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魔王の心配
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「えぇっと……、どうと申されましても……」
何とも答えようのないネッド。
「ほれ、如何に魔王の娘とはいえ、使い魔となったからには戦闘や冒険の手伝いばかりではなく、”あんな事”とか”こんな事”だって命じていいんじゃぞ。そなたも若いんだから、色々とあるだろうて。
ワシとて、若年のみぎりは色々楽しんだからの。魔王の娘だからといって、何も遠慮する必要はないぞ」
父親がそれを言うか――っ!?
ネッドは激しくそう思ったが心の中にしまい込み、ひきつった笑いで魔王の戯言をかわした。
「もう、パパ、何言っていますの。ネッドは真面目なんだから、からかわないでちょうだい!」
ワインを飲んで、ちょっぴり頬を赤らめたアリシアが父親をたしなめる。
「だがな、そうはいっても、親としては気になる所なんじゃ」
愛娘に怒られて、シュンとなる魔王。
「ところでアリシア。侍女長の話によると、あなたボロボロの格好で帰って来たらしいじゃない。何をやっていたんですの」
妃が話題を変え、場を取り成した。
「そうそう、それですわ。さっき、いきなり”私はネッドの婚約者だ”っていう女が彼の店に乗り込んできて、大変だったんですの」
アリシアが、ステーキを頬張りながら報告する。
「なんと!ネッド殿、アリシアという者がありながら、もう浮気をしているのかね!?」
魔王の目つきがサッと変わる。ネッドは思わず、肉をのどに詰まらせそうになった。
「いえ、違うのよパパ。ほんの子供の頃にした約束を、未だに持ち出す従姉のヘンテコリンな娘がいてね。あんまり腹が立ったんで、一戦交えてきましたわ!」
「なに!? 」
魔王と妃は驚き、互いに顔を見合わせた。
親の欲目を差し引いても、アリシアは北の魔界屈指の使い手といってよい。たとえば先ほどの近衛隊長グゴガイン。彼は北の魔界四天王が一人と呼ばれる存在だが、今や三本に一本はアリシアにとられる始末である。そのアリシアを、ボロボロに出来る娘とは一体……。
「で、もちろん殺したりはしてないだろうな……?」
魔王が恐る恐る尋ねる。魔王の娘が人間の一人や二人殺してもどうという事はないという認識だが、ネッドの従姉ともなれば話は別である。彼との結婚が、破談になりかねないからだ。
「と、当然よ。彼女のプライドをズタズタにするのも気の毒なんで、手を抜いて引き分けって事にしてあげましたわ」
残りのワインをグッとひとのみにするアリシア。だが魔王と妃は、彼女の鼻の穴が僅かに広がるのを見逃さなかった。アリシアが嘘をつく時のクセは、子供の時から変わっていない。つまり本当は、互角の勝負だったという事になる。
「あ、ダークエルフのハーフなんですよ、僕の従姉」
場の緊張を咄嗟に感じたネッドがフォローを入れる。
「なんと! そなたの従姉はハーフダークエルフなのか。となると伯父御か伯母御のどちらかが、ダークエルフという事になるな」
当り前の事をいうような魔王だが、これには妃も驚いた。ダークエルフと言えば未だに悪魔の天敵であり、侮りがたい存在である。そんな者が親戚にいるなんて……。魔王夫婦のネッドを見る目が、明らかに一段階上がった。
それから小一時間、何ともこそばゆいような歓談が続き、食事会はお開きとなる。魔王にもてなしの礼をする壇になった時も”あとは若い二人で……ふっ、ふっ、ふっ”という、これまた、定番のセリフが付いたのは言うまでもない。
その後、若い二人は先ほどの廊下に舞い戻っていた。
「じゃぁ、アリシア。逆召喚の魔方陣を出して」
ネッドが言う。
「え~、もう帰っちゃうんですの? これから私の部屋でぇ、あんな事とかぁ、こんな事とかぁ………」
何とも答えようのないネッド。
「ほれ、如何に魔王の娘とはいえ、使い魔となったからには戦闘や冒険の手伝いばかりではなく、”あんな事”とか”こんな事”だって命じていいんじゃぞ。そなたも若いんだから、色々とあるだろうて。
ワシとて、若年のみぎりは色々楽しんだからの。魔王の娘だからといって、何も遠慮する必要はないぞ」
父親がそれを言うか――っ!?
