騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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意外なお客

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「おっはよー、昨日はどうも!」

朝一番で店のドアを開けたのは、昨日ギルド館で出会った女冒険者ヌーンであった。ネッドを探しに来たメルに、彼が向かいのカフェにいると教えなかった事が、トンデモナイ事態を引き起こしたなどとは夢にも思っていない。

「やぁ、おはようございます、ヌーンさん。早速お越し頂いてありがとう」

肝を冷やしたトラブルの元凶の一人とも知らず、ネッドは慣れない愛想を振りまいた。

「本日は、どのような御用件で?」

「他でもないよ。今度の探索に使う品を、調整してもらおうと思ってさ」

紅毛の女戦士が、気さくに答える。

「というと、何かの武器に機能付加をしたいと?」

ヌーンの目が、キラリと光る。

「ふーん。なんで武器だと思うの? 盾とかの防具かも知れないのに」

眼前の職人を、値踏みするヌーン。

「え、えぇっと、大変失礼なんですが、僕の見たところ、ヌーンさんは圧縮筋肉の持ち主じゃないかと思ったんです。それだとスピードとパワーを生かした一撃離脱戦法を得意とするだろうから、盾は使わないかなと……」

先走ってしまった事を、少し後悔するネッドであったが仕方がない。ここは正直に行こうと心を決めた。

「えらい! あんたは、えらい!」

大昔、一世を風靡したコメディアンのようなセリフを吐き、ヌーンはカウンター越しにネッドの肩をバンバンと叩いた。肩の痛みに愛想笑いで応えるネッド。

「実はさ、リルゴットの森のどこら辺を探索するかのクジで、ライルのバカが大外れを引いちゃってさぁ。そこに良く出る扱いにくいモンスター用に、何か対策できないかなと思って来たのよね」

もしかしたらメルの一件で罰が当たったのかも知れないのだが、全てをリーダー・ライルのせいにするお気楽なヌーンであった。

「で、具体的にはどういう」

「それなんだけどさ、その地域のモンスターってのが……」

それから暫く、ネッドとヌーンの商談が続く。そしてヌーンは色々な物がごちゃ混ぜに入っている袋の中から、縮小化してある武器を一つ取り出して、それを元の大きさへと戻した。

「では、お預かりします。半金は今頂戴して、残りは効果を確認してもらった後という事でよろしいですか?」

「よろしいよ!」

ヌーンの元気な返事にネッドが苦笑する。探索前日の朝の引き取りを約束し、彼女は鼻歌交じりに店を去った。

「誰かお客さん?」

子供のような無邪気な声を聞きつけ、シャミーが奥から顔をだす。

「うん。ライルさんのパーティー仲間でヌーンさん。女戦士だよ。しかも圧縮筋肉の持ち主」

「という事は、武器の調整?」

蛙の子は蛙。ネッドだけではなく、シャミーも夭逝の天才職人、アルベルト・ライザーの忘れ形見である。

「そう、今度の探索で使いたいんだって」

「ふーん……。ところでさぁ、お兄ちゃんも、その探索に参加するんでしょ。 準備はいいの?」

手柄を立てての賞金に、シャミーの心が揺れ動く。

「まぁ、色々考えてるよ。それに目立たないで活躍する為の、良い考えも思いついたしね」

ネッドが妹相手に、鼻をちょっと突きだした。

「へぇ~、それは頼もしいわね。あぁ、もしかしたら、探索目当てで飛び込みの客が結構来るかもよ。リピーターになるように、しっかり仕事して頂戴よね」

「もちろんさ。お前が”玉の輿”に乗る時に、恥ずかしくない用意をさせなきゃいけないからな。早く一人前の職人にならないと!」

シャミーの口癖を逆手にとって、ネッドが決意を表明した。

「期待しないで、まってるわ。でも、私がオバサンになったてからなんてオチはなしよ」

いつもの仕返しをしたつもりが、とんだ返り討ちにあうネッド。

「がんばります!」

心底、妹を思うネッドの言葉には返事をせず、シャミーは母屋への廊下を渡る。彼女の視界は、雫で少し歪んでいる。

「バカ兄貴……」

兄の気持ちを、素直に受け取れないシャミーであった。
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