41 / 153
招かれざる客
しおりを挟む
「あぁ、お兄ちゃん、お帰りなさい。”ずいぶんと”遅かったわねぇ」
こちらは予想通り、早くもお小言の予兆が見えている。だが、居間にはもう一人……。
「よぉ、ネッド、遅いぞ。店主が店をほったらかしにして、遊び歩いてちゃいかんよなぁ」
果たしてそこには、ソファに寝そべり、クッキーをバリバリと食べるリュランがいた。
「お、お前、何でここに居るんだよ!」
ネッドは、思いもよらない訪問者に面食らう。
「はぁ? お前、さっき”時間を見て店に来い”って言ったじゃんか」
ネッドが、ポカンと口を開ける。
……あぁ、言ったさ。確かに言った。
まぁ、リュランとシャミーは僕の騎士時代から知らぬ仲ではないから、家に入れるのは良しとしよう。だけど普通は、明日以降に土産の一つでも携えて来るもんじゃないのか? そもそも社交辞令も入ってたんだし……。ネッドの頭は混乱しきりとなった。
「客を名乗る割に、土産の一つも持って来ないくせに……。
リュラン、まぁ、お前はそういう奴だったよな。こっちへ来て三カ月。すっかり忘れてたよ」
諦め顔のネッドが、一人掛けソファの背に手を伸ばす。
「ちょっと待って、お兄ちゃん」
何か悪い予感。ネッドの兄としての本能が強く囁きかける。
「手ぶらみたいだけど、結界杭はちゃんと回収したの?」
シャミーが、疑いの目をネッドに向けた。
「結界杭?」
「そうよ。メル姉とアリシアが決闘するって言ったから、ちょうどいい実験になると思って持って行かせたの」
「あ、そうか! 林の広場に張ってあった結界、あれは結界杭のものだったのか」
ネッドは、忘れていた”何か”を思い出す。
「まさか、回収して来なかったんじゃないでしょうね……」
ネッドの言葉に、シャミーの声がワントーン下がった。
「……う、うっかりしてたなぁ。明日の朝にでも、取りに行ってくるよ」
ソファーに座ろうとするネッド。
「はい、座らない!
お兄ちゃん、なに言ってんのよ。明日の朝まで待ってたら、夜旅をかける人や、そうでなくても動物かなんかに、持って行かれるかも知れないでしょ?
今すぐ、取りに行く!」
シャミーの激が飛ぶ。
「今すぐ?」
「今すぐ!」
恐る恐る尋ねるネッドに、シャミーはピシャリと言い放った。
「ほれ、商品を疎かにしたら職人失格だぞ。サッサと言って来い」
相変わらずくつろいでクッキーを頬張るリュランが、シャミーの後押しをする。ネッドは二人に向かってあからさまに歯をギリギリとさせつつも、黙って踵を返し再び店のドアを通りぬけた。
林の広場まで戻ったネッドは、またしてもミスに気づく。その時、辺りはすっかり暗くなり、空には早くも星が瞬いていた。これでは杭が何処にあるか、見つけるのは難しい。だが今から携帯照明を取りに帰っていたら、あの二人にまた何を言われるかわからない。
「はぁ~」
ネッドは諦めて、スキル”研ぎ澄まされた勘”を使って、結界杭を回収した。芸は身を助けるである。
「ただいまぁ」
やっとの思いで目的を果たしたネッドが、我が家へ二度目の帰還を果たした。杭を工房の作業台へ置き、今度こそゆっくりと休むために居間へと向かう。だが、ネッドはまたもや奇怪な光景を目にする事となった。
こちらは予想通り、早くもお小言の予兆が見えている。だが、居間にはもう一人……。
「よぉ、ネッド、遅いぞ。店主が店をほったらかしにして、遊び歩いてちゃいかんよなぁ」
果たしてそこには、ソファに寝そべり、クッキーをバリバリと食べるリュランがいた。
「お、お前、何でここに居るんだよ!」
ネッドは、思いもよらない訪問者に面食らう。
「はぁ? お前、さっき”時間を見て店に来い”って言ったじゃんか」
ネッドが、ポカンと口を開ける。
……あぁ、言ったさ。確かに言った。
