49 / 153
伯父の気遣い
しおりを挟む
「いや、これは驚いた。お前が悪魔と契約した事は知っていたが……」
「すいません。色々とお話をしていなくて」
伯父の驚きように、ネッドは恐縮する。
「まぁ、いい、まぁ、いい。全てを話せないのを承知で、私はお前の後見になったんだ。話したくなる時まで、気長に待つさ」
ネッドの心配をよそに、ガントはどこか嬉しそうに見える。娘が魔王の娘と互角に戦った事、大きな目標を得た事を喜んでいるかのようだ。
「しかしなぁ。メルだけでなく、魔王の娘とも婚約してたなんて、お前もなかなかやるじゃないか。もっとも、この国は一夫多妻制じゃないから、お前にとっては残念だろうがな」
「もう、婚約してませんよ……! 」
ネッドが、慌てて否定する。
「ふっ。だが、もしお前の父アルベルトが生きていたら、只じゃ済まなかったろうよ。あの石頭、お前をぶん殴って勘当してたかも知れんぞ」
ガントは、高笑いをした。
「まぁ、お前も騎士時代”ストーン・ゴーレムのネッド”と呼ばれていたそうだから、血は争えないというところか」
伯父の更なる高笑いに、ネッドもつられて笑う。ネッドは”あの事”について、伯父に全てを話したわけではない。もし知ってしまったら、下手をすればリュランの様に国家反逆罪に問われかねないからだ。だがメルとアリシアが対峙してしまった以上、いつかは話さねばならないだろう。
一応の話が終ったネッドは、リルゴットの森の一件が片付き次第、メルとはきちんと話し合うと告げてギルド館を後にした。
「さて、次はアスティの所だ」
ネッドは向かいのカフェに立ち寄り、友人の好きなミレッズオレンジのパイをテイクアウトする。忙しさにかまけて訪問が遅れた事を後悔しつつも、ネッドは彼の住まいである町はずれの一角へと足を運んだ。
果たしてというべきか、やはりというべきか、魔石職人アスティの店はクローズドの看板が掛かっており、住居部分の呼び鈴を押しても返事はなかった。通りかかった近所の人に聞いてみたところ、おととい辺りは見たものの、それ以降は見かけないという。
もっとも魔石を仕入れに他の街へ行く事は珍しくはないし、出来上がった品を届けたついでに微調整をする事だった普通にある。必要以上の心配はいらないだろう。これ以上、ここにいても何も出来ないと思ったネッドは、次の目的地へと足を向けた
街の外れから三十分も歩いたろうか。ネッドは、リルゴットの森の入り口辺りに差し掛かっていた。異例ずくめの探索の目的地。そして四十年前の悲劇の現場。奇しくも今は、惨劇のあった時と同じ季節である。犠牲になった子供の事、その親の事。そして懺悔の念を抱え生きてきた父の事。様々な思いが、彼の脳裏をよぎった。
「あぁ、あれは……」
ネッドから少し離れた草原に、セルラビットが群れを成している。多分、子供の頃のゴワドン侯爵と遊び相手のマリオンも、これと同じ風景を見ていたのだろう。彼は四十年前のあの時へ吸い込まれるかのように、セルラビットの群れへと近づいて行った。
ネッドは、この大人しい兎たちが悲劇の引き金になった事を思いながら、彼らの何匹かを撫でてみる。なるほど、子供なら誰でも魅かれる愛くるしさだ。幼い頃のネッドも例外ではない。
そんな感傷に浸っているネッドの体に、悪寒のような冷気が走る。彼は、すぐさま森の入り口に目をやった。
「すいません。色々とお話をしていなくて」
伯父の驚きように、ネッドは恐縮する。
「まぁ、いい、まぁ、いい。全てを話せないのを承知で、私はお前の後見になったんだ。話したくなる時まで、気長に待つさ」
ネッドの心配をよそに、ガントはどこか嬉しそうに見える。娘が魔王の娘と互角に戦った事、大きな目標を得た事を喜んでいるかのようだ。
「しかしなぁ。メルだけでなく、魔王の娘とも婚約してたなんて、お前もなかなかやるじゃないか。もっとも、この国は一夫多妻制じゃないから、お前にとっては残念だろうがな」
「もう、婚約してませんよ……! 」
ネッドが、慌てて否定する。
「ふっ。だが、もしお前の父アルベルトが生きていたら、只じゃ済まなかったろうよ。あの石頭、お前をぶん殴って勘当してたかも知れんぞ」
ガントは、高笑いをした。
「まぁ、お前も騎士時代”ストーン・ゴーレムのネッド”と呼ばれていたそうだから、血は争えないというところか」
