは思う。今まで僕は、強引なメル姉やアリシアを困った存在だと考えていた。でもそれは、とんだ思い上がりだ。二人ともギルマスの娘、魔王の娘として立派に振る舞っている。それなのに……。

「結局僕が、一番困った奴だったって事か」

ネッドは、自己嫌悪に陥り苦笑した。

重い足取りで、我が家へと戻って来たネッド。シャミーを起こさないように静かに店のドアを開け、忍び足で二階の寝室へと向かう。さぁ、早く寝なくては……。朝になれば、ヌーンが注文の品を受け取りにくる。ネッドはベッドに潜り込み、しばし謎の集団やサラマンダーらしきモンスターの事を思い浮かべていたが、やがて、底なし沼の底へと引きずり込まれるように睡魔の餌食となった。


「ほら、起きろ、起きろってば!」

次の朝、ネッドは、夢さえ見ない深い眠りからいきなり叩き起こされた。……ん~、なんだよ。シャミーってば、何をこんなに怒ってるんだ……。いつもより、荒々しい起こし方だよなぁ。まるで、男みたいな怒鳴りようじゃないか……。

え? 男みたいな?

まだうまく回らない頭の中で、ネッドは異変に気付き飛び起きる。寝ぼけまなこの前には、見知ったワカメ髪の男が……。

「リュラン!」

半身を起こしたネッドは、枕を抱きつつ驚いた。

「さぁってと、挨拶は抜きだ。昨晩起こった事を、洗いざらい吐いて貰おうじゃないか」

この無作法な友人の目が血走っているのを見て、ネッドは夢うつつから現実世界へと引き戻される。

「ちょっと、なぁに、騒がしい……。あれ? リュラン、何よ、こんな朝っぱらから」

シャミーが、怪訝な顔をする。

「すまないが、これは仕事の話だ。これからネッドに昨日の晩、リルゴットの森で何があったのかを聴取する。席を外してくれ」

リュランが、いつになく厳しい口調で言った。

「リルゴットの森? お兄ちゃん、また行ったの?」

リュランを無視して、シャミーのツッコミが入る。だが今回は、ネッドにとって有り難い状況だ。本職であるリュランの尋問を受けるより、妹のカンシャクの方が数倍マシである。

「シャミー、向こうへ行っててくれないか!?」

リュランが、シャミーを振り返る。

「何? ここは私の家よ。それを……」

「台所に、ゴルゾン牛の燻製がある」

高級食材の登場に、怒鳴りかけていた言葉を飲み込んだシャミー。”ごゆっくり”と言って、そそくさと下へ降りて行った。

「シャミー……」

ネッドは、虚しく妹の名前を呼ぶ。

「さぁ、尋問を始めようか」

リュランがニッコリと語りかけて来たが、その目は全く笑っていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

処理中です...