騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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夜の森へ

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ネッドは、まず秘密兵器を取り出した。それは、ジャイアントオウルの魂石を使った暗視ゴーグルである。メル対アリシアの決闘のあとに結界杭を回収する際や、雷玉の回収の際、暗闇で苦労した経験を生かしたものである。

「おぉ、上出来、上出来」

ゴーグルを着けたネッドはご機嫌になった。昼間のようにとはいかないまでも、ライトを使わなくても十分に行動できる。製作した品物が思い通りの出来だった時、彼は職人としての悦びを得、また同時に誇りも感じる。こういった体験を繰り返し、自分の選んだ職業を全うしていくのだという思いを新たにする。

彼は事前にギルドから渡された地図を元に、怪しそうな場所を次々と探索する。ぽっかり浮かぶ満月と、二人きりの道行であった。ただしモンスターの類とは、なるべく遭遇しないに越したことはない。いつもとは違い製品を試すのが目的ではなく、あくまで下見が目的であるからだ。

これにには、暗視ゴーグルが大変に役立った。敵に相対する前に、こちらの方が先に発見して遭遇を避ける。そんな行為を、難なく繰り返すネッドであった。

「おかしいな」

広大な森の一部分しか探索していないとはいえ、いかにも怪しそうな場所はあらかた見て回ったネッドが思う。今まで被害があった場所は、森の外縁部から中ほどにかけてであった。森の深淵部では起こっていない。というよりも、旅人はもちろんの事、地元住民でさえ深淵部に赴いたりはしない。危ないとわかっているし、それに見合う用事もないからだ。

根本原因が深淵部にあるとしても、そこに到る兆しは目につく場所にあるはずである。このままでは収穫なしだと思ったネッドは、更に奥へと足を踏み入れる決断をした。

「おっと……」

走りだそうと思ったネッドが、早駆けの靴の不調に気が付き足を止める。そろそろ効果が落ち始めてきた。如何に魂石を練り込んだアーマーブーツとはいえ、無限に早駆けの機能が使えるわけではない。効果の回復には時間が必要だ。ネッドは、携えてきた予備のブーツに履き替える。

「あぁ、気が焦っているな。さっきから走り通しだったし、少し休んでいくか」

ネッドは手近な倒木に腰掛けて、保存庫から適当に見繕ってきた品物で食事をとった。


さて、時を同じくして、森の別の場所には意外な二人の男の姿があった。先日、ネッドにコテンパンにやられた、魔法使いボッゾルと戦士ガドッツの兄弟である。

「よぉ、兄貴よぉ、もう帰ろうぜ。どうせ、明日には探索があるんだから、そん時でいいじゃねぇかよ」

暗闇を恐れてか、弟のガドッツが情けない声を出した。

「バカ、それじゃぁ駄目だんだよ。私たちには、もう後がないんだ。是が非でも探索で手柄を立てるには、こうやって下見をして、出来れば今、真相を確かめないといけないってわからんのか」

兄のボッゾルが、弟を叱る。

「後がないって、どういう事さ」

ガドッツが、辺りをキョロキョロと見ながら尋ねた。

「もし手柄を立てなきゃ、私はお払い箱だ。そうなればお前だって、あの忌々しい機能付加職人と、その伯父のギルドマスターにずっと頭が上がらないんだぞ!」

ボッゾルが、イラついた声を出す。

「そもそも兄貴が王宮に召し抱えられたなんて、ウソをつくからいけないんじゃないか」

「ウソなもんか。ゴワドン侯爵は、手柄を立てれば、必ず召し抱えるって約束してくれたんだ。そして私ほど優秀な魔法使いが、手柄を立てられないはずがない。つまりは、召し抱えられたも同じって事だ!」

弟のボヤキに、兄が更にヒートアップする。

「うーん。あの職人に、でかい顔をされるのは嫌だなぁ。きっと、手柄を立てようぜ兄貴よ」

「わかればいい、わかれば。それに今夜の下見は、ゴワドン侯爵の勧めでもある。私だけに、怪しいとあたりを付けた地域を教えてくれたんだ。侯爵に期待されている証拠だよ。」

兄弟の、どこかトンチンカンな掛け合いを、夜空を煌々と照らす月が不気味な笑いとともに観覧していた。

「あ? 兄貴、アレはなんだ?」

ガドッツが、突然叫ぶ。

「大きな声を出すな。驚くじゃないか!」

ボッゾルが、ビクっとして弟を睨んだ。

「だ、だけどよ。アレ、アレ何なんだよ」

ガドッツが、少し怯えた声を出す。

「うん? アレって何だ?」

ボッゾルがガドッツの指さす方向を見ると、そこにはユラリユラリと、炎のような塊が一つきりうごめいている。
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