伯父の更なる高笑いに、ネッドもつられて笑う。ネッドは”あの事”について、伯父に全てを話したわけではない。もし知ってしまったら、下手をすればリュランの様に国家反逆罪に問われかねないからだ。だがメルとアリシアが対峙してしまった以上、いつかは話さねばならないだろう。
一応の話が終ったネッドは、リルゴットの森の一件が片付き次第、メルとはきちんと話し合うと告げてギルド館を後にした。
「さて、次はアスティの所だ」
ネッドは向かいのカフェに立ち寄り、友人の好きなミレッズオレンジのパイをテイクアウトする。忙しさにかまけて訪問が遅れた事を後悔しつつも、ネッドは彼の住まいである町はずれの一角へと足を運んだ。
果たしてというべきか、やはりというべきか、魔石職人アスティの店はクローズドの看板が掛かっており、住居部分の呼び鈴を押しても返事はなかった。通りかかった近所の人に聞いてみたところ、おととい辺りは見たものの、それ以降は見かけないという。
もっとも魔石を仕入れに他の街へ行く事は珍しくはないし、出来上がった品を届けたついでに微調整をする事だった普通にある。必要以上の心配はいらないだろう。これ以上、ここにいても何も出来ないと思ったネッドは、次の目的地へと足を向けた
街の外れから三十分も歩いたろうか。ネッドは、リルゴットの森の入り口辺りに差し掛かっていた。異例ずくめの探索の目的地。そして四十年前の悲劇の現場。奇しくも今は、惨劇のあった時と同じ季節である。犠牲になった子供の事、その親の事。そして懺悔の念を抱え生きてきた父の事。様々な思いが、彼の脳裏をよぎった。
「あぁ、あれは……」
ネッドから少し離れた草原に、セルラビットが群れを成している。多分、子供の頃のゴワドン侯爵と遊び相手のマリオンも、これと同じ風景を見ていたのだろう。彼は四十年前のあの時へ吸い込まれるかのように、セルラビットの群れへと近づいて行った。
ネッドは、この大人しい兎たちが悲劇の引き金になった事を思いながら、彼らの何匹かを撫でてみる。なるほど、子供なら誰でも魅かれる愛くるしさだ。幼い頃のネッドも例外ではない。
そんな感傷に浸っているネッドの体に、悪寒のような冷気が走る。彼は、すぐさま森の入り口に目をやった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】それは、私にお任せください
楽歩
恋愛
強面で無骨な近衛隊長のスヴェイン。彼には可憐な婚約者がいる。
スヴェインを一途に思い、全力で愛するレティシア。しかし、スヴェインは気付かない。愛する婚約者を守るため、影で暗躍するレティシアのもう一つの顔を――。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))6万字ほどの中編です。
元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。
九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
ファンタジー
異世界から帰還した元勇者・冴木蒼真(さえきそうま)は、刺激欲しさにダンジョン配信を始める。
異世界での無敵スキル〈破壊不可(アンブレイカブル)〉を元の世界に引き継いでいた蒼真だったが、ただノーダメなだけで見栄えが悪く、配信者としての知名度はゼロ。
人気のある配信者達は実力ではなく派手な技や外見だけでファンを獲得しており、蒼真はそんな〝偽者〟ばかりが評価される世界に虚しさを募らせていた。
もうダンジョン配信なんて辞めてしまおう──そう思っていた矢先、蒼真のクラスにひとりの美少女転校生が現れる。
「わたくし、魔王ですのよ」
そう自己紹介したこの玲瓏妖艶な美少女こそ、まさしく蒼真が異世界で倒した元魔王。
元魔王の彼女は風祭果凛(かざまつりかりん)と名乗り、どういうわけか蒼真の家に居候し始める。そして、とあるカップルのダンジョン配信を見て、こう言った。
「蒼真様とカップル配信がしてみたいですわ!」
果凛のこの一言で生まれた元勇者と元魔王によるダンジョン配信チャンネル『そまりんカップル』。
無敵×最強カップルによる〝本物〟の配信はネット内でたちまち大バズりし、徐々にその存在を世界へと知らしめていく。
これは、元勇者と元魔王がカップル配信者となってダンジョンを攻略していく成り上がりラブコメ配信譚──二人の未来を知るのは、視聴者(読者)のみ。
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる