騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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父の話

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「いえ、とんでもございません。騎士時代であればともかく、今の私は単なる平民です。本来であれば、話す事すら許されぬ身。

ただ、知らぬ事がかえって無礼となってはいけないと思い、恐れながら声を掛けさせて頂いた次第です」

それらの言葉が、スラスラとネッドの口から流れ出る。騎士時代に染みついたとはいえ、習慣というのは恐ろしいものであった。

「いや、丁寧な口上いたみいる。ただ見ての通り、私は供を一人も連れていない。つまり、忍びという事だ。もし誰かが今の私と君を見たら、非常に奇妙に思うだろう?

だから立って、普通に話してくれないか」

ネッドは、非常に戸惑った。

理屈としては筋が通るが、現実問題として普通有り得ない話である。だが暫し迷ったものの、これ以上、意に反した行動をとるのはかえって無礼と考え、ネッドはその意に従う事とした。

「ライザー君、ここは私にとって忘れられない場所でね。職務の前に、どうしても一人で訪れてみたかったんだよ」

ゴワドンの目は草なびく平原を越え、何か別のものを見ているようにネッドには映った。

「……君は、今私の言った事の意味が分かるか?」

ネッドは、またしても迷う。もちろん侯爵の言わんとしているのは、四十年前の悲劇についてであろう。だが、それに答えて良いものかどうか……。沈黙が続けば、場の雰囲気は悪くなる。ネッドは思い切って判断した。

「はい。ゴワドン卿が御幼少のみぎり、九死に一生を得た場所だと聞いております」

「ほう、それをどこから?」

特に顔色を変える事なく、ゴワドンが尋ねる。

「この街のギルドマスター、私の伯父から聞きました。ただ、それはつい先日の事でした」

「なるほど。それじゃぁアルベルトは、君に何も話さなかったわけだ。……責任を感じていたんだろうな。そんな必要は、なかったのに……。あの世まで持って行ってしまったか」

ゴワドンの口から父の名が出て、ネッドの胸の鼓動が少し早くなった。そしてゴワドンが、父の死を知っている事に心底驚くネッド。

「父の事を、覚えておいでで……」

ネッドが、思わず口走る。

「当然さ。彼は、私の数少ない友人の一人だよ。……あぁ、本当に短い間ではあったけどな。亡くなったのは非常に残念だ」

ゴワドンの頬が緩み、何か懐かしい想い出に浸っているように見えた。

「恐れながら、なぜ、父の死をご存じなのでしょうか?」

非常にショッキングな出来事に関連しているとはいえ、たった四、五日たわむれた平民を友人と呼び、その死までも知っているとは、ネッドには理解しがたい状況だ。

「君の父上は、たいそう有能な機能付加職人、特に魂石を使う人だったからね。風の噂くらいには、流れて来るさ。そしてその息子が、騎士になったという事もね」

ここでネッドは、リュランの話を思い出す。ゴワドンは、陰ながら機能付加職人の地位向上に努めてきたという。ならば、付加職人界隈では名が売れていた父の死を知っていても、それほど不思議ではないだろう。ただ、その息子である自分が、騎士になった事実も知っていようとは……。

「ありがとうございます。父も草葉のかげで、喜んでいるでしょう」

平民でありながら、侯爵の記憶にいつまでも留まっている。ネッドには、それが誇らしかった。

「ところでネッド君、君は何をしにここへ?」

「あ、はい。ゴワドン卿が指揮をお取りになる今回の探索。私も冒険者として参加します。その下見の為に……」

ネッドは、嘘をついた。
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