まぁ、リュランとシャミーは僕の騎士時代から知らぬ仲ではないから、家に入れるのは良しとしよう。だけど普通は、明日以降に土産の一つでも携えて来るもんじゃないのか? そもそも社交辞令も入ってたんだし……。ネッドの頭は混乱しきりとなった。
「客を名乗る割に、土産の一つも持って来ないくせに……。
リュラン、まぁ、お前はそういう奴だったよな。こっちへ来て三カ月。すっかり忘れてたよ」
諦め顔のネッドが、一人掛けソファの背に手を伸ばす。
「ちょっと待って、お兄ちゃん」
何か悪い予感。ネッドの兄としての本能が強く囁きかける。
「手ぶらみたいだけど、結界杭はちゃんと回収したの?」
シャミーが、疑いの目をネッドに向けた。
「結界杭?」
「そうよ。メル姉とアリシアが決闘するって言ったから、ちょうどいい実験になると思って持って行かせたの」
「あ、そうか! 林の広場に張ってあった結界、あれは結界杭のものだったのか」
ネッドは、忘れていた”何か”を思い出す。
「まさか、回収して来なかったんじゃないでしょうね……」
ネッドの言葉に、シャミーの声がワントーン下がった。
「……う、うっかりしてたなぁ。明日の朝にでも、取りに行ってくるよ」
ソファーに座ろうとするネッド。
「はい、座らない!
お兄ちゃん、なに言ってんのよ。明日の朝まで待ってたら、夜旅をかける人や、そうでなくても動物かなんかに、持って行かれるかも知れないでしょ?
今すぐ、取りに行く!」
シャミーの激が飛ぶ。
「今すぐ?」
「今すぐ!」
恐る恐る尋ねるネッドに、シャミーはピシャリと言い放った。
「ほれ、商品を疎かにしたら職人失格だぞ。サッサと言って来い」
相変わらずくつろいでクッキーを頬張るリュランが、シャミーの後押しをする。ネッドは二人に向かってあからさまに歯をギリギリとさせつつも、黙って踵を返し再び店のドアを通りぬけた。
林の広場まで戻ったネッドは、またしてもミスに気づく。その時、辺りはすっかり暗くなり、空には早くも星が瞬いていた。これでは杭が何処にあるか、見つけるのは難しい。だが今から携帯照明を取りに帰っていたら、あの二人にまた何を言われるかわからない。
「はぁ~」
ネッドは諦めて、スキル”研ぎ澄まされた勘”を使って、結界杭を回収した。芸は身を助けるである。
「ただいまぁ」
やっとの思いで目的を果たしたネッドが、我が家へ二度目の帰還を果たした。杭を工房の作業台へ置き、今度こそゆっくりと休むために居間へと向かう。だが、ネッドはまたもや奇怪な光景を目にする事となった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

ゴブリンに棍棒で頭を殴られた蛇モンスターは前世の記憶を取り戻す。すぐ死ぬのも癪なので頑張ってたら何か大変な事になったっぽい
竹井ゴールド
ファンタジー
ゴブリンに攻撃された哀れな蛇モンスターのこのオレは、ダメージのショックで蛇生辰巳だった時の前世の記憶を取り戻す。
あれ、オレ、いつ死んだんだ?
別にトラックにひかれてないんだけど?
普通に眠っただけだよな?
ってか、モンスターに転生って?
それも蛇って。
オレ、前世で何にも悪い事してないでしょ。
そもそも高校生だったんだから。
断固やり直しを要求するっ!
モンスターに転生するにしても、せめて悪魔とか魔神といった人型にしてくれよな〜。
蛇って。
あ〜あ、テンションがダダ下がりなんだけど〜。
ってか、さっきからこのゴブリン、攻撃しやがって。
オレは何もしてないだろうが。
とりあえずおまえは倒すぞ。
ってな感じで、すぐに死ぬのも癪だから頑張ったら、どんどん大変な事になっていき・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる