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友情
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「あくまでも一部から、それらしい話が出たってだけなんだが……。俺とお前の仲だから、遠慮なく言うぞ。
忘れちゃいないだろう? お前が平民、しかも機能付加職人の息子なのを理由に、ずいぶんと嫌な思いをした昔を」
リュランの言葉に、ネッドの胸がズキンと痛む。
ネッドは騎士養成所の試験を受け、見事合格した後に騎士見習いとなった。だが普通は、平民が騎士養成所を受験する事自体が珍しい。大抵は騎士の家系、貴族、もしくは箔をつけたい裕福な商人の子息が、養成所の門をたたく。庶民の中でさえ低い地位にある、機能付加職人の息子が試験を受けるなど普通はあり得ない。
ゆえに合格してもバンバンザイというわけではなく、教官を含む周りの目は大変厳しいものであった。そんな時に出会ったのが、地方貴族出身のリュランである。彼も中央貴族から見ればとんだ田舎者で、嘲笑の対象であった。
そんな中、彼らが意気投合したのは、当然の成り行きであったのかも知れない。そして理不尽に抗する気概は同じでも、ネッドは真正面から、リュランは情報を駆使して裏からと、養成所時代から騎士時代まで、二人は稀に見る名コンビとなった。
「リュラン、お前には感謝しているよ。お前がいなかったら、僕は養成学校すら卒業できなかったかも知れない」
ネッドが、当時を思い出しふと漏らす。
「ふん、まぁそこはお互い様だ。……だけどな、あの頃も何度か、これはもう駄目かと思うような事が何回かはあったろう? その度に、不思議と突破口が開けて俺たちは無事で済んでいる」
「まさか、それがゴワドン卿のおかげだと?」
リュランの突拍子もない説明に、ネッドは信じられないという感想を持った。
「くどいようだが、あくまでわずかな可能性さ。だが、もしそうならば色々と説明がつく。
ゴワドン卿は四十年前の出来事から、犠牲になった子供はもちろん、この街やもう一人の”友人”であったお前のおやじさんの事を、ずっと注視していたとしたら……」
リュランの言葉に、ネッドの頭の中で幾つかの事象が繋がっていった。
なるほど、もしそうであるならば、森の入り口において一目見ただけで、彼がネッド・ライザーだと見分けられた理由がつく。元騎士が職人の格好をしているのだから、普通は気が付くはずもない。そして、非常識とも言えるフレンドリーな対応。これにも説明がつく。
「だけどさ、リュラン。今までの話だと、ゴワドン卿がとても義理堅く、いい人だって事がわかるだけじゃないのか。お前が言っていた、不審のかどありというのは矛盾する」
ネッドが、話を本筋へと戻した。
「確かにそうではあるんだがな。極めて異例なだけに、諜報省としては気になる所ではある」
リュランが、話を締めくくろうとする。
「ところでさ、お前の情報はそれだけなのか?」
「それだけって、何だ?」
ネッドの挑戦的な口調に、リュランがすかさず反応した。
「だってさ、ゴワドン卿の話、ハッキリと分かっている部分は、僕が伯父さんから聞いたものと大差ないじゃないか。天下の諜報騎士の知っている情報が、一つの街のギルドマスターと同じってのは情けないよな」
ネッドが、更に煽っていく。
「お、お前なぁ、この俺様を挑発する気か?」
「とんでもない。友人が諜報省でリストラされないか、心配しているだけさ」
サラっと返すネッド。
「そうかい、あぁ、わかったよ。挑発に乗ってやる。いいか、乗せられたんじゃないぞ、乗ってやるんだからな!」
リュランの性格を良く知っている、ネッドの作戦勝ちである。
「そうだな……。まずお前の伯父さんの情報は、一つ間違っている。その時の子供、今のゴワドン卿だが、王都には帰っていない。父親だけが王都に行き、本人は自分の領地に戻ったんだ」
「えっ?」
「何故かって? 王都に戻れば、狼に襲われて茫然自失状態が続いているっていう”息子の酷い状況”が、必ずどこからから漏れるだろう。それは貴族の体面を酷く損なうものだ。風聞を気にしたって所だな」
ネッドの尋ね返す素振りを制し、説明を続けるリュラン。
「いや、それだとおかしな事になるぞ。当時のゴワドン卿、つまり父親の方だけど、彼はマリオンや、この街が負うべき全ての罪を不問に付したくらいの出来た人間だったわけだろ? 普通なら王都の優秀な医者に、息子を見せるんじゃないのか?
