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悲劇の再来
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ゾラウルフ。
ネッドは直感的に、悪寒の正体を悟った。この季節、憐れな兎たちを目的にして、狂暴な狼が群れを成しやって来る。おり悪く四十年前と同様に、ネッドは彼らに出会ってしまったのだ。
「ガウッ!」
群れのリーダーらしき狼が一声唸ると、二十匹はいるであろうゾラウルフが、一斉にこちらへ向かって駆け出した。
その速さには特質すべきものがあり、彼らの脚から逃れられる動物はそうはいない。仮に短い距離ならば彼らと同等に走れても、狼たちは驚異のスタミナを持ち合わせているからだ。いずれは追いつかれ、悲惨な最期を遂げる他ないのである。
狼たちは瞬く間にセルラビットの群れに迫り、もはや兎たちの運命は風前の灯火であった。だが狼たちが、兎たちの犠牲だけで満足するはずもない。当然、その場にいるネッドも彼らの標的となった。
まずは、怖いもの知らずの若いオスがネッドに牙をむく。たとえ戦士であっても、武器や防具がなくては無傷で勝てる相手ではない。だがネッドは今、剣も盾も携えてはいなかった。正に絶体絶命である。
楽勝だと踏んだゾラウルフたちは予期せぬ得物を若狼に任せ、他はセルラビットたちを追いまわす。必死に逃げる憐れな兎たち。しかし、この恐ろしい天敵の犠牲になるのは時間の問題だ。
一方、ネッドの相手を任された狼は、若さに任せて敵の正面から突進する。その狙いは、明らかにネッドの喉笛であった。たとえ自分より大きな獲物でも、そこを食いちぎれば、勝利を簡単に手にする事が出来ると狼たちは知っている。
しかし、すぐに勝利の雄叫びは悲鳴へと変わった。ゾラウルフの突進を難なくかわしたネッドは、右掌底を狼の脇腹に打ち込む。先日、無頼の戦士を叩きのめした時と同様に、手のひらからは大地のエネルギーがほとばしり、不運な若狼は血反吐を吐いて地面に転げ落ちた。
仲間の悲鳴を聞きつけて、セルラビットを追っていた狼たちが、一斉にネッドの周りを取り囲む。並の冒険者なら、これは大ピンチである。多勢に無勢であり、抗う武器もなく、助けてくれる者もない。ゾラウルフのスピードを考えれば、逃げる事さえかなわない。
だが、ネッドが恐れる様子は微塵もない。
少しずつ包囲網を狭めて来る狼たち。獲物を逃さぬ距離を見極めたリーダー狼が、突撃の合図をする。一斉にネッドへ襲い掛かる捕食者ども。
ネッドは慌てる様子もなく、目を付けておいた、一番囲みの薄い場所から迫りくる狼をいなしたかと思うと、囲みの外への脱出に悠々と成功した。しかし、それでどうなるものではない。十数匹のゾラウルフが恐ろしい形相で、ネッドを追撃してくる。
ネッドは辺りを見回し、手近な木へと駆け登った。子供の頃から、木登りは得意中の得意である。狼たちはすぐに根本にあつまり、樹上の得物に吠え立てた。本来ならば、ここから獲物と、狼たちの根競べが始まるはずである。しかしネッドに、そんな事をするつもりは毛頭ない。
ネッドはポケットから、ピンポン玉くらいの球体を取り出した。表面にはスライドスイッチが二つ付いている。彼はその二つとも、これは安全装置と起動スイッチなのであるが、それらをオンにして木の下の狼どもへと放り投げた。
次の瞬間、狼たちは凄まじい悲鳴を上げる。
ネッドは直感的に、悪寒の正体を悟った。この季節、憐れな兎たちを目的にして、狂暴な狼が群れを成しやって来る。おり悪く四十年前と同様に、ネッドは彼らに出会ってしまったのだ。
「ガウッ!」
群れのリーダーらしき狼が一声唸ると、二十匹はいるであろうゾラウルフが、一斉にこちらへ向かって駆け出した。
その速さには特質すべきものがあり、彼らの脚から逃れられる動物はそうはいない。仮に短い距離ならば彼らと同等に走れても、狼たちは驚異のスタミナを持ち合わせているからだ。いずれは追いつかれ、悲惨な最期を遂げる他ないのである。
狼たちは瞬く間にセルラビットの群れに迫り、もはや兎たちの運命は風前の灯火であった。だが狼たちが、兎たちの犠牲だけで満足するはずもない。当然、その場にいるネッドも彼らの標的となった。
まずは、怖いもの知らずの若いオスがネッドに牙をむく。たとえ戦士であっても、武器や防具がなくては無傷で勝てる相手ではない。だがネッドは今、剣も盾も携えてはいなかった。正に絶体絶命である。
楽勝だと踏んだゾラウルフたちは予期せぬ得物を若狼に任せ、他はセルラビットたちを追いまわす。必死に逃げる憐れな兎たち。しかし、この恐ろしい天敵の犠牲になるのは時間の問題だ。
一方、ネッドの相手を任された狼は、若さに任せて敵の正面から突進する。その狙いは、明らかにネッドの喉笛であった。たとえ自分より大きな獲物でも、そこを食いちぎれば、勝利を簡単に手にする事が出来ると狼たちは知っている。
しかし、すぐに勝利の雄叫びは悲鳴へと変わった。ゾラウルフの突進を難なくかわしたネッドは、右掌底を狼の脇腹に打ち込む。先日、無頼の戦士を叩きのめした時と同様に、手のひらからは大地のエネルギーがほとばしり、不運な若狼は血反吐を吐いて地面に転げ落ちた。
仲間の悲鳴を聞きつけて、セルラビットを追っていた狼たちが、一斉にネッドの周りを取り囲む。並の冒険者なら、これは大ピンチである。多勢に無勢であり、抗う武器もなく、助けてくれる者もない。ゾラウルフのスピードを考えれば、逃げる事さえかなわない。
だが、ネッドが恐れる様子は微塵もない。
少しずつ包囲網を狭めて来る狼たち。獲物を逃さぬ距離を見極めたリーダー狼が、突撃の合図をする。一斉にネッドへ襲い掛かる捕食者ども。
ネッドは慌てる様子もなく、目を付けておいた、一番囲みの薄い場所から迫りくる狼をいなしたかと思うと、囲みの外への脱出に悠々と成功した。しかし、それでどうなるものではない。十数匹のゾラウルフが恐ろしい形相で、ネッドを追撃してくる。
ネッドは辺りを見回し、手近な木へと駆け登った。子供の頃から、木登りは得意中の得意である。狼たちはすぐに根本にあつまり、樹上の得物に吠え立てた。本来ならば、ここから獲物と、狼たちの根競べが始まるはずである。しかしネッドに、そんな事をするつもりは毛頭ない。
ネッドはポケットから、ピンポン玉くらいの球体を取り出した。表面にはスライドスイッチが二つ付いている。彼はその二つとも、これは安全装置と起動スイッチなのであるが、それらをオンにして木の下の狼どもへと放り投げた。
次の瞬間、狼たちは凄まじい悲鳴を上げる。
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