騎士をやめて機能付加職人になったけど、妹が厳しすぎて困ります 【第一部 ホントウ】

藻ノかたり

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路地裏

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驚いて、声のする方を振り返ったネッドが見たものは、ガドッツより少し背の低い男に拘束されているアスティだった。

「アスティ!」

思わずネッドが口走る。ガドッツともう一人の男の口角が上がり、ニヤニヤといやらしい笑い顔を醸し出した。

「なんで、アスティがここに居るんですか? 彼に何の用が!」

再びガドッツの方を向き直ったネッドが、怒りの表情をもって問いただす。

「バカか? お前とゆっくり話をするために、決まってるだろうが」

凶悪な戦士が、いかにも面倒くさそうに吐き捨てた

「彼を、彼を離してください! アスティは関係ないでしょう?」

「おぉ、優等生ぶった奴が、いい顔つきになって来たじゃねぇか。化けの皮が、剥がれて来ったところだな」

「いいから、彼を離してください」

「もちろんさ。俺たちが用のあるのはそこの木っ端職人じゃない。てめぇだからよ……。わかったら、大人しくついて来てもらおうか」

友人を気遣う言葉を繰り返すネッドに、ガドッツは嫌味たっぷりの猫なで声で返答する。ネッドの答えを聞こうともせず、地の裏へと踵を返すガドッツ。ネッドは仕方なしに、彼の後へとついていった。

《俺は、俺じゃない》

ネッドの頭、いや心に何処からか声が響く。

「ネッド……、僕は……」

アスティがすまさそうに、友人に声をかけた。

「平気かい、アスティ」

ネッドも又、すまなそうに友人に声をかける。彼は明らかに巻き添えだ。どうしようもない事とはいえ、ネッドの心に懺悔の念が芽生えていく。

「ほら、てめぇは、もう用済みだ。さっさと消えろ。……あと、わかってんだろうがよ。何処かへ駆け込んだりしたら、後でどうなるか覚悟しといた方がいいぞ」

もう一人の男の拘束から放たれた憐れな職人に対し、ガドッツが目も合わさず恫喝をする。

「ネッド……」

「大丈夫、僕のためにすまない。君はこのまま帰ってくれ……。本当に、大丈夫だから」

心配そうに友人の目を見るアスティへ、ネッドは悪党どもに対する怒りを無理矢理抑えて微笑んだ。

「ご、ごめん……!」

後ろ髪を引かれる思いを抱きつつ、アスティは路地の外へと駆け出していく。

「じゃぁ、感動的なお別れは済んだみてぇだからよ。さっさと、こっちへ来てもらおうか」

ガドッツが先導し、二人組はネッドを路地の突き当りの壁へといざなった。もう、逃げ場はどこにもない。

「さぁ、これで満足でしょう? 話を始めてくれませんか」

「フン、聞きしに勝る太々しさだな」

少し険を含んだネッドの言葉に、ガドッツの横にいる男が反応した。

「だろう、兄貴よ」

薄笑いを浮かべながら、ガドッツが応える。

「あぁ、申し遅れたね。クソ生意気なゲス職人君。私はガドッツの兄で、ボッゾルという者だ。弟が理不尽な目に遭ったって聞いてね。私も兄として、見過ごすわけには行かないんだよ。

まぁ、こういう状況になれば、これからどういう事態になるかは、如何に無能な職人であろうともわかっているだろう?」

ボッゾルが、慇懃無礼な口調で話しかける。

「へっ、恐怖で口も聞けねぇか、情けねぇ。やっぱりギルマスの威を借りねぇと、何もできない半端野郎みてぇだな」

路地裏に、ガドッツの高笑いが轟く。

《俺は、お前だ》

再び、ネッドの心に声が響いた。

「断っとくがな、さっきみたいにギルマスの威光は通じねぇよ。あとで言いつけても、何の役にも立たねぇからな。フン、何故だと思う?」

ガドッツの得意顔が、頂点に達する。
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