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悲劇の続き
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「それで今の侯爵様が、今度の探索の責任者になる話なんだがな。漏れ聞くところによると、あの時、マリオンが犠牲になってくれなかったら、今の自分はなかった。だからポーナイザルの災難と聞きつけ、何とか恩返しが出来ないかと考えて、今回の指揮を執る事になったらしい」
四十年も前の事を恩義に感じて……。ゴワドン侯爵というのは、大変義理堅い人物のようだ。またネッドとしても、話を聞いた以上は無関心ではいられない。何せ、もし父が熱を出していなかったら、もし二人と一緒に出掛けて犠牲になっていたら、ネッドは生まれて来なかった事になる。
「私が何故、この話をしたかわかるか?」
欝々たるムードを振り払うかのように、ガントが問う。
「可能性は低いですが、もしかしたらゴワドン侯爵が来訪にあたって、僕の事を知り、声を掛けて来るかも知れない。その時、事情を知っていた方が都合が良いだろうって事ですね」
「あぁ、そういう事だ。ただなぁ、お前が王都で騎士をやっていた時、話しかけられる事はなかったのか?」
甥の的確な答えに満足しつつも、ガントは新たな疑問を投げかけた。
「……ないですね。騎士と執行省の間には、余り繋がりがないですから。それにライザーっていう苗字は珍しくもないですしね。これは推測ですが、子供って、苗字より名前の方を優先して覚えるでしょう?
当時の侯爵も、アルベルトという名前しか知らなかったんじゃないのかなぁ」
「そうかも知れないな。いずれにせよ、事が終るまで、一応今の話を心の隅にでも置いておいてくれ」
ガントが、話をまとめに入った。
「ところで、亡くなったマリオンのお父さんはどうなったんですか? 父がガナレットさんの話をする時、幼い日の憧れのような目をしているのと同時に、すごく悲しい目をしていたのを子供心にも覚えています」
ネッドの問いに、若干の沈黙を過ごした後、ガントは苦しそうにつぶやく。
「……死んだよ。マリオンの葬式が終って、一ヶ月くらいたった頃かな。リルゴットの森の泉に身を投げたんだ。
遺書があってな。ギルドマスターの一族として、当時スタッフ見習いだった私もそれを読んだ。
”息子の罪を知るにあたり、せめてもの償いをする。息子の魂が救われんことを切に祈る"
と書いてあったよ。短くも印象的な言葉だったから、ハッキリと憶えている」
ガントの眉間のシワが、いっそう深く刻まれた。
「情の深い、責任感のとても強い男だったよ。ゴワドン侯爵が、全てにおいて責任を問わないと言ったにもかかわらず、やはり子息を危険な目に合わせてしまった事を気に病んでいたのだろう。
当時、事情を知る者は皆”マリオンに罪はない。神父も、子供の魂は天国に召されているに違いない”と言って、一生懸命に彼を励ましたんだがな……。ガナレットは首を横に振って、只うつむくだけだった」
悲劇の連鎖に、ネッドの胸は締め付けられる。父がそんな過去を持ち、ずっと苦しんできた事など想像だにしなかった。
「話はこれで終わりだ。だからと言って、お前にどうしてくれというわけではないんだが、話すのにいい機会だと思ってな」
ガントはは少し、後ろめたいような顔をした。多分、いつかは話さなくてはいけないと考えており、そのタイミングを探っていたのだろう。
「伯父さん、話してくれてありがとうございます。父の心に、少しでも触れられたような気がします」
ネッドは若輩ながら、伯父の労をねぎらった。
「あ、そうだ。実は探索について、伯父さんにお願いというか、許可を得ておきたい事があるんですよ」
ネッドが、話題を変える。
「ほう、お前が願い事とは珍しい。何だね、話を聞こうじゃないか」
