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ずっとずっと待っている(現代)
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もう十年は過ぎた。
失った君。
あの日から、俺の時間は止まってるようなものだ。
それでかまわない。
この先なにがあろうとも、
あの日が人生で一番大事であることは変わらないだろうから。
「原田くーん。レジかわるから休憩してよ」
「あ、はい」
俺は28でコンビニ店員。一生このままかと思うとさすがに物悲しいというか、不安もあるというか。
だけど仕方ない。こうして近くにいることが少し幸せな気がするし安心するからこのままでいい。
俺は近くのバス停を見ながら昼食をとるのが日課だ。すぐそこにあるのがよくてここにいる。
じっと見て、十年前のあの日を思い出す。
迷ってた君を道案内して、探し物を一緒に探した。会ったばかりなのに話やすくてとても楽しかったのが鮮明に記憶にある。
そして、別れ際に紙を渡された。いつのまに書いたのか携帯電話の情報が書いてあったんだ。
すぐに登録はしたのだけど、すぐにメールすることができなかった。そうすれば、こんなことにならなかったかもしれない。
次の日、学校で携帯を見る姿が変だったのか、友人にからかわれ、携帯の取り合いをしてたら落としてしまう。慌てて拾うものの、携帯は壊れてしまった。
友人の謝罪が耳に入らないほどショックで停止して、その後あふれる涙。
一日だけの付き合いだったけど大切な人になった人の情報が消えてしまった。他にその人に繋がる情報を一切知らない。
その携帯電話はだいぶ悪くなってきていたから今回だけの問題じゃなくて、それなのにSDカードとかに情報をコピーしてなかったのが悪い。
それからだ。
出会った場所に何度も足を向かわせた。それでも会うことはなく、十年が経った。
このコンビニは君と別れたバス停の側。
待っているけど、偶然の出会いは二度も起こらない。
柚橋視点
もう十年も前のこと。
初めて行った街で出会って親切にしてくれた彼が忘れられない。
たった数時間の交流だったけど、別れの時は胸が苦しくなるほどの想いができた。
その時、携帯の情報を書いた紙を渡したのだけど、一度として連絡はなかった。
当然だろう。ただちょっと話が盛り上がっただけで、他人なのだ。
それでも忘れられなくて、あの街に何度も行ったけど、名前すら知らなくて会えるわけもなく。
お金のこともあって簡単にその街にも行けなくて、諦めようと考えた。
だけど何年経とうとこびりついて消えない彼の姿と声。
だから忘れることを諦めた。一生をかけて探そうと決める。
彼は学生服を着てたから、あの街にある学校を調べて住所と家の電話番号がわかり、今は家を出て一人暮らしでコンビニで働いているというところまで分かった。
そして今、そこに向かってる。
不安もあるけど気分は高揚してる。やっと会える。
すぐに会いたい。走り出したい。気持ちを抑えるも手が震える。
バスを降りてコンビニを探すと、すぐに見つかった彼。大人びてるけど彼だとわかった。駐車場にいて、こちらを見てる。
俺はその姿を見て口角が上がるのを止められない。
茫然としてるその顔は俺が近づくほどに驚き泣きそうな顔になる。
俺も泣きそうになってるかもしれない。
覚えてて、気づいてくれた。
それだけで幸せすぎる。
原田視点
君はいないと分かっていても、ぼんやりバス停を眺めてる。するとバスがやってきて一人が降りた。
バスが去っていくことによって、その人物の姿が見える。
…君?
そう感じる。はっきりとはわからないけど。だけど、その青年がまっすぐこっちに向かってきて、徐々に確信する。
あの時の君だ。
会えた。
嬉しいはずなのに胸が詰まったように苦しい。会えた。
「…久しぶり」
泣きそうな笑顔で声をかけてくれる。
俺を、覚えててくれた。
「…会いたかった…」
「俺も」
涙があふれてそれ以上何も言えなくなって、すぐ目の前の服を掴む。優しく背を撫でてくれる。
これからやっと知り合っていける。
十年も間があったけど、無意味な時間じゃなかったと思う。
お互いどれだけ大事な存在だと感じてるか、すぐにわかったから。
2012・1・4
失った君。
あの日から、俺の時間は止まってるようなものだ。
それでかまわない。
この先なにがあろうとも、
あの日が人生で一番大事であることは変わらないだろうから。
「原田くーん。レジかわるから休憩してよ」
「あ、はい」
俺は28でコンビニ店員。一生このままかと思うとさすがに物悲しいというか、不安もあるというか。
だけど仕方ない。こうして近くにいることが少し幸せな気がするし安心するからこのままでいい。
俺は近くのバス停を見ながら昼食をとるのが日課だ。すぐそこにあるのがよくてここにいる。
じっと見て、十年前のあの日を思い出す。
迷ってた君を道案内して、探し物を一緒に探した。会ったばかりなのに話やすくてとても楽しかったのが鮮明に記憶にある。
そして、別れ際に紙を渡された。いつのまに書いたのか携帯電話の情報が書いてあったんだ。
すぐに登録はしたのだけど、すぐにメールすることができなかった。そうすれば、こんなことにならなかったかもしれない。
次の日、学校で携帯を見る姿が変だったのか、友人にからかわれ、携帯の取り合いをしてたら落としてしまう。慌てて拾うものの、携帯は壊れてしまった。
友人の謝罪が耳に入らないほどショックで停止して、その後あふれる涙。
一日だけの付き合いだったけど大切な人になった人の情報が消えてしまった。他にその人に繋がる情報を一切知らない。
その携帯電話はだいぶ悪くなってきていたから今回だけの問題じゃなくて、それなのにSDカードとかに情報をコピーしてなかったのが悪い。
それからだ。
出会った場所に何度も足を向かわせた。それでも会うことはなく、十年が経った。
このコンビニは君と別れたバス停の側。
待っているけど、偶然の出会いは二度も起こらない。
柚橋視点
もう十年も前のこと。
初めて行った街で出会って親切にしてくれた彼が忘れられない。
たった数時間の交流だったけど、別れの時は胸が苦しくなるほどの想いができた。
その時、携帯の情報を書いた紙を渡したのだけど、一度として連絡はなかった。
当然だろう。ただちょっと話が盛り上がっただけで、他人なのだ。
それでも忘れられなくて、あの街に何度も行ったけど、名前すら知らなくて会えるわけもなく。
お金のこともあって簡単にその街にも行けなくて、諦めようと考えた。
だけど何年経とうとこびりついて消えない彼の姿と声。
だから忘れることを諦めた。一生をかけて探そうと決める。
彼は学生服を着てたから、あの街にある学校を調べて住所と家の電話番号がわかり、今は家を出て一人暮らしでコンビニで働いているというところまで分かった。
そして今、そこに向かってる。
不安もあるけど気分は高揚してる。やっと会える。
すぐに会いたい。走り出したい。気持ちを抑えるも手が震える。
バスを降りてコンビニを探すと、すぐに見つかった彼。大人びてるけど彼だとわかった。駐車場にいて、こちらを見てる。
俺はその姿を見て口角が上がるのを止められない。
茫然としてるその顔は俺が近づくほどに驚き泣きそうな顔になる。
俺も泣きそうになってるかもしれない。
覚えてて、気づいてくれた。
それだけで幸せすぎる。
原田視点
君はいないと分かっていても、ぼんやりバス停を眺めてる。するとバスがやってきて一人が降りた。
バスが去っていくことによって、その人物の姿が見える。
…君?
そう感じる。はっきりとはわからないけど。だけど、その青年がまっすぐこっちに向かってきて、徐々に確信する。
あの時の君だ。
会えた。
嬉しいはずなのに胸が詰まったように苦しい。会えた。
「…久しぶり」
泣きそうな笑顔で声をかけてくれる。
俺を、覚えててくれた。
「…会いたかった…」
「俺も」
涙があふれてそれ以上何も言えなくなって、すぐ目の前の服を掴む。優しく背を撫でてくれる。
これからやっと知り合っていける。
十年も間があったけど、無意味な時間じゃなかったと思う。
お互いどれだけ大事な存在だと感じてるか、すぐにわかったから。
2012・1・4
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