ツクチホ短編まとめ

はるば草花

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その後に1

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全寮制の男子校の風紀委員長をしている仲樹五流矢なかきいるやは苛立っていた。

最近、学園に転校生がやってきたのだが、その転校生は見た目がもっさりオタクなのに、無駄に大声な上、目上への敬語はないし、正義感があるようにみせて実は自分勝手な思考で、考えに合わなければすぐに手が出るという攻撃性があるような人間だ。

そんな人間なのに、学園の人気者達が次々と惚れていく。一匹狼と言われる者や、爽やかなスポーツ特待生に始まり、生徒会の役員達も。

そのことで、人気者達の親衛隊達は荒れ、制裁だなんだと学園は大荒れとなる。

さらに便乗か、不良達の行動も荒れるようになって、風紀はすこぶる忙しい状態となった。

生徒会役員は会長以外が転校生に惚れて取り巻きと化し、仕事を一切しなくなってしまう。

会長1人で仕事をすることは難しく、最近は期限ぎりぎりで書類が回ってきていた。

このままではよくないのだが、なかなか問題を解決することができない。

風紀委員長の仲樹はこれはもう無理だと生徒会長にリコールの話をしようと決めた。

会長は転校生の取り巻きではないが、よくない噂も出回っている。それを鵜呑みにはしないが、最近の会長の状況が分からない。

最近は、生徒会室が転校生とその取り巻き達の溜まり場になっていて、会長は寮の自室で仕事をしているとされているが、その姿を仲樹は見ていない。

3日ほど前に生徒会室にあるパソコンからメールがあったのが最後であり、連絡をとろうとしたが上手くいかない。

なので直接、強引に会うことにした。

ピピッと、電子音が響く。


「失礼する」


どこの鍵にも対応可能のマスターキーを利用して、会長の部屋の中へと入った。


「…ひどいな…」


部屋の中はたくさんの書類が散乱していた。

しかし会長の姿は見あたらない。

休憩しているかもと、寝室の扉を開く。

そこに、ベッドに横たわる会長を見つけた。

そのことに安堵した仲樹だったが、すぐに嫌な予感がして、側へと近寄る。

会長の顔はやつれ、疲労の色が濃く現れていた。そしてとても青白い。
仲樹は不安になって動きを確認しようとしたが、呼吸の為の動きをしていない。

まさかと思い、その身体に触れると異様に冷たい。仲樹は手が震えながらも首に手を当て脈を計る。

脈は止まっていた。仲樹の頭は真っ白になった。


そんな衝撃を仲樹が受けるほんの少し前、
生徒会長の倉見一風くらみいちかぜはぼんやりとした意識でふわふわと浮いていた。


ん?浮いてるってどういうことだと、周囲を見れば見知らぬ場所にいた。


「夢の中?というか、天国、とか…、はは、ないない」


白い雲のようなものが辺り一帯にあり、空はピンク。どこかキラキラしている。
そんな有り得ない場所なので、倉見は夢だと考えた。


「その通りだよー」


ゆったりした声が聞こえたと思えば、目の前に浮いてる人。


「……誰だ?」

「んー、単刀直入に言うと、天使? いや、死神のほうかな? そういう担当の者だよー」

「はあ…」


変な夢だと思う。だけど、ちょっとホラーな夢なら前に見たことはある。これも許容範囲だ。


「あー…、全然信じてないなー。まあ、普通自覚できないんだよね。しばらく時間が経過しないと。でも今は時間がないんだよ。クラミ」

「なにがだ」

「君はここに来る前のことは覚えているかな?」

「ここの前…」


すぐに思い出せなかったが、じょじょに記憶が蘇る。


「…あんまりにも身体がきついから、ちょっと休憩しようと、ベッドに横になったな。で、こんな夢を見てると。…少しだけ寝るつもりだったし、そろそろ起きないとな」


そう思うもどうやれば目覚めるのか。気合いだな、と気合いを入れてみるが一向に起きない。


「しょうがない、現実を見て理解してもらおう」


死神という男がそう言った途端、倉見は自分の部屋にやってきた。

ただし、ベッドの上でぐったりと動かない自分の身体と、その側にいる委員長の仲樹を上から見下ろすという形で。


「は……、…え?」


突然のことに倉見は混乱する。


「これで分かったと思うけど、ちょっと前に君、クラミくんは、過度の疲労で心臓が止まった」

「は?」


今もこれは夢と思っている倉見もあまりの展開に驚くしかない。


「それで、だけども君の運命だなんてことはない。なんでか分からないけどこれって予定外なんだよねー」

「………それって?」

「原因は分からないんだよね。それにこのままだとなんにせよ、天国に行くってことになる。それは嫌じゃない?」

「…わからないが、嫌だ」


予定外なんて言われて、夢だとしても納得できることじゃない。


「まあ、だよね。だから、今回はものすごく特別なんだけど、生き返らせてあげるよ。早いうちなら、簡単だしね」

「…なら、頼む」

「…ただ、今回のことは異例すぎる。生き返らせたとしても何があるか分からないから気を付けてね」

「………ああ」


倉見は夢でなく、現実なのだと思いはじめた。この状態で現実といっていいものか疑問であるが。
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