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シャミーとリュラン
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「何かって?」
ドアノブに手をかけていたリュランが、振り向いて聞き返す。
「いや、ほら。僕が騎士を辞めてから、ずっと連絡を取り合っていたわけだろ? しかも、僕に内緒で。それに今回も、何かお互いに息があっているみたいだしさ」
さすがにはっきりとは聞けず、遠回しな話し方をするネッド。
「まぁ、シャミーとは、昔から馬が合うけどな。で、それが?」
未だに質問の意図が理解できないリュランであった。
「……つまり、こう、付き合っているっていうか、なんていうか……」
口下手なネッドが、精一杯の表現をする。
「ふーん」
途端にリュランが、ニンマリと笑った。
「おい、シャミー、シャミー!」
リュランは階段を駆け下りながら、彼女の名を連呼する。
「お、おい、ちょっと待て!」
ネッドが、慌てて友人を追った。
「なによ、騒々しい。喧嘩でもしたの?」
ソファーで寛ぐシャミーが、面倒くさそうに尋ねる。
「いや、ネッドがさ。俺とお前が、付き合ってるんじゃないかってさ!」
本人を目の前にして、そうハッキリ言うか!? 疑問をぶつけたネッドの方が、頬を赤らめた。
「えぇ? 私とリュランが?」
”付き合っているわけないでしょ”と答えるに決まっている。そして、また怒られるとネッドは心の準備をする。
「まぁ、リュランの家は地方貴族と言っても領主には変わりないし、職人の娘としては玉の輿と呼べなくはないわよね」
何ら慌てる事なく、平然とこたえるシャミー。
「そうだよ、その通り。シャミーは商才があるから、俺が当主を継いだら妻として領地の運営を任せてもいいかな。領地が豊かになれば、親父たちもきっと喜ぶだろうし」
リュランが、シャミーの頭をなでる。声も出せず、唖然とするネッド。
「いいわね。リュランが色んな情報を取ってきてくれて、私がそれを生かす。領地経営なんてちょっと憧れるわ」
シャミーが、リュランと腕を絡める。
「ちょ、ちょっと待って。そういう事はだね、まず兄の僕に相談をしてから……」
二人の様子を見て、ネッドの頭の中がグルグルと急回転し始めた。一方、慌てふためくネッドを見て、顔を見合わせるリュランとシャミー。
途端に、二人が大笑いをする。
「はいっ?」
呆然とするネッドだったが、しばらくして、やっと二人にかつがれたと気が付いた。もう、一生分、笑ってやろうかという二人。
「お前ら~、僕をおちょくったな~!!」
「おちょくられる、お前の方が悪い」
顔を真っ赤にして怒るネッドに、リュランがシレッと答えた。
「じゃぁな、また来る。愛するシャミーとシスコン兄よ、さらば」
捨てゼリフを残して、リュランがドアを開けて出ていく。
「この……リュラーン!! シャミー……!」
ネッドは、恥ずかしさと気まずさの矛先を妹に向けた。
「”シャミー”じゃないわよ、お兄ちゃん。一体どこから、私とリュランが付き合っているって発想が出て来るの? それにシスコンじゃ困るわ。そういうのって、私の結婚の時にマイナスになるんだからね」
笑い疲れて普段通りに戻ったシャミーが、いつもの如く兄に説教をする。兄妹のやりあいは、夜のとばりの中、しばらく続いた。
「本当に、それだけだろうか……」
隠れ家へと急ぐリュランは、疑問をひとり口にして思いを巡らす。
ゴワドンがネッドに入れ込むのは、本当に、四十年前の出来事への贖罪からだけなのか。他に何か目的があるのではないか。例えばネッドに恩を売っておいて、ある時それを告白する。あのバカ正直で、律儀一徹のネッドの事だ。きっと感謝して、ゴワドンに心酔するだろう。
そもそも四十年前の真相は、数年たってからゴワドン本人の口から出たものだ。本当に、供をした少年が自ら命を投げ出したのか……。死人に口なし。事実を自分しか知らないのをいい事に、奴がそれを利用して、ネッドを自分のコマにしようとしているのなら……。そして”何か”をやらせようとしているのなら……。
いかんせん、情報が少なすぎる。
