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轟沈
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勝利を確信したガドッツが、剣を振りかざしてネッドへと迫りくる。普通に考えれば剣のリーチと切断効果ゆえに、彼の攻撃力は飛躍的に上がったと考えるのが妥当だろう。正に鬼に金棒状態である。
ネッドはため息を一つつくと、その独特の構えを揺らめかせ始めた。
「何だ? そん変テコな構えは!? 木っ端職人のお遊戯か?」
勝利を確信した戦士が、渾身の一撃を放つ。
「やった!」
ボッゾルが叫んだ。
しかしネッドを真っ二つにしたように見えた剣は、地面に虚しく突き刺さっているだけであった。
「ど、どこだ!?」
ガドッツが、辺りをキョロキョロと見回す。
「横だ!何やってる」
ボッゾルの助言が終るかどうかの間際、ネッドはガドッツの体の開いた左側に素早く潜り込んだ。
「野郎!」
戦士が剣を地面から引き抜こうとするが、体勢を低くしたネッドの右の掌底が、憐れな戦士のアゴを的確に捉える。
「あぁ!」
思わず声をあげた兄・ボッゾルの目の前で、信じられない情景が展開された。ネッドの上へと伸ばした右腕の先、そこには今まさに宙を舞っている弟・ガドッツの巨体があったのだ。彼の両足は今、地面から優に二メートルは離れている。ひとしきり空中を飛んだガドッツの体は、重力に従い勢いよく、そして残酷なまでに激しく地面へと叩きつけられた。
それでもタフさが自慢の戦士である。訳がわからずとも、どうにか四つん這いになり、そのまま起き上がろうともがくが、彼が立ち上がる事は二度となかった。
ネッドは膝立ちになろうとしたガドッツの後頭部めがけて再び掌底を放つ。凄まじい衝撃音と共に、前のめりになった戦士の顔面が、路地の壁にめり込んだ。
「がうっ!」
壁の中で、戦士の悲鳴があがった
「今のは、アスティの分……」
ネッドは静かにそう言うと、壁から離れようとするガドッツの後頭部を再び掌打する。またもや轟音と共に、先ほどより深く彼の顔面は壁にめり込んだ。
今度はもはや、悲鳴すら聞こえない。
「これは、伯父さんを侮辱した分」
ネッドの目が、冷たい怒りを放っている。
「はぁぁ……、き、貴様、貴様は何なんだ!」
あっけにとられるボッゾルの方へ向き直るネッド。
もっともこの兄が、茫然自失となるのも無理はない。騎士たるもの、剣や槍を使わなくても敵に対処する術は心得ている。王付きの騎士ともなれば尚更だ。しかしネッドの格闘の技は、その中でも異彩を放っていた。
「あぁ、これですか。大地の力を掌を通してブツけているだけですよ。ただ、それだけです」
これはネッドが少年の頃、異国の旅人に数年間、手ほどきを受けた特別な拳法であった。ただし、威力がここまで大きいのには、ネッドの機能付加職人としての才が大きく関わっている。
「さぁ、あなたはどうしますか? 弟さんを介抱した方が、良いと思いますが」
「ふ、ふざけるな! ここまで弟をいたぶられておいて、黙って引き下がれるか!!」
想定外中の想定外の結果を目の当たりにし、ボッゾルの顔は怒りと恐怖に満ち満ちていった。彼は右手に携えていた魔杖を、ネッドの方へと勢いよく突きだす。
「覚悟しろ! 王宮魔法使いの前では、お前なんぞ無力に等しい事を教えてやる!」
ネッドはため息を一つつくと、その独特の構えを揺らめかせ始めた。
「何だ? そん変テコな構えは!? 木っ端職人のお遊戯か?」
勝利を確信した戦士が、渾身の一撃を放つ。
「やった!」
ボッゾルが叫んだ。
しかしネッドを真っ二つにしたように見えた剣は、地面に虚しく突き刺さっているだけであった。
「ど、どこだ!?」
ガドッツが、辺りをキョロキョロと見回す。
「横だ!何やってる」
ボッゾルの助言が終るかどうかの間際、ネッドはガドッツの体の開いた左側に素早く潜り込んだ。
「野郎!」
戦士が剣を地面から引き抜こうとするが、体勢を低くしたネッドの右の掌底が、憐れな戦士のアゴを的確に捉える。
「あぁ!」
思わず声をあげた兄・ボッゾルの目の前で、信じられない情景が展開された。ネッドの上へと伸ばした右腕の先、そこには今まさに宙を舞っている弟・ガドッツの巨体があったのだ。彼の両足は今、地面から優に二メートルは離れている。ひとしきり空中を飛んだガドッツの体は、重力に従い勢いよく、そして残酷なまでに激しく地面へと叩きつけられた。
それでもタフさが自慢の戦士である。訳がわからずとも、どうにか四つん這いになり、そのまま起き上がろうともがくが、彼が立ち上がる事は二度となかった。
ネッドは膝立ちになろうとしたガドッツの後頭部めがけて再び掌底を放つ。凄まじい衝撃音と共に、前のめりになった戦士の顔面が、路地の壁にめり込んだ。
「がうっ!」
壁の中で、戦士の悲鳴があがった
「今のは、アスティの分……」
ネッドは静かにそう言うと、壁から離れようとするガドッツの後頭部を再び掌打する。またもや轟音と共に、先ほどより深く彼の顔面は壁にめり込んだ。
今度はもはや、悲鳴すら聞こえない。
「これは、伯父さんを侮辱した分」
ネッドの目が、冷たい怒りを放っている。
「はぁぁ……、き、貴様、貴様は何なんだ!」
あっけにとられるボッゾルの方へ向き直るネッド。
もっともこの兄が、茫然自失となるのも無理はない。騎士たるもの、剣や槍を使わなくても敵に対処する術は心得ている。王付きの騎士ともなれば尚更だ。しかしネッドの格闘の技は、その中でも異彩を放っていた。
「あぁ、これですか。大地の力を掌を通してブツけているだけですよ。ただ、それだけです」
これはネッドが少年の頃、異国の旅人に数年間、手ほどきを受けた特別な拳法であった。ただし、威力がここまで大きいのには、ネッドの機能付加職人としての才が大きく関わっている。
「さぁ、あなたはどうしますか? 弟さんを介抱した方が、良いと思いますが」
「ふ、ふざけるな! ここまで弟をいたぶられておいて、黙って引き下がれるか!!」
想定外中の想定外の結果を目の当たりにし、ボッゾルの顔は怒りと恐怖に満ち満ちていった。彼は右手に携えていた魔杖を、ネッドの方へと勢いよく突きだす。
「覚悟しろ! 王宮魔法使いの前では、お前なんぞ無力に等しい事を教えてやる!」
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