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ややこしい口論

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「あぁ、そうそう、ネッドに用があって……って、今はそんな事どうでもいいわ。シャミー、この女、一体何なのよ。私を差し置いて、ネッドの婚約者とか言ってるわよ!」

ギルマスの用事を"そんな事”呼ばわりする、第三主幹・メル・ライザー。

「だから、婚約者だって言っていますのよ。頭の悪い女ですわね」

シャミーの答えを待たずして、アリシアが、カウンター越しにズイと身を乗り出した。

そのアリシアの迫力に、メルは少なからず違和感を覚えた。これは何だろうか? 

「ちょ、ちょっとどうしたんですの。ジロジロ見るなんて失礼ですわよ!」

メルのおかしな行動に、アリシアが困惑する。

「……ん? あんた……”悪魔”ね? 角や尻尾を隠してるでしょ? どうして悪魔がこんな所にいるわけよ」

「な、何をおっしゃいますの……!?」

悪魔の象徴を完璧に隠しているつもりのアリシアは、思いもかけないメルの言葉に驚いた。

「知らないの? ダークエルフは、化けた悪魔の正体を見破る能力があるのよ」

そうだった。アリシアは記憶の片隅をほじくり返す。もっともダークエルフは数自体が少ないし、目の前にいる女は明らかにそのハーフかクウォーターに見える。アリシアが重要な情報を失念していたとしても、それは何ら不思議ではなかった。

「うん、そうよ。自称、魔王の娘。お兄ちゃんの使い魔なの」

シャミーが補足する。

「はい~? 魔王の娘? そりゃ大きく出たもんね。あぁ、そうか。使い魔がご主人様に一目惚れちゃって、勝手に婚約者を気取ってるってわけね」

メルが嫌味たっぷりに、アリシアへ言葉を放り投げる。

「自称じゃないですわよ、自称じゃ! 

……あぁ、思い出しましたわ。確か小さい子供の頃にした他愛もない約束を、未だに信じてる頭のネジが一本ゆるんだ女がいるって、あれ、あなたの事だったんですわね」

「ネジが一本ゆるんでるですって? シャミー、あんたがそう言ったの!?」

アリシアの逆襲に、メルが矛先をシャミーに向けた。

「じ、事情は話したけど、ネジが一本緩んでるとは言ってないわよ」

トバッチリは御免とばかりにシャミーが応える。

「とにかくネッドの婚約者は私なんですから、あなたはスッこんでいてもらいましょうか」

「冗談じゃありませんわ。ネッドの婚約者は、魔王の娘であるこの私に決まっていますの」

二人の自称婚約者の間には、目に見えぬ業火が燃え盛っている。メルは剣の柄に手をかけ、アリシアは攻撃魔法を発動するポーズを取り始めた。

「ちょーっと! やるなら表でやってよね。ここで争われたら、店が壊れちゃうよ。お兄ちゃんが、メチャクチャになった店を見たらなんて言うと思う?」

両者の殺気を感じ取ったシャミーが、慌てて二人を止める。

「それもそうね。私とネッドの愛の巣を壊すわけにはいかないわ」

「愛の巣ですって? たかがダークエルフの小娘が、何を思い上っているんですの?」

メルの口撃に、アリシアが毒づく。暫し両者のにらみ合いが続いた後、二人は同時に叫んだ。

「表に出やがれ!」
「表に出やがれですの!」
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