65 / 153
急報
しおりを挟む
「さて、どうするか」
取りあえずの危機を脱したネッドだが、これからの事を考えあぐねてしまった。死体を検分するか、奴を追うか。追ったとして、待ち伏せを食う心配はないのか……。ネッドは頭を少しの間フル回転させ、炎が消えた場所まで行くと決めた。死体は逃げない。だが奴の痕跡は、刻一刻と消えていく。
ネッドは待ち伏せを用心し、慎重に近づいた。暗視ゴーグルは付けない。もし急に強烈な炎が現れでもしたら、一瞬ゴーグルの視界は真っ白になり、最適化が行われるまでは無防備になってしまうからだ。
ネッドは暗闇の中、一歩一歩、奴が消えた地点へと歩を進める。だが、果たしてそこには何もなかった。ただ携帯ライトを点けてみると、草の焼け焦げがそこでピタリと止まっている。つまり、奴はここで炎を消した事になる。
炎を消す?
火を吐く魔物ならともかく、サラマンダーのような常に火を発している魔物は、眠るか死ぬかのどちらかでしか炎が消える事はない。いや、そもそも奴はサラマンダーなのか。全身炎に包まれたサラマンダーなんて聞いた事がない。せいぜい、背中と後頭部付近に炎が噴き出している程度である。
未だに興奮が収まらないネッドの頭では、これ以上の分析は無理だった。念のため今度は暗視ゴーグルを着け、もう少し奥まで調べてみる。だが、特筆すべきものは見つからなかった。彼が諦めて二つの亡骸の元へ戻ろうとした時、視界の端に何か落ちているのが見える。無意識のうちに、それを拾うネッド。最初は何なのかわからなかったが、見つめる内に、彼の顔色が変わっていった。
「こ、これは……!」
ネッドは拾ったものをバッグに押し込み、今度はガドッツたちの骸の傍にたたずんだ。凄まじいばかりの焼死体。普通、焼け焦げて死んだ者は顔の判別は勿論、服も焼け落ちているので、何処の誰かを判別するのは難しい。
だが、この遺体たちは違った。
まるで生きた人間の全身に、炭の粉をまぶしたかのように、生前の姿のまま炭になっていたのである。余程の高熱で短時間に焼かないと、こうはならないだろう。そんな芸当が、サラマンダーに出来るのだろうか。
ネッドは、バッグから結界杭を取り出した。いつぞやの、メルとアリシアの決闘時に使われた代物である。万が一、魔物に襲われて身動きが取れなくなった際には、自らの周りに結界を張り、バリアー代わりに使うつもりで携帯していた品であった。
憐れな兄弟の周りに杭を設置すると、彼らを囲むように結界が現れる。それはまるで、墓標のようでもあった。
「こうしておけば、魔物や獣に荒らされる事はないだろう」
現場を保存したネッドは、早駆けの靴を最高速度で使用し、ギルド館へとひた走る。その隣には、ガントとメルが住む屋敷があるからだ。深夜の1時過ぎ、ネッドが屋敷のドアを叩いた時には、使用人達の間でちょっとした騒動になった。無理もあるまい。そんな夜中の訪問者など、いつぞや魔物が街を襲った時以来なかったのだから。
ただ古参の執事は、ネッドを色々な意味で良く見知っていたため、ギルマス、ガント・ライザーへの面会は思いのほかスムーズに実現した。
「ネッド、お前がこんな時間、息せき切ってくるとは、尋常な事ではあるまいな」
頭にクソがつくほど真面目であり、騎士としても十二分の見識を持ち合わせている甥が、深夜に血相を変えて尋ねて来たのである。ガントの理解は早かった。
事のあらましを聞いたガントは、早速緊急で動ける冒険者たちを招集し、夜は危険な事から、日の出と共にネッドが指定した場所への派遣を決定する。
取りあえずの報を届け自宅へ戻ろうとするネッドであったが、主幹としての対応に大わらわであったメルと、屋敷の廊下で鉢合わせをした。アリシアとの決闘以来の再会である。
取りあえずの危機を脱したネッドだが、これからの事を考えあぐねてしまった。死体を検分するか、奴を追うか。追ったとして、待ち伏せを食う心配はないのか……。ネッドは頭を少しの間フル回転させ、炎が消えた場所まで行くと決めた。死体は逃げない。だが奴の痕跡は、刻一刻と消えていく。
ネッドは待ち伏せを用心し、慎重に近づいた。暗視ゴーグルは付けない。もし急に強烈な炎が現れでもしたら、一瞬ゴーグルの視界は真っ白になり、最適化が行われるまでは無防備になってしまうからだ。
ネッドは暗闇の中、一歩一歩、奴が消えた地点へと歩を進める。だが、果たしてそこには何もなかった。ただ携帯ライトを点けてみると、草の焼け焦げがそこでピタリと止まっている。つまり、奴はここで炎を消した事になる。
炎を消す?
