騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
59 / 153

シャミーとリュラン

しおりを挟む
「何かって?」

ドアノブに手をかけていたリュランが、振り向いて聞き返す。

「いや、ほら。僕が騎士を辞めてから、ずっと連絡を取り合っていたわけだろ? しかも、僕に内緒で。それに今回も、何かお互いに息があっているみたいだしさ」

さすがにはっきりとは聞けず、遠回しな話し方をするネッド。

「まぁ、シャミーとは、昔から馬が合うけどな。で、それが?」

未だに質問の意図が理解できないリュランであった。

「……つまり、こう、付き合っているっていうか、なんていうか……」

口下手なネッドが、精一杯の表現をする。

「ふーん」

途端にリュランが、ニンマリと笑った。

「おい、シャミー、シャミー!」

リュランは階段を駆け下りながら、彼女の名を連呼する。

「お、おい、ちょっと待て!」

ネッドが、慌てて友人を追った。

「なによ、騒々しい。喧嘩でもしたの?」

ソファーで寛ぐシャミーが、面倒くさそうに尋ねる。

「いや、ネッドがさ。俺とお前が、付き合ってるんじゃないかってさ!」

本人を目の前にして、そうハッキリ言うか!? 疑問をぶつけたネッドの方が、頬を赤らめた。

「えぇ? 私とリュランが?」

”付き合っているわけないでしょ”と答えるに決まっている。そして、また怒られるとネッドは心の準備をする。

「まぁ、リュランの家は地方貴族と言っても領主には変わりないし、職人の娘としては玉の輿と呼べなくはないわよね」

何ら慌てる事なく、平然とこたえるシャミー。

「そうだよ、その通り。シャミーは商才があるから、俺が当主を継いだら妻として領地の運営を任せてもいいかな。領地が豊かになれば、親父たちもきっと喜ぶだろうし」

リュランが、シャミーの頭をなでる。声も出せず、唖然とするネッド。

「いいわね。リュランが色んな情報を取ってきてくれて、私がそれを生かす。領地経営なんてちょっと憧れるわ」

シャミーが、リュランと腕を絡める。

「ちょ、ちょっと待って。そういう事はだね、まず兄の僕に相談をしてから……」

二人の様子を見て、ネッドの頭の中がグルグルと急回転し始めた。一方、慌てふためくネッドを見て、顔を見合わせるリュランとシャミー。

途端に、二人が大笑いをする。

「はいっ?」

呆然とするネッドだったが、しばらくして、やっと二人にかつがれたと気が付いた。もう、一生分、笑ってやろうかという二人。

「お前ら~、僕をおちょくったな~!!」

「おちょくられる、お前の方が悪い」

顔を真っ赤にして怒るネッドに、リュランがシレッと答えた。

「じゃぁな、また来る。愛するシャミーとシスコン兄よ、さらば」

捨てゼリフを残して、リュランがドアを開けて出ていく。

「この……リュラーン!! シャミー……!」

ネッドは、恥ずかしさと気まずさの矛先を妹に向けた。

「”シャミー”じゃないわよ、お兄ちゃん。一体どこから、私とリュランが付き合っているって発想が出て来るの? それにシスコンじゃ困るわ。そういうのって、私の結婚の時にマイナスになるんだからね」

笑い疲れて普段通りに戻ったシャミーが、いつもの如く兄に説教をする。兄妹のやりあいは、夜のとばりの中、しばらく続いた。


「本当に、それだけだろうか……」

隠れ家へと急ぐリュランは、疑問をひとり口にして思いを巡らす。

ゴワドンがネッドに入れ込むのは、本当に、四十年前の出来事への贖罪からだけなのか。他に何か目的があるのではないか。例えばネッドに恩を売っておいて、ある時それを告白する。あのバカ正直で、律儀一徹のネッドの事だ。きっと感謝して、ゴワドンに心酔するだろう。

そもそも四十年前の真相は、数年たってからゴワドン本人の口から出たものだ。本当に、供をした少年が自ら命を投げ出したのか……。死人に口なし。事実を自分しか知らないのをいい事に、奴がそれを利用して、ネッドを自分のコマにしようとしているのなら……。そして”何か”をやらせようとしているのなら……。

いかんせん、情報が少なすぎる。

リュランの心にささった小さなトゲは、彼をいつまでも不愉快な気分にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...