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シャミー、機嫌を損ねる
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「あ、あれって?」
「おみやげよ、おみやげ! そんなご馳走が出たんだったら、お土産に包んでもらって来くるわよね、普通」
掌を前後に振り、当然の報酬とばかりに魔王城のご馳走を要求するシャミー。
「い、いや、招かれた身で、こっちから”お土産下さい”なんて言えるわけないだろ」
すっかり失念していた事を後悔しつつも、ネッドは何とか言い訳を試みた。
「”家で待っている妹にも、食べさせたいので”くらい言えないの?」
シャミーが、唇をとがらす。
「無理だよ、シャミー。我が親友ながらネッド君は、そういう所の気は全然利かない方だからね。騎士時代も”ストーン・ゴーレムのネッド”って、仇名がついてたくらいだし」
「あぁ、それは私も聞いた事があるわ。石で出来た人形みたいに、カチカチに硬いって意味でしょ。ほんと、もう少し融通がきいたら、商売だってもっと上手くいくでしょうに」
シャミーとリュランが、軽快に言葉のキャッチボールを交わす。確かにこの二人は、ネッドの騎士時代から妙に馬が合っていたが、それは未だに健在のようであった。
「お前たち三カ月ぶりなのに、バカに気が合うね」
ネッドが、苦し紛れに皮肉を言う。
「そんな事ないわよ。リュランとは、頻繁に連絡を取り合ってるし」
「はい!?」
妹の意外な一言に、ネッドは素っ頓狂な声をあげた。
「リュランが王都の事情を始め、色々な情報を流してくれるのよ。で、私はそれを分析して、店の為に活用しているわけ」
「そんで、代わりにシャミーは、お前の動向を俺に知らせて来るのさ」
いや、そんな話、全く聞いてないぞ! ネッドの知らない事を当然のように喋る二人を前に、ネッドの驚きは頂点に達する。
「なぁ、わかってると思うけど、お前は無罪放免で王都を出られたわけじゃないんだぞ」
リュランの顔が突然、真面目なものになった。
「!」
ネッドが、二の句を失う。
……そうさ、わかってる、わかってるよ。リュランが国を欺く嘘をついてさえ、王都の政権を握る者達が、僕を無条件に解放したわけじゃないって事ぐらい。
ネッドは、逃れられない現実を思い出した。
「じゃぁ、俺たちはこれから男同士の話があるんで、ネッドの部屋に行くわ」
突然リュランが席を立ち、ネッドの肩に手をかける。
「ふ~ん、どうせスケベな話でもするんでしょ。まぁ、どうぞご自由に。あ、お兄ちゃん、お土産もらって来なかった罰として、片付けは全部やっといてよ」
「え~! ……リュランも食べたんだから、当然お前も……」
シンクに溜まっている大量の調理器具や皿を見て、ネッドは旧友に助けを求める。
「お前、客に皿を洗わせる気か?」
「いや、お前を客扱いする気はない!」
あの妹と何やら上手くやっているリュランに、多少の嫉妬を覚えるネッドであった。
更に二言三言やり合いながら、二人は二階にあるネッドの部屋へと入る。リュランは一人掛けのソファーに、ネッドは机用の椅子に腰かけた。
「じゃぁ、スケベな話でもするか」
リュランが、イタズラっぽく笑う。
「なぁ、食堂で話をしなかったのは、シャミーを撒き込まないためだろう?」
ネッドが、リュランを真っすぐに見つめた。
「まぁな。上の連中は、シャミーもお前の秘密を知っているんじゃないかと疑っている。もちろん、知らないだろうと報告はしているが、どこまで信じているものやら……。
まぁ、実際にはシャミーも”全て”を知っているわけだけど、それ以外の事は出来るだけ知らない状態にさせておきたいんだ。それだけ連中が、付け入る隙を少なくしたいからな」
ネッドは、妹に対する彼の心遣いに感謝する。
