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婚約者の座
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二人は先を争うように、林の奥にある開けた原っぱを目指す。そして到着と同時に、シャミーから渡された結界杭を所定の場所に打ち込んだ。
設置位置が条件を満たした途端、自動的に直径五十メートルほどあるドーム状の結界が展開する。なかなか優れた一品のようだ。
「さぁて、ネッドの婚約者なんて、ふざけた主張を取り下げるんなら今の内よ」
メルはそう言いながら、腰に付けたミドルソードをスラリと抜いた。
「それはこちらのセリフですわ。あなた、魔王の娘に本気で勝つつもりですの?」
負けじとアリシアも、魔力増幅用のナイフを両手に構える。
恐ろしい程の緊張感が、結界の中を支配していた。その場にある草花も、激烈な戦いが始まる事を予感しているようである。
「せいや!」
先手を取ったのはメルであった。目にもとまらぬ速さで、一瞬の内にアリシアへと迫る。メルの持ち味はこのスピードで、盾を使わぬミドルソード持ちなのもその為である。
たかがダークエルフとなめていたアリシアが、思わぬ攻撃に後ずさりをするがもう間に合わない。発動しようと準備を始めていた攻撃魔法を急遽解除し、両手のナイフを交差させ臨時の防御結界を張った。
「ふん、そんなもの」
メルは速度を乗せた剣を振るい、結界を正面から打ち砕く。その上で体を反転させ、よろめいたアリシアの脇腹に蹴りを打ち込んだ。
しかし必殺の一撃が決まろうとした時、アリシアの体が一瞬紫色に光り、メルの蹴りが空を切る。攻撃が不発だった反動からバランスを崩すメルだったが、持ち前の反射神経で片膝をつきながらも辛うじて防戦体制を整えた。
「なるほど、正体を現したってわけね」
そうつぶやくメルの前には、角と尻尾を出現させたアリシアの姿があった。
危なかった。もし悪魔の姿に戻って本来の素早さを発揮していなかったら、勝負は既に決していただろう。アリシアは、眼前の敵を見て肝を冷やす。
「あんな蹴り、かわすのに造作もありませんわ」
アリシアが、強がりを言う。
「ふーん、じゃぁ何で、悪魔の姿に戻ったのよ。そうしなきゃ、避けられないって踏んだからでしょ」
メルが、図星をつく
「勘違いしないでほしいものですわね。ライオンはネズミを狩るのにも、全力を尽くすって言葉を知りませんの?」
「はぁ~? 誰がネズミだ誰が!」
立ち上がり、再び攻撃態勢を取ったメルがツバを飛ばす。
「それじゃあ、次はこっちの番ですわ。まぁ、殺しはしないので安心してくださいな」
魔王の娘が交差したナイフに息吹をかけると、そこに暗黒の炎が揺らめき始めた。
「あんた、何か勘違いしていない?さっきの攻撃が、私の全力だなんて思っていないわよね」
アリシアを牽制するかのような言葉を吐き捨てた後、メルは再び疾風の獣と化す。
「あなたの全力がどうかなんて、私には関係ありませんわ!」
悪魔の姿に戻り、こちらも全力を出せるようになったアリシアは、その恩恵をフルに使って素早く横にステップを切った。
「甘いな!」
次の瞬間、メルはほぼ直角に向きを変えた。慣性の法則に縛られ、本来ならそのような動きが出来るわけがない。しかし、彼女の真骨頂はここにある。メルは、同法則を一時的に無効化する魔法を使っているのだった。
いっけん無茶苦茶に思えるかも知れないが、浮遊の魔法など物理法則を無効化する魔法は珍しくない。そして、単に慣性の法則を無視するだけなら大した意味はないが、メルのスピードと組み合わさった時、この魔法は甚大な効果を発揮する。
メル自身が、強力な追尾機能付きの電撃魔法になったかの如く、その刃がアリシアに迫る。
設置位置が条件を満たした途端、自動的に直径五十メートルほどあるドーム状の結界が展開する。なかなか優れた一品のようだ。
「さぁて、ネッドの婚約者なんて、ふざけた主張を取り下げるんなら今の内よ」
メルはそう言いながら、腰に付けたミドルソードをスラリと抜いた。
「それはこちらのセリフですわ。あなた、魔王の娘に本気で勝つつもりですの?」
負けじとアリシアも、魔力増幅用のナイフを両手に構える。
恐ろしい程の緊張感が、結界の中を支配していた。その場にある草花も、激烈な戦いが始まる事を予感しているようである。
「せいや!」
先手を取ったのはメルであった。目にもとまらぬ速さで、一瞬の内にアリシアへと迫る。メルの持ち味はこのスピードで、盾を使わぬミドルソード持ちなのもその為である。
たかがダークエルフとなめていたアリシアが、思わぬ攻撃に後ずさりをするがもう間に合わない。発動しようと準備を始めていた攻撃魔法を急遽解除し、両手のナイフを交差させ臨時の防御結界を張った。
「ふん、そんなもの」
メルは速度を乗せた剣を振るい、結界を正面から打ち砕く。その上で体を反転させ、よろめいたアリシアの脇腹に蹴りを打ち込んだ。
しかし必殺の一撃が決まろうとした時、アリシアの体が一瞬紫色に光り、メルの蹴りが空を切る。攻撃が不発だった反動からバランスを崩すメルだったが、持ち前の反射神経で片膝をつきながらも辛うじて防戦体制を整えた。
「なるほど、正体を現したってわけね」
そうつぶやくメルの前には、角と尻尾を出現させたアリシアの姿があった。
危なかった。もし悪魔の姿に戻って本来の素早さを発揮していなかったら、勝負は既に決していただろう。アリシアは、眼前の敵を見て肝を冷やす。
「あんな蹴り、かわすのに造作もありませんわ」
アリシアが、強がりを言う。
「ふーん、じゃぁ何で、悪魔の姿に戻ったのよ。そうしなきゃ、避けられないって踏んだからでしょ」
メルが、図星をつく
「勘違いしないでほしいものですわね。ライオンはネズミを狩るのにも、全力を尽くすって言葉を知りませんの?」
「はぁ~? 誰がネズミだ誰が!」
立ち上がり、再び攻撃態勢を取ったメルがツバを飛ばす。
「それじゃあ、次はこっちの番ですわ。まぁ、殺しはしないので安心してくださいな」
魔王の娘が交差したナイフに息吹をかけると、そこに暗黒の炎が揺らめき始めた。
「あんた、何か勘違いしていない?さっきの攻撃が、私の全力だなんて思っていないわよね」
アリシアを牽制するかのような言葉を吐き捨てた後、メルは再び疾風の獣と化す。
「あなたの全力がどうかなんて、私には関係ありませんわ!」
悪魔の姿に戻り、こちらも全力を出せるようになったアリシアは、その恩恵をフルに使って素早く横にステップを切った。
「甘いな!」
次の瞬間、メルはほぼ直角に向きを変えた。慣性の法則に縛られ、本来ならそのような動きが出来るわけがない。しかし、彼女の真骨頂はここにある。メルは、同法則を一時的に無効化する魔法を使っているのだった。
いっけん無茶苦茶に思えるかも知れないが、浮遊の魔法など物理法則を無効化する魔法は珍しくない。そして、単に慣性の法則を無視するだけなら大した意味はないが、メルのスピードと組み合わさった時、この魔法は甚大な効果を発揮する。
メル自身が、強力な追尾機能付きの電撃魔法になったかの如く、その刃がアリシアに迫る。
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