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「じゃぁ、今度は本気で行くぜ!」
ガドッツが第二波の猛攻を仕掛ける。先ほど以上の轟音が鳴り響き、壁が壊れたばかりでなく、衝撃で近くに置いてあった荷箱の山が崩れ落ちた。
「な、てめぇ。チョコマカと逃げてんじゃねぇ!」
頭に血がのぼったガドッツが、更に横へと移動していたネッドに突進する。そして猛攻に次ぐ猛攻。両腕が大きくうなりをあげ、ネッドを捉えようとするが、それは虚しく空を切った。
だがそれも当り前の話である。仮にも王付きの親衛隊騎士を務めていたネッドから見れば、ガドッツは、只の荒くれ者以下の存在だ。むしろこんなパンチに当たっていたら、即、騎士廃業は間違いない。
「なんだ、なんで当たらねぇんだ!」
早くも額の大汗をぬぐうガドッツ。
「どうしました?お仕置きをするんじゃないんですか?」
華麗に攻撃を避け続けるネッドの皮肉に、ガドッツの苛立ちと怒りは頂点に達する。
「ガドッツ! 何をやってるんだ」
しびれを切らしたボッゾルが叫んだ。
「ガッ~ッ!だったら、これでどうだ!!」
憤怒の塊と化したガドッツは、パンチのラッシュで再びネッドを袋小路に追い込んでいった。しかしネッドは、何か楽しむように口元を緩める。
「てめぇ、ニタニタしてんじゃねぇ!」
猛り狂った準A級の戦士がその巨体を生かし、目の前の機能付加職人に重量級のタックルをブチかます。
「よし!」
ボッゾルが弟の勝利を確信した時、これまでで最も大きい轟音が鳴り響き、行き止まりの壁が崩れ落ちた。その余波で、辺りは粉塵により何も見えなくなる。
「お、おい、ガドッツ。殺してないだろうな。面倒事は出来るだけ避けてくれよ」
歓喜の声をあげたものの、ボッゾルが塵舞う中の弟に尋ねた。
「えぇ、殺してませんよ。こんな輩でも殺してしまったら、伯父さんに大変な迷惑が掛かる」
塵の煙が晴れいく中、うつ伏せに倒れた無様な巨体戦士を前に立つネッドが冷たく微笑んだ。
「お、お前なんで!?」
魔法使いの兄の声が僅かに震えた。
《俺は俺じゃない。俺はお前だ》
顔から少しずつ表情が失せていくネッド・ライザーの心に冷たい声が響く。
「さぁ、あなたはどうします。弟さんを引き取って失せますか?」
「はぁ~? 君は何か勘違いをしているようですね。それでもう、勝ったつもりですか?」
ボッゾルが不敵な笑みを浮かべたのを合図とばかり、ネッドの後ろに巨大な影が揺らめき立った。ネッドの脚が反射的に素早く動く。次の瞬間、彼がそれまで立っていた地面が大きくひび割れた。
路地の側面の壁を背に、構えをとるネッド。それまで突き当りの壁が存在していた場所には、剣を抜きそれを地面に突きたてたガドッツの巨体があった。
「ウチの弟はね。頭の回転は今一つなんですが、比類なきタフさを持っているんですよ。そこらのトロルと殴り合えるほどにね」
ボッゾルが声を出して笑う。
成程ね。ネッドの唇が僅かに動く。パワーはあるものの、あれだけお粗末な攻撃しか出来ないこの男が、準A級にランキングされている事を不思議に思っていたネッドだが、これで得心がいったようである
「ぶっ殺す! 半殺し程度じゃ、俺の気が狂っちまうよ。いいだろ、兄貴!?」
憤怒の形相をしたガドッツが兄に懇願した。
「仕方がないなぁ。まぁ、いいよ。可愛い弟のためだものさ。何、死骸は私が魔法で灰塵になるまで燃やし尽くしてあげますよ」
「だから、兄貴の事、大好きさ!」
悪辣兄弟のおぞましい会話を、眉一つ動かさずに聞いていたネッドの心にまた声が響く。
《いいのかい? あんな事を言わせておいて》