リュランの心にささった小さなトゲは、彼をいつまでも不愉快な気分にした。
ドアノブに手をかけていたリュランが、振り向いて聞き返す。
「いや、ほら。僕が騎士を辞めてから、ずっと連絡を取り合っていたわけだろ? しかも、僕に内緒で。それに今回も、何かお互いに息があっているみたいだしさ」
さすがにはっきりとは聞けず、遠回しな話し方をするネッド。
「まぁ、シャミーとは、昔から馬が合うけどな。で、それが?」
未だに質問の意図が理解できないリュランであった。
「……つまり、こう、付き合っているっていうか、なんていうか……」
口下手なネッドが、精一杯の表現をする。
「ふーん」
途端にリュランが、ニンマリと笑った。
「おい、シャミー、シャミー!」
リュランは階段を駆け下りながら、彼女の名を連呼する。
「お、おい、ちょっと待て!」
ネッドが、慌てて友人を追った。
「なによ、騒々しい。喧嘩でもしたの?」
ソファーで寛ぐシャミーが、面倒くさそうに尋ねる。
「いや、ネッドがさ。俺とお前が、付き合ってるんじゃないかってさ!」
本人を目の前にして、そうハッキリ言うか!? 疑問をぶつけたネッドの方が、頬を赤らめた。
「えぇ? 私とリュランが?」
”付き合っているわけないでしょ”と答えるに決まっている。そして、また怒られるとネッドは心の準備をする。
「まぁ、リュランの家は地方貴族と言っても領主には変わりないし、職人の娘としては玉の輿と呼べなくはないわよね」
何ら慌てる事なく、平然とこたえるシャミー。
「そうだよ、その通り。シャミーは商才があるから、俺が当主を継いだら妻として領地の運営を任せてもいいかな。領地が豊かになれば、親父たちもきっと喜ぶだろうし」
リュランが、シャミーの頭をなでる。声も出せず、唖然とするネッド。
「いいわね。リュランが色んな情報を取ってきてくれて、私がそれを生かす。領地経営なんてちょっと憧れるわ」
シャミーが、リュランと腕を絡める。
「ちょ、ちょっと待って。そういう事はだね、まず兄の僕に相談をしてから……」
二人の様子を見て、ネッドの頭の中がグルグルと急回転し始めた。一方、慌てふためくネッドを見て、顔を見合わせるリュランとシャミー。
途端に、二人が大笑いをする。
「はいっ?」
呆然とするネッドだったが、しばらくして、やっと二人にかつがれたと気が付いた。もう、一生分、笑ってやろうかという二人。
「お前ら~、僕をおちょくったな~!!」
「おちょくられる、お前の方が悪い」
顔を真っ赤にして怒るネッドに、リュランがシレッと答えた。
「じゃぁな、また来る。愛するシャミーとシスコン兄よ、さらば」
捨てゼリフを残して、リュランがドアを開けて出ていく。
「この……リュラーン!! シャミー……!」
ネッドは、恥ずかしさと気まずさの矛先を妹に向けた。
「”シャミー”じゃないわよ、お兄ちゃん。一体どこから、私とリュランが付き合っているって発想が出て来るの? それにシスコンじゃ困るわ。そういうのって、私の結婚の時にマイナスになるんだからね」
笑い疲れて普段通りに戻ったシャミーが、いつもの如く兄に説教をする。兄妹のやりあいは、夜のとばりの中、しばらく続いた。
「本当に、それだけだろうか……」
隠れ家へと急ぐリュランは、疑問をひとり口にして思いを巡らす。
ゴワドンがネッドに入れ込むのは、本当に、四十年前の出来事への贖罪からだけなのか。他に何か目的があるのではないか。例えばネッドに恩を売っておいて、ある時それを告白する。あのバカ正直で、律儀一徹のネッドの事だ。きっと感謝して、ゴワドンに心酔するだろう。
そもそも四十年前の真相は、数年たってからゴワドン本人の口から出たものだ。本当に、供をした少年が自ら命を投げ出したのか……。死人に口なし。事実を自分しか知らないのをいい事に、奴がそれを利用して、ネッドを自分のコマにしようとしているのなら……。そして”何か”をやらせようとしているのなら……。
いかんせん、情報が少なすぎる。
リュランの心にささった小さなトゲは、彼をいつまでも不愉快な気分にした。
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