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ゴワドン卿の過去
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「あぁ。だから、お前はバカ正直だってんだ。まぁ、そこがお前の良いところでもあるんだけどな」
リュランが、首を振る。
「つまりだな。全てを不問に付したのは、これも体面の為だったって事さ。子供とはいえ、仮にも侯爵の子息が狼ごときの襲来で庶民を犠牲にし、おまけに自身は精神錯乱だなんて言えるわけないだろ?
要するに、何もなかったって事にしたかったんだよ」
溜息をつきながら、リュランが続ける。
「更に言うとな、故郷に帰ったゴワドン少年は、地元の医者が診たがどうにもならず、手を焼いた家人は、更に飛び地にある領地の小さな城へ、彼を追いやったそうだ。数人の世話係だけをつけてな。
ゴワドン少年が数年間に渡り茫然自失の状態にあったのは、むしろそういう環境にあったせいだという見方も出来る」
「酷いじゃないか、それは!」
ネッドが、たまらず話を遮った。
「あぁ、酷いね。だけど貴族なんて、多かれ少なかれそう言うもんだよ。特に、爵位が上がれば尚更だ」
貴族のリュランが、自戒を込めて言う。
「ただこの事は、結果的には良い状況を生み出した可能性がある。彼はそこで十年間を過ごし、そののち五年間を領地の屋敷に戻って暮らした。それだけ中央から離れていると、王宮内での常識には染まらないで済む。ゴワドン卿の良くも悪くも独自の行動は、そのせいだろう」
なるほど、そうかも知れない。
ネッドの脳裏に、騎士生活の日々が甦る。王宮はそれこそ伏魔殿だ。貴族の子息ともなれば、何かにつけて訪れる機会もあるだろう。そんな中では、幼く純粋な心も、少しずつドス黒く染まっていくものだ。
「また健康回復の一環として、剣技を率先して学んだそうだ。おかげで騎士にも引けを取らない腕前を身に付けたそうだよ。それに僻地なんで、娯楽とか乏しいだろ? なので持て余した時間を、手慰み程度だろうが、魔石や魂石の研究をしていたらしい」
リュランの言葉に、ネッドは驚いた。
「あぁ、普通は機能付加職人の息子が犠牲になったんだから、むしろ魔石とか魂石の類は遠ざけるものだがな。奴を疑っている俺がこういうのも何だが、ゴワドン卿は非常に律儀な男のようだ。
多分、そのせいもあって、尚更に機能付加職人にも理解があるんだろう」
リュランの言葉に、ネッドは納得する。伯父から聞いた印象、自分が会ってみた上での印象もそうだったからだ。
「でもさ、それだけ中央を離れていて、よく廃嫡されなかったな」
ネッドが、素朴な疑問を呈する。
「確かにな。でも爵位が上になればなるほど、後継ぎ問題は複雑になるもんだ。お前の言う通り廃嫡の話もあったらしいが、結局はモノにはならなかったんだろう。
で、まぁ実の息子が肉体、精神共に立ち直ったんで、そのまま跡継ぎになったってわけさ。多分、これも父親の情とかではなくて、それが”無難”だったって事だろうよ」
「まぁ、田舎貴族のお前のところには、縁のない話だな」
ネッドが先ほど言われた”バカ正直”への仕返しをする。
「うるせぇ! ……で、奴が王都へ戻って五年後に当時のゴワドン侯爵が急死をして、今の奴が爵位を受け継いだって寸法だ」
「……って事は、三十歳くらいで侯爵家の当主になったわけか。ずいぶんと若いよね。苦労も多かったろうに」
ネッドは、ゴワドンの数奇な運命に思いをはせた。
「さてと……。これ以上は、進展がなさそうだ。じゃぁ、俺は帰るわ」
席を立とうとするリュランに、ネッドは気になっていた話を切り出した。
「なぁ、つかぬ事を聞くようだけど、お前とシャミー、何かあるのか?」
リュランが、首を振る。
「つまりだな。全てを不問に付したのは、これも体面の為だったって事さ。子供とはいえ、仮にも侯爵の子息が狼ごときの襲来で庶民を犠牲にし、おまけに自身は精神錯乱だなんて言えるわけないだろ?
要するに、何もなかったって事にしたかったんだよ」
溜息をつきながら、リュランが続ける。
「更に言うとな、故郷に帰ったゴワドン少年は、地元の医者が診たがどうにもならず、手を焼いた家人は、更に飛び地にある領地の小さな城へ、彼を追いやったそうだ。数人の世話係だけをつけてな。
ゴワドン少年が数年間に渡り茫然自失の状態にあったのは、むしろそういう環境にあったせいだという見方も出来る」
「酷いじゃないか、それは!」
ネッドが、たまらず話を遮った。
「あぁ、酷いね。だけど貴族なんて、多かれ少なかれそう言うもんだよ。特に、爵位が上がれば尚更だ」
貴族のリュランが、自戒を込めて言う。
「ただこの事は、結果的には良い状況を生み出した可能性がある。彼はそこで十年間を過ごし、そののち五年間を領地の屋敷に戻って暮らした。それだけ中央から離れていると、王宮内での常識には染まらないで済む。ゴワドン卿の良くも悪くも独自の行動は、そのせいだろう」
なるほど、そうかも知れない。
ネッドの脳裏に、騎士生活の日々が甦る。王宮はそれこそ伏魔殿だ。貴族の子息ともなれば、何かにつけて訪れる機会もあるだろう。そんな中では、幼く純粋な心も、少しずつドス黒く染まっていくものだ。
「また健康回復の一環として、剣技を率先して学んだそうだ。おかげで騎士にも引けを取らない腕前を身に付けたそうだよ。それに僻地なんで、娯楽とか乏しいだろ? なので持て余した時間を、手慰み程度だろうが、魔石や魂石の研究をしていたらしい」
リュランの言葉に、ネッドは驚いた。
「あぁ、普通は機能付加職人の息子が犠牲になったんだから、むしろ魔石とか魂石の類は遠ざけるものだがな。奴を疑っている俺がこういうのも何だが、ゴワドン卿は非常に律儀な男のようだ。
多分、そのせいもあって、尚更に機能付加職人にも理解があるんだろう」
リュランの言葉に、ネッドは納得する。伯父から聞いた印象、自分が会ってみた上での印象もそうだったからだ。
「でもさ、それだけ中央を離れていて、よく廃嫡されなかったな」
ネッドが、素朴な疑問を呈する。
「確かにな。でも爵位が上になればなるほど、後継ぎ問題は複雑になるもんだ。お前の言う通り廃嫡の話もあったらしいが、結局はモノにはならなかったんだろう。
で、まぁ実の息子が肉体、精神共に立ち直ったんで、そのまま跡継ぎになったってわけさ。多分、これも父親の情とかではなくて、それが”無難”だったって事だろうよ」
「まぁ、田舎貴族のお前のところには、縁のない話だな」
ネッドが先ほど言われた”バカ正直”への仕返しをする。
「うるせぇ! ……で、奴が王都へ戻って五年後に当時のゴワドン侯爵が急死をして、今の奴が爵位を受け継いだって寸法だ」
「……って事は、三十歳くらいで侯爵家の当主になったわけか。ずいぶんと若いよね。苦労も多かったろうに」
ネッドは、ゴワドンの数奇な運命に思いをはせた。
「さてと……。これ以上は、進展がなさそうだ。じゃぁ、俺は帰るわ」
席を立とうとするリュランに、ネッドは気になっていた話を切り出した。
「なぁ、つかぬ事を聞くようだけど、お前とシャミー、何かあるのか?」
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