ガドッツが第二波の猛攻を仕掛ける。先ほど以上の轟音が鳴り響き、壁が壊れたばかりでなく、衝撃で近くに置いてあった荷箱の山が崩れ落ちた。
「な、てめぇ。チョコマカと逃げてんじゃねぇ!」
頭に血がのぼったガドッツが、更に横へと移動していたネッドに突進する。そして猛攻に次ぐ猛攻。両腕が大きくうなりをあげ、ネッドを捉えようとするが、それは虚しく空を切った。
だがそれも当り前の話である。仮にも王付きの親衛隊騎士を務めていたネッドから見れば、ガドッツは、只の荒くれ者以下の存在だ。むしろこんなパンチに当たっていたら、即、騎士廃業は間違いない。
「なんだ、なんで当たらねぇんだ!」
早くも額の大汗をぬぐうガドッツ。
「どうしました?お仕置きをするんじゃないんですか?」
華麗に攻撃を避け続けるネッドの皮肉に、ガドッツの苛立ちと怒りは頂点に達する。
「ガドッツ! 何をやってるんだ」
しびれを切らしたボッゾルが叫んだ。
「ガッ~ッ!だったら、これでどうだ!!」
憤怒の塊と化したガドッツは、パンチのラッシュで再びネッドを袋小路に追い込んでいった。しかしネッドは、何か楽しむように口元を緩める。
「てめぇ、ニタニタしてんじゃねぇ!」
猛り狂った準A級の戦士がその巨体を生かし、目の前の機能付加職人に重量級のタックルをブチかます。
「よし!」
ボッゾルが弟の勝利を確信した時、これまでで最も大きい轟音が鳴り響き、行き止まりの壁が崩れ落ちた。その余波で、辺りは粉塵により何も見えなくなる。
「お、おい、ガドッツ。殺してないだろうな。面倒事は出来るだけ避けてくれよ」
歓喜の声をあげたものの、ボッゾルが塵舞う中の弟に尋ねた。
「えぇ、殺してませんよ。こんな輩でも殺してしまったら、伯父さんに大変な迷惑が掛かる」
塵の煙が晴れいく中、うつ伏せに倒れた無様な巨体戦士を前に立つネッドが冷たく微笑んだ。
「お、お前なんで!?」
魔法使いの兄の声が僅かに震えた。
《俺は俺じゃない。俺はお前だ》
顔から少しずつ表情が失せていくネッド・ライザーの心に冷たい声が響く。
「さぁ、あなたはどうします。弟さんを引き取って失せますか?」
「はぁ~? 君は何か勘違いをしているようですね。それでもう、勝ったつもりですか?」
ボッゾルが不敵な笑みを浮かべたのを合図とばかり、ネッドの後ろに巨大な影が揺らめき立った。ネッドの脚が反射的に素早く動く。次の瞬間、彼がそれまで立っていた地面が大きくひび割れた。
路地の側面の壁を背に、構えをとるネッド。それまで突き当りの壁が存在していた場所には、剣を抜きそれを地面に突きたてたガドッツの巨体があった。
「ウチの弟はね。頭の回転は今一つなんですが、比類なきタフさを持っているんですよ。そこらのトロルと殴り合えるほどにね」
ボッゾルが声を出して笑う。
成程ね。ネッドの唇が僅かに動く。パワーはあるものの、あれだけお粗末な攻撃しか出来ないこの男が、準A級にランキングされている事を不思議に思っていたネッドだが、これで得心がいったようである
「ぶっ殺す! 半殺し程度じゃ、俺の気が狂っちまうよ。いいだろ、兄貴!?」
憤怒の形相をしたガドッツが兄に懇願した。
「仕方がないなぁ。まぁ、いいよ。可愛い弟のためだものさ。何、死骸は私が魔法で灰塵になるまで燃やし尽くしてあげますよ」
「だから、兄貴の事、大好きさ!」
悪辣兄弟のおぞましい会話を、眉一つ動かさずに聞いていたネッドの心にまた声が響く。
《いいのかい? あんな事を言わせておいて》
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