騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

文字の大きさ
上 下
45 / 153

意外な情報

しおりを挟む
「そうだ。ついでだから聞いておきたいんだけど、ゴワドン侯爵ってどういう人なんだ。僕は騎士時代、全く会った事はなくて、行事の時に遠くから見る程度だったんでね」

落ち込むリュランを見かねて、ネッドが話題を変える。

「あぁ、ゴワドン伯爵ってのは……、っていうか、”ついで”ってのは何だ、ついでってのは? 仮にも諜報部のエースに直に情報を聞くんだぞ、もう少し、敬意ってものをだな……」

「あ~、はいはい。リュラン様、どうか友達のよしみで情報を教えて下さいまし」

口ごたえしても面倒なので、ネッドは、いっそおどけてみせた。それまで沈んだ表情だったリュランがプッと吹き出し、二人で大笑いをする。

「は、そうだなぁ、まぁ、とにかく厳しい人だ。新米官僚なんぞ、前に立っただけでも震えが来るほどにな。だけど、決して暴君ってわけじゃない。言っている事は、いちいち腹の立つほど筋が通っている。

本来ならそんな人物は役所を追い出されるわけなんだが、何せ爵位が侯爵だ。誰も口出しなんか出来やしない。しかも、実績があるから尚更だ」

八方塞がりの憂鬱を吹き飛ばすように、リュランが雄弁に語る。

「だけど、それだと話が違うぞ。お前はさっき、色々と怪しいって言ってたじゃないか。今の話だと、ゴワドン侯爵は稀に見る名貴族って感じだぞ」

亡き父親の心に暗い影を落とす事件の関係者だけに、ネッドの関心は強かった。

「怪しいってのは、別に不正をしている疑いがあるって意味じゃないさ。とにかく、わからない行動が多いんだ」

リュランが、自分の職責において反論する。

「でもなぁ……」

「あぁ、それから侯爵は、長年機能付加職人の地位向上に努めようとしてきた節がある」

疑問を払拭できないネッドに、意外な情報がもたらされた。

「機能付加職人の地位向上?」

驚いたネッドが、オウム返しに尋ねる。

「あぁ、ただし、これも表立ってやったわけじゃない。裏から糸を引く……、いや応援するって感じだ」

「なんで、そんな事を……」

リュランの答えに、ネッドは新たな疑問が次から次へと頭に浮かんだ。

「まぁ、普通に考えりゃ、自分の犠牲になった職人親子への贖罪って所だろうな。ただ、過去に遡って調べると、ゴワドン侯爵が父親から当主の座を譲られた頃から、それは始まっている。つまり、もう二十年くらいになるわけだ」

「そんなに長く。……でも、おかしいぞ。あの魔法使いと戦士の兄弟の言い分を聞けばわかるように、この二十年で付加職人の地位が向上したなんて事はないよ」

「確かにな。それだけ、世の中の理を変えるのは難しいってこった」

友人の新たな職の前途を憂うように、リュランはため息をつく。少し重苦しい空気が、広くはないネッドの部屋を支配した。

「ふうっ――。じゃ、今日はこれくらいにしてもう寝るか」

これ以上話しても、いい事はないだろうと考えたネッドは、話を切り上げようとする。

「いや、駄目だ」

リュランが、きっぱりとはねつけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから

水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」 「……はい?」 子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。 だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。 「エリオット様と別れろって言っているの!」  彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。  そのせいで、私は怪我をしてしまった。  いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。  だって、彼は──。  そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

嫌われ者のお姫様、今日も嫌われていることに気付かず突っ込んでいく

下菊みこと
ファンタジー
家族の愛をひたすら待つのではなく、家族への愛をひたすら捧ぐ少女がみんなから愛されるまでのお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 ごめんなさいどのジャンルに含まれるのかわからないのでとりあえずファンタジーで。違ってたらご指摘ください。

処理中です...