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凶戦士
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「そいつはな、俺の兄貴が、王宮魔法使いに召し抱えられたからなんだ。わかるか? 王宮魔法使い。この国のエリート中のエリ―トって事なんだぞ」
ネッドはガドッツの後方に控える兄へと視線を向ける。
おかしいな。僕が王宮に居た頃、あんな奴はいなかった。という事は、自分が王都を去ってから三カ月の間に任命されたって事か……。ネッドは目の前にいる、”如何にも魔法使い”といった出で立ちの男を繁々と見つめる。
今どきこんな格好をする魔法使いなんて、滅多にいやしない。いるとしたら、それはお祭りの時に見かけるコスプレイヤーぐらいだろう。
「どうだ! グウの根も出ねぇだろ? 王宮魔法使い様に比べりゃぁ、こんなチンケな街のギルマスなんてクズみたいなもんよ。俺が恐れる事なんて、丸っきりありゃあしねぇ」
ネッドの不信そうな顔を見て、ガドッツは更に調子づいた。
しかし、やっぱりおかしい。ネッドは考える。王宮魔法使いの総元締めを務める男は、ネッドの知る限り決して忖度しない立派な人間だ。縁故のみや賄賂での採用なんてありえないし、ましてや中途でこんな男を雇うはずがない。
「そういうわけだよ、下賤な職人君。君には頼れる味方なんてものは、もうどこにもいない。一人として君を助けられる人間なんて存在しないんですよ」
ガドッツの後ろに立つ兄・ボッゾルが、厭味ったらしい笑みを浮かべた。
「じゃぁ、てめぇが目出度く絶望したところで、さっきの礼をタップリさせてもらうとするか」
ガドッツが目をギラギラと光らせながら、拳をボキボキと鳴らす。
「おい、一応、殺すなよ」
「わかってるって。こんなスカンピンに準A級冒険者の俺様の剣なんて勿体ねぇ。素手で十分だ。まぁ、それでも半殺し程度にはしないと、俺の気は収まらねぇけどな!」
ジリジリとネッドに迫るガドッツ。
「それじゃぁ、お仕置きの始まりだ―っ!」
そう叫ぶと同時に、ガドッツは憐れな獲物をいたぶる猟犬のように、ネッドへ突進していった。
「一発目!!」
大柄な戦士のクマのよう右拳が、ネッドの顔面に向かって飛んでいく。次の瞬間、壁に物がぶつかる凄まじい音がした。だが音の元凶は、攻撃を仕掛けたはずのガドッツであった。
「ちっ! 余りに嬉しくて、手元が狂っちまったか。運が良かったな」
筋肉の塊のような戦士が振り返る。後ろの壁には、大きな窪みがついていた。それはガドッツの拳の威力を物語る。救いようのない卑劣な性格だが、破壊力とは関係がない。
「なぁ、クサレ職人君よ。私が思うに、今の一撃を避けない方が良かったんじゃないのかい。あの壁の跡を見た後じゃ、絶望が倍増するだけだと思うがね」
兄のボッゾルが、慇懃無礼な口調で残酷なアドバイスを送る。
しかしこの兄弟は、ともに勘違いをしていた。何故ならガドッツの狙いは、かなり的確だったからである。ネッドがそれを最小限の動きで避けた事に、彼らは気づいていない。
それにネッドは、ガドッツの攻撃に少し違和感を覚えた。確かに破壊力はある。でも、ガサツ極まりない攻撃だ。これでランクが準A級とはどういう事だろうか。伯父さんは、こんないい加減なランク付けを決してしない人なのに。
「おら、何だ? 恐怖で泣き声すら出せねぇか!」
路地の側面近くで、静かに考えを巡らすネッドにガドッツが悪態をつく。
ネッドはガドッツの後方に控える兄へと視線を向ける。
おかしいな。僕が王宮に居た頃、あんな奴はいなかった。という事は、自分が王都を去ってから三カ月の間に任命されたって事か……。ネッドは目の前にいる、”如何にも魔法使い”といった出で立ちの男を繁々と見つめる。
今どきこんな格好をする魔法使いなんて、滅多にいやしない。いるとしたら、それはお祭りの時に見かけるコスプレイヤーぐらいだろう。
「どうだ! グウの根も出ねぇだろ? 王宮魔法使い様に比べりゃぁ、こんなチンケな街のギルマスなんてクズみたいなもんよ。俺が恐れる事なんて、丸っきりありゃあしねぇ」
ネッドの不信そうな顔を見て、ガドッツは更に調子づいた。
しかし、やっぱりおかしい。ネッドは考える。王宮魔法使いの総元締めを務める男は、ネッドの知る限り決して忖度しない立派な人間だ。縁故のみや賄賂での採用なんてありえないし、ましてや中途でこんな男を雇うはずがない。
「そういうわけだよ、下賤な職人君。君には頼れる味方なんてものは、もうどこにもいない。一人として君を助けられる人間なんて存在しないんですよ」
ガドッツの後ろに立つ兄・ボッゾルが、厭味ったらしい笑みを浮かべた。
「じゃぁ、てめぇが目出度く絶望したところで、さっきの礼をタップリさせてもらうとするか」
ガドッツが目をギラギラと光らせながら、拳をボキボキと鳴らす。
「おい、一応、殺すなよ」
「わかってるって。こんなスカンピンに準A級冒険者の俺様の剣なんて勿体ねぇ。素手で十分だ。まぁ、それでも半殺し程度にはしないと、俺の気は収まらねぇけどな!」
ジリジリとネッドに迫るガドッツ。
「それじゃぁ、お仕置きの始まりだ―っ!」
そう叫ぶと同時に、ガドッツは憐れな獲物をいたぶる猟犬のように、ネッドへ突進していった。
「一発目!!」
大柄な戦士のクマのよう右拳が、ネッドの顔面に向かって飛んでいく。次の瞬間、壁に物がぶつかる凄まじい音がした。だが音の元凶は、攻撃を仕掛けたはずのガドッツであった。
「ちっ! 余りに嬉しくて、手元が狂っちまったか。運が良かったな」
筋肉の塊のような戦士が振り返る。後ろの壁には、大きな窪みがついていた。それはガドッツの拳の威力を物語る。救いようのない卑劣な性格だが、破壊力とは関係がない。
「なぁ、クサレ職人君よ。私が思うに、今の一撃を避けない方が良かったんじゃないのかい。あの壁の跡を見た後じゃ、絶望が倍増するだけだと思うがね」
兄のボッゾルが、慇懃無礼な口調で残酷なアドバイスを送る。
しかしこの兄弟は、ともに勘違いをしていた。何故ならガドッツの狙いは、かなり的確だったからである。ネッドがそれを最小限の動きで避けた事に、彼らは気づいていない。
それにネッドは、ガドッツの攻撃に少し違和感を覚えた。確かに破壊力はある。でも、ガサツ極まりない攻撃だ。これでランクが準A級とはどういう事だろうか。伯父さんは、こんないい加減なランク付けを決してしない人なのに。
「おら、何だ? 恐怖で泣き声すら出せねぇか!」
路地の側面近くで、静かに考えを巡らすネッドにガドッツが悪態をつく。
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