「じゃぁ、本題に入ろう」
リュランが、背もたれから身を起こした。
「おみやげよ、おみやげ! そんなご馳走が出たんだったら、お土産に包んでもらって来くるわよね、普通」
掌を前後に振り、当然の報酬とばかりに魔王城のご馳走を要求するシャミー。
「い、いや、招かれた身で、こっちから”お土産下さい”なんて言えるわけないだろ」
すっかり失念していた事を後悔しつつも、ネッドは何とか言い訳を試みた。
「”家で待っている妹にも、食べさせたいので”くらい言えないの?」
シャミーが、唇をとがらす。
「無理だよ、シャミー。我が親友ながらネッド君は、そういう所の気は全然利かない方だからね。騎士時代も”ストーン・ゴーレムのネッド”って、仇名がついてたくらいだし」
「あぁ、それは私も聞いた事があるわ。石で出来た人形みたいに、カチカチに硬いって意味でしょ。ほんと、もう少し融通がきいたら、商売だってもっと上手くいくでしょうに」
シャミーとリュランが、軽快に言葉のキャッチボールを交わす。確かにこの二人は、ネッドの騎士時代から妙に馬が合っていたが、それは未だに健在のようであった。
「お前たち三カ月ぶりなのに、バカに気が合うね」
ネッドが、苦し紛れに皮肉を言う。
「そんな事ないわよ。リュランとは、頻繁に連絡を取り合ってるし」
「はい!?」
妹の意外な一言に、ネッドは素っ頓狂な声をあげた。
「リュランが王都の事情を始め、色々な情報を流してくれるのよ。で、私はそれを分析して、店の為に活用しているわけ」
「そんで、代わりにシャミーは、お前の動向を俺に知らせて来るのさ」
いや、そんな話、全く聞いてないぞ! ネッドの知らない事を当然のように喋る二人を前に、ネッドの驚きは頂点に達する。
「なぁ、わかってると思うけど、お前は無罪放免で王都を出られたわけじゃないんだぞ」
リュランの顔が突然、真面目なものになった。
「!」
ネッドが、二の句を失う。
……そうさ、わかってる、わかってるよ。リュランが国を欺く嘘をついてさえ、王都の政権を握る者達が、僕を無条件に解放したわけじゃないって事ぐらい。
ネッドは、逃れられない現実を思い出した。
「じゃぁ、俺たちはこれから男同士の話があるんで、ネッドの部屋に行くわ」
突然リュランが席を立ち、ネッドの肩に手をかける。
「ふ~ん、どうせスケベな話でもするんでしょ。まぁ、どうぞご自由に。あ、お兄ちゃん、お土産もらって来なかった罰として、片付けは全部やっといてよ」
「え~! ……リュランも食べたんだから、当然お前も……」
シンクに溜まっている大量の調理器具や皿を見て、ネッドは旧友に助けを求める。
「お前、客に皿を洗わせる気か?」
「いや、お前を客扱いする気はない!」
あの妹と何やら上手くやっているリュランに、多少の嫉妬を覚えるネッドであった。
更に二言三言やり合いながら、二人は二階にあるネッドの部屋へと入る。リュランは一人掛けのソファーに、ネッドは机用の椅子に腰かけた。
「じゃぁ、スケベな話でもするか」
リュランが、イタズラっぽく笑う。
「なぁ、食堂で話をしなかったのは、シャミーを撒き込まないためだろう?」
ネッドが、リュランを真っすぐに見つめた。
「まぁな。上の連中は、シャミーもお前の秘密を知っているんじゃないかと疑っている。もちろん、知らないだろうと報告はしているが、どこまで信じているものやら……。
まぁ、実際にはシャミーも”全て”を知っているわけだけど、それ以外の事は出来るだけ知らない状態にさせておきたいんだ。それだけ連中が、付け入る隙を少なくしたいからな」
ネッドは、妹に対する彼の心遣いに感謝する。
「じゃぁ、本題に入ろう」
リュランが、背もたれから身を起こした。
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