火を吐く魔物ならともかく、サラマンダーのような常に火を発している魔物は、眠るか死ぬかのどちらかでしか炎が消える事はない。いや、そもそも奴はサラマンダーなのか。全身炎に包まれたサラマンダーなんて聞いた事がない。せいぜい、背中と後頭部付近に炎が噴き出している程度である。
未だに興奮が収まらないネッドの頭では、これ以上の分析は無理だった。念のため今度は暗視ゴーグルを着け、もう少し奥まで調べてみる。だが、特筆すべきものは見つからなかった。彼が諦めて二つの亡骸の元へ戻ろうとした時、視界の端に何か落ちているのが見える。無意識のうちに、それを拾うネッド。最初は何なのかわからなかったが、見つめる内に、彼の顔色が変わっていった。
「こ、これは……!」
ネッドは拾ったものをバッグに押し込み、今度はガドッツたちの骸の傍にたたずんだ。凄まじいばかりの焼死体。普通、焼け焦げて死んだ者は顔の判別は勿論、服も焼け落ちているので、何処の誰かを判別するのは難しい。
だが、この遺体たちは違った。
まるで生きた人間の全身に、炭の粉をまぶしたかのように、生前の姿のまま炭になっていたのである。余程の高熱で短時間に焼かないと、こうはならないだろう。そんな芸当が、サラマンダーに出来るのだろうか。
ネッドは、バッグから結界杭を取り出した。いつぞやの、メルとアリシアの決闘時に使われた代物である。万が一、魔物に襲われて身動きが取れなくなった際には、自らの周りに結界を張り、バリアー代わりに使うつもりで携帯していた品であった。
憐れな兄弟の周りに杭を設置すると、彼らを囲むように結界が現れる。それはまるで、墓標のようでもあった。
「こうしておけば、魔物や獣に荒らされる事はないだろう」
現場を保存したネッドは、早駆けの靴を最高速度で使用し、ギルド館へとひた走る。その隣には、ガントとメルが住む屋敷があるからだ。深夜の1時過ぎ、ネッドが屋敷のドアを叩いた時には、使用人達の間でちょっとした騒動になった。無理もあるまい。そんな夜中の訪問者など、いつぞや魔物が街を襲った時以来なかったのだから。
ただ古参の執事は、ネッドを色々な意味で良く見知っていたため、ギルマス、ガント・ライザーへの面会は思いのほかスムーズに実現した。
「ネッド、お前がこんな時間、息せき切ってくるとは、尋常な事ではあるまいな」
頭にクソがつくほど真面目であり、騎士としても十二分の見識を持ち合わせている甥が、深夜に血相を変えて尋ねて来たのである。ガントの理解は早かった。
事のあらましを聞いたガントは、早速緊急で動ける冒険者たちを招集し、夜は危険な事から、日の出と共にネッドが指定した場所への派遣を決定する。
取りあえずの報を届け自宅へ戻ろうとするネッドであったが、主幹としての対応に大わらわであったメルと、屋敷の廊下で鉢合わせをした。アリシアとの決闘以来の再会である。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

辺境の最強魔導師 ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~
日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。
アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。
その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる