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怪しい何か
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「なんだ……?」
弟の言う事が本当だとわかり、ボッゾルの心中に恐怖に似た感覚がよぎる。こんな時間に、自分たち以外の冒険者や旅人がいるとは思えない。またそもそも彼方に揺らめく炎は、たいまつなどとは明らかに異なる揺らめきだ。
「よぉ、兄貴、帰ろうぜ。もう帰ろうぜ……」
半分泣き声のようになり、懇願するガドッツ。
「いや、何なのかを確かめる。考えてもみろ。私たちは元々”怪しいもの”を探しに来たんだ。あれは、正しくそうじゃないか」
「でもよぉ、でもよぉ……。命あっての物種だぜ?」
ガドッツは、剣の柄に手を掛けながらもブルブルと震えている。
「バカ、だからお前はダメなんだ。何が何でも、手柄をモノにするんだ」
実のところボッゾルは、今回も弟に秘密にしている事があった。ネッドに成敗され、ほうほうのていで逃げ帰った翌日、彼はゴワドン伯爵に呼び出されている。侯爵は彼に地図を渡し、ある地点をそれとなく示唆した。もちろん、はっきりと何かを言ったわけではない。
だが、どうやらネッドとの一件を既に知っているような口ぶりで、今度失敗をしたら王宮への召し抱えが叶わぬのは言うまでもなく、魔法使いとしても、この国ではやっていけないようになるといった風の事を言われていた。
本当に、もう後がないのだ。
それにこちらの方が、明らかに優位であるとボッゾルは考えた。自分達からは向こうの位置が丸見えだが、あちらからは我々の様子がわかるまい。これだけ離れていれば、僅かなライトの魔法を感知するのは難しいからだ。ライトを最小限に絞り、そっと近づいて奇襲をかければ、必ず取り押さえる事が出来る。
ボッゾルはそう自分に言い聞かせ、揺らめく炎の方角へ、ゆっくりと忍び寄っていった
一方、こちらは暫しの休憩を楽しんだネッド・ライザー。
「あぁ、美味かった」
ネッドは保存庫から持ち出した料理を食べ終え、水筒からコーヒーをカップに注いだ。ちょっとした遠足気分だが、気を抜いているわけではない。こういう時には心の余裕も必要だと、騎士時代にさんざん学んでいたからだ。
「くやしいけど、リュランの持ってきた食い物は美味いよなぁ……。シャミーが奴を厚遇するのも、わからないではないか」
二人が深い仲ではない事を確認し、少し安心していたネッドであったが、やはり何となく悔しい気持が残る。
「じゃぁ、行くか」
一服着いたネッドは自らを鼓舞するかのように、寂しい森で一人、声を出す。
ネッドは暗視ゴーグルを装着し、再び早駆けの靴で探索を続けるものの、芳しい結果はなかなか出ない。諦めて帰ろうかと思ったその時、ネッドは遥か遠くに何かうごめくようなものを見つけた。暗視ゴーグルが無ければ、まずわからなかっただろう。
だが、闇雲に近づくわけにも行かない。ネッドは相手が生き物である事を前提に、少しずつ対象との距離を縮めていった。
「ありゃ、人間だ」
ひぃふぅみぃ……、都合10人ほどはいるだろうか。一体こんな時間、こんな場所で何をしているのだろう。正しく怪しい一団であり、ネッドの心臓は鼓動をましていく。
更に近づいてみると、彼らは何かを運んでいるように見えた。ただそれが何かは、ネッドにもわからない。傍で確認するならばともかく、この距離と暗さでは、如何に暗視ゴーグルをもってしても無理な話であった。
「このまま後を追えば、彼らの正体も分かるだろう」
下見の成功を確信したネッドは、高揚感を抑えつつ、うろんな輩を追い始める。
弟の言う事が本当だとわかり、ボッゾルの心中に恐怖に似た感覚がよぎる。こんな時間に、自分たち以外の冒険者や旅人がいるとは思えない。またそもそも彼方に揺らめく炎は、たいまつなどとは明らかに異なる揺らめきだ。
「よぉ、兄貴、帰ろうぜ。もう帰ろうぜ……」
半分泣き声のようになり、懇願するガドッツ。
「いや、何なのかを確かめる。考えてもみろ。私たちは元々”怪しいもの”を探しに来たんだ。あれは、正しくそうじゃないか」
「でもよぉ、でもよぉ……。命あっての物種だぜ?」
ガドッツは、剣の柄に手を掛けながらもブルブルと震えている。
「バカ、だからお前はダメなんだ。何が何でも、手柄をモノにするんだ」
実のところボッゾルは、今回も弟に秘密にしている事があった。ネッドに成敗され、ほうほうのていで逃げ帰った翌日、彼はゴワドン伯爵に呼び出されている。侯爵は彼に地図を渡し、ある地点をそれとなく示唆した。もちろん、はっきりと何かを言ったわけではない。
だが、どうやらネッドとの一件を既に知っているような口ぶりで、今度失敗をしたら王宮への召し抱えが叶わぬのは言うまでもなく、魔法使いとしても、この国ではやっていけないようになるといった風の事を言われていた。
本当に、もう後がないのだ。
それにこちらの方が、明らかに優位であるとボッゾルは考えた。自分達からは向こうの位置が丸見えだが、あちらからは我々の様子がわかるまい。これだけ離れていれば、僅かなライトの魔法を感知するのは難しいからだ。ライトを最小限に絞り、そっと近づいて奇襲をかければ、必ず取り押さえる事が出来る。
ボッゾルはそう自分に言い聞かせ、揺らめく炎の方角へ、ゆっくりと忍び寄っていった
一方、こちらは暫しの休憩を楽しんだネッド・ライザー。
「あぁ、美味かった」
ネッドは保存庫から持ち出した料理を食べ終え、水筒からコーヒーをカップに注いだ。ちょっとした遠足気分だが、気を抜いているわけではない。こういう時には心の余裕も必要だと、騎士時代にさんざん学んでいたからだ。
「くやしいけど、リュランの持ってきた食い物は美味いよなぁ……。シャミーが奴を厚遇するのも、わからないではないか」
二人が深い仲ではない事を確認し、少し安心していたネッドであったが、やはり何となく悔しい気持が残る。
「じゃぁ、行くか」
一服着いたネッドは自らを鼓舞するかのように、寂しい森で一人、声を出す。
ネッドは暗視ゴーグルを装着し、再び早駆けの靴で探索を続けるものの、芳しい結果はなかなか出ない。諦めて帰ろうかと思ったその時、ネッドは遥か遠くに何かうごめくようなものを見つけた。暗視ゴーグルが無ければ、まずわからなかっただろう。
だが、闇雲に近づくわけにも行かない。ネッドは相手が生き物である事を前提に、少しずつ対象との距離を縮めていった。
「ありゃ、人間だ」
ひぃふぅみぃ……、都合10人ほどはいるだろうか。一体こんな時間、こんな場所で何をしているのだろう。正しく怪しい一団であり、ネッドの心臓は鼓動をましていく。
更に近づいてみると、彼らは何かを運んでいるように見えた。ただそれが何かは、ネッドにもわからない。傍で確認するならばともかく、この距離と暗さでは、如何に暗視ゴーグルをもってしても無理な話であった。
「このまま後を追えば、彼らの正体も分かるだろう」
下見の成功を確信したネッドは、高揚感を抑えつつ、うろんな輩を追い始める。
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