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昔語り
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ギルマス手ずから入れた紅茶をすすりながら、遠慮がちにネッドが尋ねる。
「単刀直入に言おう。さっきの話の中で、王都から人が派遣されて来ると言ったろう? その責任者が、実はゴワドン侯爵なんだ」
伯父の言葉を聞き、ネッドは定めし高そうなティーカップを落としそうになった。
「えっ!? なんで、あの方が……」
ネッドは、思わず叫んでしまった。
それもそのはず、侯爵と言えば貴族の中でも王族を除く最上位であり、ゴワドン侯爵は王の信頼も厚い執政省の幹部である。今回のような事案において、自ら出張るような立場の人間ではない。
「いや、お前の言う通り、私も驚いたよ。ただ”ある事情”を知っていれば、全く理解できない話じゃないんだな、これが」
ネッドは更に困惑する。てっきり王都で騎士を務めていた自分に、事の推測をさせるため呼ばれたのだと思ったからだ。
「実はな……。そのゴワドン侯爵。私の弟、すなわちお前の父親と、浅からぬ因縁があるんだよ」
ネッドは、ビクンとする。
彼の父親、アルベルト・ライザーは、やはり腕の良い魂石を使う機能付加職人であり、ネッドが十五歳の時に不慮の死を遂げている。まだ四十半ばであったが、中堅どころとしては、国全体で見ても群を抜く腕ききの職人であった。
”父親とは上手く行っていた”と、胸を張って言えるわけではない。職人の跡を継ぐか、騎士を目指すかで悩んだ時期もあった。それでもネッドにとって父親は、今もって尊敬できる人物なのである。
「今から四十年前、先代のゴワドン侯爵が自身の領地から王都へ戻る途中、この街に滞在した事があるんだよ。本来なら素通りするはずだったんだが、リルゴットの森の近くで野盗に襲われてな。
まぁ、それ自体は護衛の兵が撃退したものの、大切な品物を載せていた荷馬車が破損してしまい、その修理の為に五日間、この街で足止めを食らってしまったんだ」
黙りこくるネッドを尻目に、ギルマスが話を続ける。
「当時、このギルド館の主は、お前のひいお爺さんが務めていたわけだが、領主さまからの依頼もあって侯爵ご一行のお世話をする事になったんだよ。
そして一行の中には、当時の侯爵の御子息であった今の侯爵さまもいて、その時は十歳くらいだったかなぁ……。ちょうとお前の父親と同じ年頃という事もあり、退屈まぎれのお世話係をアルベルトともう一人が仰せつかったのさ」
おかしいな、とネッドは思った。侯爵子息の世話係なんて、これは大変名誉な話である。しかしネッドは、父親からその話を聞いた記憶がまるでない。
「そんな話、初耳ですよ」
ネッドは、正直に言った。
「それはな、理由があるんだよ。アルベルトが、話したくなかった理由がな」
「単刀直入に言おう。さっきの話の中で、王都から人が派遣されて来ると言ったろう? その責任者が、実はゴワドン侯爵なんだ」
伯父の言葉を聞き、ネッドは定めし高そうなティーカップを落としそうになった。
「えっ!? なんで、あの方が……」
ネッドは、思わず叫んでしまった。
それもそのはず、侯爵と言えば貴族の中でも王族を除く最上位であり、ゴワドン侯爵は王の信頼も厚い執政省の幹部である。今回のような事案において、自ら出張るような立場の人間ではない。
「いや、お前の言う通り、私も驚いたよ。ただ”ある事情”を知っていれば、全く理解できない話じゃないんだな、これが」
ネッドは更に困惑する。てっきり王都で騎士を務めていた自分に、事の推測をさせるため呼ばれたのだと思ったからだ。
「実はな……。そのゴワドン侯爵。私の弟、すなわちお前の父親と、浅からぬ因縁があるんだよ」
ネッドは、ビクンとする。
彼の父親、アルベルト・ライザーは、やはり腕の良い魂石を使う機能付加職人であり、ネッドが十五歳の時に不慮の死を遂げている。まだ四十半ばであったが、中堅どころとしては、国全体で見ても群を抜く腕ききの職人であった。
”父親とは上手く行っていた”と、胸を張って言えるわけではない。職人の跡を継ぐか、騎士を目指すかで悩んだ時期もあった。それでもネッドにとって父親は、今もって尊敬できる人物なのである。
「今から四十年前、先代のゴワドン侯爵が自身の領地から王都へ戻る途中、この街に滞在した事があるんだよ。本来なら素通りするはずだったんだが、リルゴットの森の近くで野盗に襲われてな。
まぁ、それ自体は護衛の兵が撃退したものの、大切な品物を載せていた荷馬車が破損してしまい、その修理の為に五日間、この街で足止めを食らってしまったんだ」
黙りこくるネッドを尻目に、ギルマスが話を続ける。
「当時、このギルド館の主は、お前のひいお爺さんが務めていたわけだが、領主さまからの依頼もあって侯爵ご一行のお世話をする事になったんだよ。
そして一行の中には、当時の侯爵の御子息であった今の侯爵さまもいて、その時は十歳くらいだったかなぁ……。ちょうとお前の父親と同じ年頃という事もあり、退屈まぎれのお世話係をアルベルトともう一人が仰せつかったのさ」
おかしいな、とネッドは思った。侯爵子息の世話係なんて、これは大変名誉な話である。しかしネッドは、父親からその話を聞いた記憶がまるでない。
「そんな話、初耳ですよ」
ネッドは、正直に言った。
「それはな、理由があるんだよ。アルベルトが、話したくなかった理由がな」
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