ネッドは激しくそう思ったが心の中にしまい込み、ひきつった笑いで魔王の戯言をかわした。
「もう、パパ、何言っていますの。ネッドは真面目なんだから、からかわないでちょうだい!」
ワインを飲んで、ちょっぴり頬を赤らめたアリシアが父親をたしなめる。
「だがな、そうはいっても、親としては気になる所なんじゃ」
愛娘に怒られて、シュンとなる魔王。
「ところでアリシア。侍女長の話によると、あなたボロボロの格好で帰って来たらしいじゃない。何をやっていたんですの」
妃が話題を変え、場を取り成した。
「そうそう、それですわ。さっき、いきなり”私はネッドの婚約者だ”っていう女が彼の店に乗り込んできて、大変だったんですの」
アリシアが、ステーキを頬張りながら報告する。
「なんと!ネッド殿、アリシアという者がありながら、もう浮気をしているのかね!?」
魔王の目つきがサッと変わる。ネッドは思わず、肉をのどに詰まらせそうになった。
「いえ、違うのよパパ。ほんの子供の頃にした約束を、未だに持ち出す従姉のヘンテコリンな娘がいてね。あんまり腹が立ったんで、一戦交えてきましたわ!」
「なに!? 」
魔王と妃は驚き、互いに顔を見合わせた。
親の欲目を差し引いても、アリシアは北の魔界屈指の使い手といってよい。たとえば先ほどの近衛隊長グゴガイン。彼は北の魔界四天王が一人と呼ばれる存在だが、今や三本に一本はアリシアにとられる始末である。そのアリシアを、ボロボロに出来る娘とは一体……。
「で、もちろん殺したりはしてないだろうな……?」
魔王が恐る恐る尋ねる。魔王の娘が人間の一人や二人殺してもどうという事はないという認識だが、ネッドの従姉ともなれば話は別である。彼との結婚が、破談になりかねないからだ。
「と、当然よ。彼女のプライドをズタズタにするのも気の毒なんで、手を抜いて引き分けって事にしてあげましたわ」
残りのワインをグッとひとのみにするアリシア。だが魔王と妃は、彼女の鼻の穴が僅かに広がるのを見逃さなかった。アリシアが嘘をつく時のクセは、子供の時から変わっていない。つまり本当は、互角の勝負だったという事になる。
「あ、ダークエルフのハーフなんですよ、僕の従姉」
場の緊張を咄嗟に感じたネッドがフォローを入れる。
「なんと! そなたの従姉はハーフダークエルフなのか。となると伯父御か伯母御のどちらかが、ダークエルフという事になるな」
当り前の事をいうような魔王だが、これには妃も驚いた。ダークエルフと言えば未だに悪魔の天敵であり、侮りがたい存在である。そんな者が親戚にいるなんて……。魔王夫婦のネッドを見る目が、明らかに一段階上がった。
それから小一時間、何ともこそばゆいような歓談が続き、食事会はお開きとなる。魔王にもてなしの礼をする壇になった時も”あとは若い二人で……ふっ、ふっ、ふっ”という、これまた、定番のセリフが付いたのは言うまでもない。
その後、若い二人は先ほどの廊下に舞い戻っていた。
「じゃぁ、アリシア。逆召喚の魔方陣を出して」
ネッドが言う。
「え~、もう帰っちゃうんですの? これから私の部屋でぇ、あんな事とかぁ、こんな事とかぁ………」
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