普段からいささか他人行儀な甥の頼みに、ガントは少し嬉しさを覚えた。ネッドは伯父に、ある特別な願い事を申し出る。
「なるほど、それは妙案だし、仕方あるまい」
ガントは、快くネッドの要望を聞き入れた。
四十年も前の事を恩義に感じて……。ゴワドン侯爵というのは、大変義理堅い人物のようだ。またネッドとしても、話を聞いた以上は無関心ではいられない。何せ、もし父が熱を出していなかったら、もし二人と一緒に出掛けて犠牲になっていたら、ネッドは生まれて来なかった事になる。
「私が何故、この話をしたかわかるか?」
欝々たるムードを振り払うかのように、ガントが問う。
「可能性は低いですが、もしかしたらゴワドン侯爵が来訪にあたって、僕の事を知り、声を掛けて来るかも知れない。その時、事情を知っていた方が都合が良いだろうって事ですね」
「あぁ、そういう事だ。ただなぁ、お前が王都で騎士をやっていた時、話しかけられる事はなかったのか?」
甥の的確な答えに満足しつつも、ガントは新たな疑問を投げかけた。
「……ないですね。騎士と執行省の間には、余り繋がりがないですから。それにライザーっていう苗字は珍しくもないですしね。これは推測ですが、子供って、苗字より名前の方を優先して覚えるでしょう?
当時の侯爵も、アルベルトという名前しか知らなかったんじゃないのかなぁ」
「そうかも知れないな。いずれにせよ、事が終るまで、一応今の話を心の隅にでも置いておいてくれ」
ガントが、話をまとめに入った。
「ところで、亡くなったマリオンのお父さんはどうなったんですか? 父がガナレットさんの話をする時、幼い日の憧れのような目をしているのと同時に、すごく悲しい目をしていたのを子供心にも覚えています」
ネッドの問いに、若干の沈黙を過ごした後、ガントは苦しそうにつぶやく。
「……死んだよ。マリオンの葬式が終って、一ヶ月くらいたった頃かな。リルゴットの森の泉に身を投げたんだ。
遺書があってな。ギルドマスターの一族として、当時スタッフ見習いだった私もそれを読んだ。
”息子の罪を知るにあたり、せめてもの償いをする。息子の魂が救われんことを切に祈る"
と書いてあったよ。短くも印象的な言葉だったから、ハッキリと憶えている」
ガントの眉間のシワが、いっそう深く刻まれた。
「情の深い、責任感のとても強い男だったよ。ゴワドン侯爵が、全てにおいて責任を問わないと言ったにもかかわらず、やはり子息を危険な目に合わせてしまった事を気に病んでいたのだろう。
当時、事情を知る者は皆”マリオンに罪はない。神父も、子供の魂は天国に召されているに違いない”と言って、一生懸命に彼を励ましたんだがな……。ガナレットは首を横に振って、只うつむくだけだった」
悲劇の連鎖に、ネッドの胸は締め付けられる。父がそんな過去を持ち、ずっと苦しんできた事など想像だにしなかった。
「話はこれで終わりだ。だからと言って、お前にどうしてくれというわけではないんだが、話すのにいい機会だと思ってな」
ガントはは少し、後ろめたいような顔をした。多分、いつかは話さなくてはいけないと考えており、そのタイミングを探っていたのだろう。
「伯父さん、話してくれてありがとうございます。父の心に、少しでも触れられたような気がします」
ネッドは若輩ながら、伯父の労をねぎらった。
「あ、そうだ。実は探索について、伯父さんにお願いというか、許可を得ておきたい事があるんですよ」
ネッドが、話題を変える。
「ほう、お前が願い事とは珍しい。何だね、話を聞こうじゃないか」
普段からいささか他人行儀な甥の頼みに、ガントは少し嬉しさを覚えた。ネッドは伯父に、ある特別な願い事を申し出る。
「なるほど、それは妙案だし、仕方あるまい」
ガントは、快くネッドの要望を聞き入れた。
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