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おぞましき炎
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余りの事に、呆然と立ち尽くすネッド。
そして彼は恐ろしい事実に気が付いた。二つの人型の炎は、まごう事なき人だったのである。二つの炎は、言葉にならない凄まじい嫌音を発しながら辺りを駆け回っていた。
月夜のもとで行われる、おぞましい炎の饗宴を目の当たりにするネッド。もし彼が騎士出身でなかったら、取り乱して今きた道を駆け戻っていたかも知れない。だが正体不明の脅威に対し、無防備に背中を晒すのがいかに危険な行為かを、彼は嫌というほど知っていた。
そうして何とか平静を保ったネッドであったが、彼は、またもや心臓をえぐられるような発見をしてしまう。
「……ガ、ガドッツ?」
この尋常ならざる事態を、彼は最初、何が何やらまるで理解していなかった。しかし、炎の中で地獄の苦しみを味わっている犠牲者が、先日叩きのめした戦士だとすぐに確信する。慌ててもう一つの炎へ目をやると、そこにも見覚えのある巨体が急速に死への道筋を歩んでいるのが見えた。
火を消さなくては!
相手が如何に悪人であっても、このまま見殺しにするわけには行かない。ネッドは消火の方法を必死に考えたが、これは全くの想定外の事態であった。さすがのネッドもオロオロと、ただ見ているしか術はない。
そして炎は突然に掻き消えた。消えたというよりも、燃える原資が無くなったと言ったほうがいいだろう。人の形そのものの”消し炭”が、二つその場に転がった。
ネッドは、そこで初めてもう一つの炎に目を向ける。二人をこんな目に合わせたのは間違いなく、もう一つの炎だろう。ならばこの凶炎は、ネッドすらも葬ろうとするに違いない。彼はショートソードと小盾を構え、戦闘態勢を整える。
だが、こんな見た事もない炎を使う敵に、今の装備で太刀打ちできるのか? ネッドの脳裏に、シャミーの顔が浮かんだ。彼の騎士としての勘が、死の危険を予感させる。
だがそんな極限状態の中でも、ネッドは必死に敵の正体を見極めようとしていた。暗視ゴーグルが、急速に視界の明るさを最適化する。眼前の敵は、すさまじい炎の塊だ。よく見ると、かすかにその中には人のような獣のような姿が見える。
あれは……、火トカゲ《サラマンダー》?
ネッドが其処まで分析した時、炎の塊は突然に踵を返した。その物体はドンドンと森の奥へと分け入っていく。このままでは見失ってしまうが、ネッドの脚は一歩も動かなかった。これは恐怖なのか? それとも懸命な判断なのか? それは、ネッド自身にもわからなかった。
煌々とした炎の光は森の深淵へと進み、ある地点で忽然と消えた。本当に突然に。
取りあえずの危機が去ったと理解したネッドは、思わずその場に膝をつく。いったい、今のは何だったんだろう? 奴は僕を見逃したのか、それともこれ以上の戦闘を避けたかっただけなのか……。夜空の月は何も語らず、ただ静かに森の木々を照らすばかりであった。
そして彼は恐ろしい事実に気が付いた。二つの人型の炎は、まごう事なき人だったのである。二つの炎は、言葉にならない凄まじい嫌音を発しながら辺りを駆け回っていた。
月夜のもとで行われる、おぞましい炎の饗宴を目の当たりにするネッド。もし彼が騎士出身でなかったら、取り乱して今きた道を駆け戻っていたかも知れない。だが正体不明の脅威に対し、無防備に背中を晒すのがいかに危険な行為かを、彼は嫌というほど知っていた。
そうして何とか平静を保ったネッドであったが、彼は、またもや心臓をえぐられるような発見をしてしまう。
「……ガ、ガドッツ?」
この尋常ならざる事態を、彼は最初、何が何やらまるで理解していなかった。しかし、炎の中で地獄の苦しみを味わっている犠牲者が、先日叩きのめした戦士だとすぐに確信する。慌ててもう一つの炎へ目をやると、そこにも見覚えのある巨体が急速に死への道筋を歩んでいるのが見えた。
火を消さなくては!
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そして炎は突然に掻き消えた。消えたというよりも、燃える原資が無くなったと言ったほうがいいだろう。人の形そのものの”消し炭”が、二つその場に転がった。
ネッドは、そこで初めてもう一つの炎に目を向ける。二人をこんな目に合わせたのは間違いなく、もう一つの炎だろう。ならばこの凶炎は、ネッドすらも葬ろうとするに違いない。彼はショートソードと小盾を構え、戦闘態勢を整える。
だが、こんな見た事もない炎を使う敵に、今の装備で太刀打ちできるのか? ネッドの脳裏に、シャミーの顔が浮かんだ。彼の騎士としての勘が、死の危険を予感させる。
だがそんな極限状態の中でも、ネッドは必死に敵の正体を見極めようとしていた。暗視ゴーグルが、急速に視界の明るさを最適化する。眼前の敵は、すさまじい炎の塊だ。よく見ると、かすかにその中には人のような獣のような姿が見える。
あれは……、火トカゲ《サラマンダー》?
ネッドが其処まで分析した時、炎の塊は突然に踵を返した。その物体はドンドンと森の奥へと分け入っていく。このままでは見失ってしまうが、ネッドの脚は一歩も動かなかった。これは恐怖なのか? それとも懸命な判断なのか? それは、ネッド自身にもわからなかった。
煌々とした炎の光は森の深淵へと進み、ある地点で忽然と消えた。本当に突然に。
取りあえずの危機が去ったと理解したネッドは、思わずその場に膝をつく。いったい、今のは何だったんだろう? 奴は僕を見逃したのか、それともこれ以上の戦闘を避けたかっただけなのか……。夜空の月は何も語らず、ただ静かに森の木々を照らすばかりであった。
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