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違和感

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ネッドがここへ来たのは、自分の知らなかった父の一面に思いを馳せるためだ。しかしそれを言うと、何か話を蒸し返してしまいそうで嫌だったのだ。

「ほう、君は今、冒険者をやっているのか? しかし、そういう格好には見えないな」

ゴワドンの疑問は、至極当然のものであった。今のネッドは剣も持たず、簡単な防具すらつけていない。

「はい、普段は機能付加職を生業としています。冒険者は、魂石を手に入れる為の副業です」

ネッドは、正直に応えた。

「なんと! 君は機能付加職人をやっているのか。父上の跡を継いだというわけか……」

ゴワドンは驚きと共に、どこか嬉しそうな表情を見せた。

「しかし、王付きの騎士をやめて機能付加職人になるとは、余程の事が……。

あ、いや、すまない。人には事情というものがある。時には、人に言えない事情というものがな。聞くのは、野暮というものだろう

それに君の退官は、陛下がお許しになったものだ。私がとやかく言う話ではない」

ネッドは、ホッとする。騎士を辞めた経緯は、王を含めほんの数人しか知らない秘密である。たとえ侯爵であろうとも、知らせて良いものではない。

だがもし今、侯爵としての権威を振り回されて問い詰められれば、これまでの和やかな雰囲気はぶち壊され、ネッドの立場も危ういものとなっただろう。

「恐れ入ります」

ネッドは、精一杯の謝意を示した。

「侯爵さま――っ!」

二人の間に醸し出された柔らかな空気を切り裂くかのように、平原の入り口から大きな声が響く。

「あぁ、副官のエリウォーラだ。ようやっと、ここを嗅ぎ付けてきたか。それじゃぁ、ネッド君。名残惜しいが、これでお別れた。今度の探索、元騎士としての君の活躍に期待しているよ」

ゴワドンは踵を返し、心配している副官の元へと小走りで近づいていく。二言三言、ネッドの方を見て話していたが、副官に伴った数名の護衛と共に、街へと引き返していった。

一人、草原に残されたネッド。

彼には、不思議な違和感が残っていた。それは、いるはずのない場所にゴワドンがいた事なのか、リュランの話とはかなり異なる、意外過ぎる彼の話や態度だったのか。

「……あっ! やばい、もうこんな時間だ。早いところ帰んなきゃ、またシャミーに怒られる!」

ゴワドンとの邂逅に時を忘れたネッドだったが、妹の顔を思い浮かべ慌てて家路へとついた。

数十分後、ネッドは自分の家にも関わらず、抜き足差し足でそっと玄関の戸を開ける。うむ、とりあえずシャミーは、ここにはいない。場合によっては、仁王立ちになって待ち構えているかと思ったが、杞憂のようだった。

「ただいまぁ~。色々と用事があって、帰るのが遅れちゃった。決して、サボってたわけじゃないぞっ」

妹が怒っていない事を確信し、ネッドは努めて明るい声を出しながら居間のドアを開ける。

「よぉ、遅いぞネッド。店を潰す気か?」

いつぞやは、この家の主人のベッドを占領した不埒者が、またしても悠々とソファーに横たわっていた。
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