騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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招かれざる客

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「あぁ、お兄ちゃん、お帰りなさい。”ずいぶんと”遅かったわねぇ」

こちらは予想通り、早くもお小言の予兆が見えている。だが、居間にはもう一人……。

「よぉ、ネッド、遅いぞ。店主が店をほったらかしにして、遊び歩いてちゃいかんよなぁ」

果たしてそこには、ソファに寝そべり、クッキーをバリバリと食べるリュランがいた。

「お、お前、何でここに居るんだよ!」

ネッドは、思いもよらない訪問者に面食らう。

「はぁ? お前、さっき”時間を見て店に来い”って言ったじゃんか」

ネッドが、ポカンと口を開ける。

……あぁ、言ったさ。確かに言った。

まぁ、リュランとシャミーは僕の騎士時代から知らぬ仲ではないから、家に入れるのは良しとしよう。だけど普通は、明日以降に土産の一つでも携えて来るもんじゃないのか? そもそも社交辞令も入ってたんだし……。ネッドの頭は混乱しきりとなった。

「客を名乗る割に、土産の一つも持って来ないくせに……。

リュラン、まぁ、お前はそういう奴だったよな。こっちへ来て三カ月。すっかり忘れてたよ」

諦め顔のネッドが、一人掛けソファの背に手を伸ばす。

「ちょっと待って、お兄ちゃん」

何か悪い予感。ネッドの兄としての本能が強く囁きかける。

「手ぶらみたいだけど、結界杭はちゃんと回収したの?」

シャミーが、疑いの目をネッドに向けた。

「結界杭?」

「そうよ。メル姉とアリシアが決闘するって言ったから、ちょうどいい実験になると思って持って行かせたの」

「あ、そうか! 林の広場に張ってあった結界、あれは結界杭のものだったのか」

ネッドは、忘れていた”何か”を思い出す。

「まさか、回収して来なかったんじゃないでしょうね……」

ネッドの言葉に、シャミーの声がワントーン下がった。

「……う、うっかりしてたなぁ。明日の朝にでも、取りに行ってくるよ」

ソファーに座ろうとするネッド。

「はい、座らない! 

お兄ちゃん、なに言ってんのよ。明日の朝まで待ってたら、夜旅をかける人や、そうでなくても動物かなんかに、持って行かれるかも知れないでしょ?

今すぐ、取りに行く!」

シャミーの激が飛ぶ。

「今すぐ?」

「今すぐ!」

恐る恐る尋ねるネッドに、シャミーはピシャリと言い放った。

「ほれ、商品を疎かにしたら職人失格だぞ。サッサと言って来い」

相変わらずくつろいでクッキーを頬張るリュランが、シャミーの後押しをする。ネッドは二人に向かってあからさまに歯をギリギリとさせつつも、黙って踵を返し再び店のドアを通りぬけた。

林の広場まで戻ったネッドは、またしてもミスに気づく。その時、辺りはすっかり暗くなり、空には早くも星が瞬いていた。これでは杭が何処にあるか、見つけるのは難しい。だが今から携帯照明を取りに帰っていたら、あの二人にまた何を言われるかわからない。

「はぁ~」

ネッドは諦めて、スキル”研ぎ澄まされた勘”を使って、結界杭を回収した。芸は身を助けるである。

「ただいまぁ」

やっとの思いで目的を果たしたネッドが、我が家へ二度目の帰還を果たした。杭を工房の作業台へ置き、今度こそゆっくりと休むために居間へと向かう。だが、ネッドはまたもや奇怪な光景を目にする事となった。
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