それを、田舎に押し込めるような行動をとるのはおかしいよ」
ネッドが、反論する。
忘れちゃいないだろう? お前が平民、しかも機能付加職人の息子なのを理由に、ずいぶんと嫌な思いをした昔を」
リュランの言葉に、ネッドの胸がズキンと痛む。
ネッドは騎士養成所の試験を受け、見事合格した後に騎士見習いとなった。だが普通は、平民が騎士養成所を受験する事自体が珍しい。大抵は騎士の家系、貴族、もしくは箔をつけたい裕福な商人の子息が、養成所の門をたたく。庶民の中でさえ低い地位にある、機能付加職人の息子が試験を受けるなど普通はあり得ない。
ゆえに合格してもバンバンザイというわけではなく、教官を含む周りの目は大変厳しいものであった。そんな時に出会ったのが、地方貴族出身のリュランである。彼も中央貴族から見ればとんだ田舎者で、嘲笑の対象であった。
そんな中、彼らが意気投合したのは、当然の成り行きであったのかも知れない。そして理不尽に抗する気概は同じでも、ネッドは真正面から、リュランは情報を駆使して裏からと、養成所時代から騎士時代まで、二人は稀に見る名コンビとなった。
「リュラン、お前には感謝しているよ。お前がいなかったら、僕は養成学校すら卒業できなかったかも知れない」
ネッドが、当時を思い出しふと漏らす。
「ふん、まぁそこはお互い様だ。……だけどな、あの頃も何度か、これはもう駄目かと思うような事が何回かはあったろう? その度に、不思議と突破口が開けて俺たちは無事で済んでいる」
「まさか、それがゴワドン卿のおかげだと?」
リュランの突拍子もない説明に、ネッドは信じられないという感想を持った。
「くどいようだが、あくまでわずかな可能性さ。だが、もしそうならば色々と説明がつく。
ゴワドン卿は四十年前の出来事から、犠牲になった子供はもちろん、この街やもう一人の”友人”であったお前のおやじさんの事を、ずっと注視していたとしたら……」
リュランの言葉に、ネッドの頭の中で幾つかの事象が繋がっていった。
なるほど、もしそうであるならば、森の入り口において一目見ただけで、彼がネッド・ライザーだと見分けられた理由がつく。元騎士が職人の格好をしているのだから、普通は気が付くはずもない。そして、非常識とも言えるフレンドリーな対応。これにも説明がつく。
「だけどさ、リュラン。今までの話だと、ゴワドン卿がとても義理堅く、いい人だって事がわかるだけじゃないのか。お前が言っていた、不審のかどありというのは矛盾する」
ネッドが、話を本筋へと戻した。
「確かにそうではあるんだがな。極めて異例なだけに、諜報省としては気になる所ではある」
リュランが、話を締めくくろうとする。
「ところでさ、お前の情報はそれだけなのか?」
「それだけって、何だ?」
ネッドの挑戦的な口調に、リュランがすかさず反応した。
「だってさ、ゴワドン卿の話、ハッキリと分かっている部分は、僕が伯父さんから聞いたものと大差ないじゃないか。天下の諜報騎士の知っている情報が、一つの街のギルドマスターと同じってのは情けないよな」
ネッドが、更に煽っていく。
「お、お前なぁ、この俺様を挑発する気か?」
「とんでもない。友人が諜報省でリストラされないか、心配しているだけさ」
サラっと返すネッド。
「そうかい、あぁ、わかったよ。挑発に乗ってやる。いいか、乗せられたんじゃないぞ、乗ってやるんだからな!」
リュランの性格を良く知っている、ネッドの作戦勝ちである。
「そうだな……。まずお前の伯父さんの情報は、一つ間違っている。その時の子供、今のゴワドン卿だが、王都には帰っていない。父親だけが王都に行き、本人は自分の領地に戻ったんだ」
「えっ?」
「何故かって? 王都に戻れば、狼に襲われて茫然自失状態が続いているっていう”息子の酷い状況”が、必ずどこからから漏れるだろう。それは貴族の体面を酷く損なうものだ。風聞を気にしたって所だな」
ネッドの尋ね返す素振りを制し、説明を続けるリュラン。
「いや、それだとおかしな事になるぞ。当時のゴワドン卿、つまり父親の方だけど、彼はマリオンや、この街が負うべき全ての罪を不問に付したくらいの出来た人間だったわけだろ? 普通なら王都の優秀な医者に、息子を見せるんじゃないのか?
それを、田舎に押し込めるような行動をとるのはおかしいよ」
ネッドが、反論する。
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